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アドルフィーネとアドルフ 前 編(翼人族・衛生部隊所属)

アドルフィーネ視点

 (翼人族の世界観が少々出てきます)


本編 第6話 読了後推奨


※注意事項

この話は本編第6話までお読みの方を対象としています。本編をお読みで無い方には最後が少し分かりにくいかと思われます。ご了承ください。


こちらはいずれ本編に移動する予定のものです。御了承下さい。



 ――はあ、はあ、はあ、


 二人分の粗い息遣いと乱れた足音が薄暗い路地裏に響きわたる。


 月の光を受けて真っ白な翼が柔らかい光を反射する。


「アド、もう少しがんばって」


 一方に肩を貸し、引き摺るようにして必死に足を動かすのは少女。まだもうしばらくは女とは呼べぬだろう年頃の娘。そしてその少女に引き摺られるようにして歩くのは、少女とよく似た面差しをした少年。


 血のつながりを感じさせるその顔も、今は苦しげに歪められ、力を無くしたその身体はぐったりと少女にもたれかかる。青白く血の気の引いた顔から吐きだされる粗い呼吸だけが、少年の生を少女に感じさせた。


 遠くでかすかに足音が響くたび、少女は身体をビクリっと強張らせ、それこそが命をつなぐ唯一の方法であるとでもいうように、必死に少年の身体を抱きしめた。






     ※  ※  ※






 私はやっとこの間14歳になった。


 その日が来るのをアドと二人で随分前から楽しみにしてたの。


 それまでは危ないからって、村から離れての薬草の採集や狩りには連れて行ってもらえなかった。


 でもこれでやっと、お父さんと一緒に連れて行ってもらえるの。


 二年前までは、二人で自由に行けるのは安全な村の中と村のすぐ側の森の入口まで。


 そして昨日までは村のすぐ側に広がる森の中、半日ほど歩くと到着する小さな泉まで。


 村のすぐ側の森にはあまり強い魔獣は出てこないから安全だって。お父さんも、隣のおばさんもそう言ってたから、きっとそうなんだと思う。私も今まで見たこと無いし。


 でも、森に入る時は必ず弓矢と短剣を持って行きなさいって言われてるから、私もアドも薬草を採りに行く時はいつもちゃんと忘れずに持って行く。


 普段は他にどこも行けないけど、私もアドもちゃんと村の外に出たことだってある。


 まず、一年に一回、近くの村で集まって皆でするお祭り。五つの村が集まるから人が一杯になってすごく賑やかなの。


 このお祭りは五つの村が一年ごとに、順番にする事になってて、もう三回も行った事がある。去年、お父さんはこのお祭りでお母さんと出会ったんだよって教えてもらった。


 お母さんは随分前に死んじゃったけど、お父さんもいるし、隣のおばさんやおねえさんがいるから、ちょっとしか寂しくない。アドだっているしね。


 お父さんは私の頭をなでながら、フィーはお母さんにそっくりだから、きっと美人になるぞって言ってくれたんだ。


 今年はうちの村が当番なんだって。だから村の外へは行けないけど、でも、きっと楽しい。たくさんたくさんお手伝いするんだ。前に会ったミアちゃんとかユー君とまた会えるかな。


 一度だけだけど、もっとすごい所にも行った事がある。村から一番近い町。そこは人がお祭りみたいにたくさんいて、でもお祭りじゃないんだって。


 馬車から下りる時に翼人族用の羽まですっぽり隠れる上着を一人だけ着せられた。羽がある事は隠せないけど、色は誤魔化せるからってお父さんが言ってた。


 何でアドは着なくてもよくて私だけなのかよく分からなかったけど、お父さんが何でか恐い顔をしていたから少し暑かったけど何も言わずにちゃんと着た。


 食べ物や綺麗な布がお店で売ってて、他にも村には無いものがたくさんあった。ついフラフラしてたらお父さんに叱られた。アドがにやにや笑って見てたから、思いっきり足を踏ん付けてやった。ざまあみろ。


 普段のお父さんは、薬草やなんかを売る時は自分の羽で飛んで行くけど、今回は他の人から頼まれた荷物があったから、小さな馬車で町までやってきた。帰りにはいろいろ買うものも頼まれているらしい。


 折角の機会だからって、大人しくしてるならって私たちも連れてきてくれた。そろそろ勉強しておきなさい、だって。


 朝早く、まだ暗いうちに家を出て、急いで帰る。それでもお父さんは二時間くらい、ちゃんと私たちの為にいろいろ見せに連れて行ってくれたんだ。家に帰る途中で、私ははしゃぎ疲れて寝ちゃってたから後は良く覚えてない。


 でも次の日に、お父さんが買ってくれたリボンが枕元に置いてあったから夢じゃない事だけは確かめられた。


 私は他の村にもたくさん行ったし、町にだって行った事がある。だからもう、村の外に出たってきっと大丈夫。


 もう充分にお父さんの薬草採集だって手伝える、狩りだってきっと出来る。


 昔、死んだお母さんに教えてもらったおまじない。眠る前に枕をポンポンポンって叩いてお願いするの。そうするときっと神様が見ていて、いい子にしてるとお願いを聞いてくれるんだって。


 でも、悪い事をすると逆にお仕置きされちゃうから、絶対いい子にしなきゃ駄目なんだって。


 今日は久しぶりにお母さんに教わったおまじないをして寝ることにする。明日はちゃんとお父さんのお手伝いが出来ますように。それから、アドよりはほんのちょっとだけ、たくさん薬草が採れますように。






     ※  ※  ※






 なんでこんな事になったんだろう。


 すぐ近くで鉄の嫌な匂いがする。地面に羽がたくさん散らばってて………私の好きな薄い茶色。


 ………お父さんの色。


 私に抱きつく温かいもの。生れる前から一緒だった、私の半身(かたわれ)


 それがどうして、お父さんから私を遠ざけようとするの。


 まって、お父さん、お父さんっ!


 聞こえてるはずなのに………いつもみたいに笑ってよ、いつもみたいに頭をなでて。


 もう大きくなったんだから子供扱いしないでって膨れて見せてたけど、本当は温かくて大きな手で撫でられるのがとっても好きだったの。


 もう嫌がって見せたりしないから。


 だから、ねえ、おとうさん……。








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