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第1章 朱の女 ー1ー

いろいろあって、ようやく執筆再開。

ゆるゆるで続けていきたいと思います。さて、こちらはファンタジーかつ戦闘たっぷりでおとどけしていきます。更新は不定期ですが、よろしくお願いします。

唸る。唸る。唸る。とにかく唸る。


 ここは、とある町の、とある酒場。酒場といっても、昼の間の営業時間は単なる食事処だ。夜ならば屈強な男たちや仕事終わりの人間達で大いに賑わうはずの店内は、今は旅の途中の商人や店内は木材の穏やかな香りと、所々で食べられている料理のかぐわしい匂いが充満し、嫌が王にでも食欲を刺激する。刺激する。刺激する。刺激しすぎて、若干胃の中がサイクロン。


 腹の減りは既に危ない領域に辿りつきつつある。変なモノが喉の奥からせり上がってくる気がするし、ひっこみすぎた腹は痛みすら伝えてくる。


 食べたい。とにかく、腹いっぱい食べたい。食べ過ぎて腹痛で運ばれたいくらいに食べたい。


 だがしかし。だがしかし!!


 一本の木を削って造られたであろう素晴らしい職人技のカウンターテーブルの上に、目の前に置かれた硬貨の枚数は――。



 1ルク、2ルク、3ルク、4ルク、5……5……5………



 認めたくない。認めたくないッ!! だが、どう数えても、何度数えても、硬化の枚数は増えることはなく、増えるのは虚しさばかりだ。

 壊れたように5……5……5……と呟く声を、周りのごつい男たちは、鬱陶しさが1割、怪しさ3割、そして憐れみ6割に加え何とも言えない優しい眼で視界に収める。

 その行動と並べられた硬貨から、有り体に言ってしまえば、簡単に、簡潔に、端的に言って金がないのは理解できる。


 しかし、ここは食事処。楽しく食事をするところだ。時折客同士のいざこざや、客と店員とのいざこざはあれど、虚しく呟き続けるだけの人間を咎める者達がいないわけではない。

 食べる気がないなら失せろ、と。


 先ほどから――正確に言えば10分以上前から同じ行動を繰り返すのを誰も咎めないのは、その外見があまりにも――話しかけたり、近づいたりするのを躊躇ってしまうほど、妖しいからに他ならない。


 背丈はひょろりと高く170㎝の半ば程はあるだろうか。裾がボロボロになり、所々破けている灰色のフード付きのローブ、相当な長い距離を旅してきたのか、無事である部分も相当によれよれになっており、もうそれローブじゃなくなるんじゃね? という状態である。フードを目深に被り、眼の位置が完全に隠れてしまっているため、表情も読み取れず――とりあえず有り金に絶望しているのだけは伝わってくるが、格好と相まって更なる妖しさを伝えてくる。

 

 そして、何よりもその不気味さを際立たせているのが、壁際に立てかけてある、その身長に迫るかと言う大きさを持つ、直方体の取っ手の付いた木のケースだ。

 

ただ大きいだけではなく、幅が、厚みが、まるで人が一人入れるかのようなブ厚さなのだ。表面には、赤みがかった金に鈍く光る装飾が中心から外に、まるで血管のように彫り込まれており、その中心には周囲からより引き立てられる紅い華とそれを飾る銀。ケースそのものに価値はなくとも、その装飾をはがして売るだけでそれなりの金額になりそうな――言ってみれば窃盗の対象になりそうなほどの代物だった。



 一部の荒くれ者たちから向けられる視線を気にも留めず――留める余裕がないのが正解だろうが、その人物は相変わらず手元の硬貨とにらめっこ。


5ルクといえば、お昼のランチメニューにぎりぎり届かないレベルの金額だ。勿論、それ以下のメニューはあるにはあるが、どれも一品料理ばかり。とでも腹を満たすレベルにまではいかない。しかも、全財産となれば、その後をどうするかと言う問題が出てきてしまう。しかし、腹を満たさなければいずれのたれ死ぬのが関の山。


目下の危機をとるか、未来をとるか。二者択一。究極の選択である。


「ちょっと、いつまでもみみっちいことしてないで、さっさと注文してくれないかしら。ここはご飯を食べるところであって、お金を眺めるところじゃないの」


 見かねた一人の女性が――エプロンを付けていることから、この店のウェイターであるとわかる――厳しい言葉と共に突っ込んできた。その声に反応し、顔をあげる。


 ごもっともなご意見である。いくら眺めても目の前のおかねは増えないのだから。

 ボロボロのフードによって瞳は見ることができないが、体の向きで言葉に反応したことはわかる。しかし、視線と身体を彼女に向けても言葉を発することはなく、ただひたすらに目の前の硬貨とウェイターの間に目線を落とし、せわしなく動かすだけだ。


 困っているのはわかるが、話しかけてもなにも返事が返ってこないというのは中々に苛立つのか、お盆を片手にこめかみに青筋を浮かび上がらせている。


「……あのね、せめて人の話を聞く時くらいフードを取ったらどう?」


 既にぼろぼろになって、フードの役割が半ば果たされていないそれを、あいている手で強引に振り払う。


 一斉に店内全員の視線がフードの人物へと注がれる。店に入ってきた瞬間から、その風貌に興味が集まっていたのだ。座ってからもただ硬貨を数えるだけ。幽鬼的な異様な雰囲気を醸し出しつつ、傍らの荷物がやたらに豪華。一体、どんな人物かと、顔を隠しているのは醜い素顔をさらしたくないのか、それとも、別の理由なのか――。


 そして、視界を、艶やかなアカが埋め尽くしていく。




 いや、視界ではない。見るモノを、その心を、その世界を、蹂躙するかの如く。




 世界の何処かで。あるいは片隅か、あるいはその中心か。




 アカの咆吼が轟いたことを知るモノは、まだ、いない。

まだ、主人公の名前がでず。もう少し後になります。

こちらはリハビリがてらの更新になるかな?

もう一つのメイドさんもよろしくお願いします。

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