ドラえもん哲学 多元的ドラえもん
国民的アニメドラえもん。
老若男女を問わず、おそらく知名度100%。
さて、そんなドラえもんの。
誕生エピソードを正しく、語る事ができるだろうか。
作られた時に、ネジが1本抜けてしまったんだよね。
それが原因で電子頭脳に欠陥があって、アウトレットになってしまった。
そうそう、工場に雷が落ちたから、起きた事故なんだよね。
……雷?そんなのあったっけ?
ドラえもんとドラミちゃんは、同じオイルを使ってるから兄弟なんだけど。
工場長が出来のいいロボットの為に取っておいた。
とびっきりの高級オイルを、2人に使ったんだけど。
保管してる間にオイルが分離してて。
上澄みのうっすい部分で作られたのがドラえもん。
沈殿した濃い部分で作られたのがドラミちゃん。
だから2人は兄弟なのに出来が違うんだよね。
……オイル?そんなのあったっけ?
元々ドラえもんは体が黄色で、ネコ耳もあったんだけど。
昼寝してる時に、本物のネズミに耳をかじられて。
何かをかじる音がしたから、僕にも食べさせて、と飛び起きたドラえもんが。
自分の耳がなくなってしまった事に気付いたショックで、三日三晩大声で泣き続けた結果。
涙で黄色い塗装が落ちて、声もガラガラになってしまった。
それ以来ネズミが大嫌いになってしまったんだ。
え、違うよ。
齧ったのは本物のネズミじゃなくて、ネズミ型の工作ロボットだよ。
セワシ君がドラえもんを粘土で表現しようとしたけど。
耳が上手に作れなかったから、工作ロボットに本物と同じにしてって命令したら。
ロボットが粘土を本物と勘違いして、ドラえもんの方の耳をボロボロにしちゃったんだよ。
そしてドラえもんが泣いた理由が、ちょっと抜けてるよ。
ドラえもんは元気の元ってひみつ道具で、立ち直ろうとしたんだけど。
間違ってよく似たひみつ道具の、悲劇の元を飲んじゃったせいで。
泣くのをやめることができなかったんだよ。
……工作ロボット?
……悲劇の元?
そんなのあったっけ?
読者の皆様はこのやりとり。
それぞれどっちが正しいかお分かりだろうか。
ちなみに正解は、どっちも正しい、となる。
なんでそんな事が起こるのか、きちんと説明できるなら。
貴方はドラえもん学の、実に有望な学徒だ。
実はこれ。
先に語って疑問を浮かべる方が原作知識で。
後からだよねと言ってる方がアニメ知識だ。
そもそもドラえもんという作品は。
非常に複雑な構造をしている。
掲載誌は当時小学館から刊行されていた月刊誌の。
小学一年生から六年生までに加えて、コロコロコミックでも連載。
低学年向け掲載誌ではわかりやすいギャグ中心のエピソード。
高学年向け掲載誌では凝ったSF・社会風刺絡みのエピソード。
と掲載誌の特徴に合わせた、味付けがなされている。
因みに本題と関係ないが。
原作者の、藤子・F・不二雄先生は。
月刊誌とはいえ7本と、さらに別連載を抱えていた事になる。
ある種、週刊連載を超える激務の中で、ご執筆されていた訳だ。
閑話休題。
というわけで。
掲載誌毎に別々の第1話が存在している。
なんなら年度末毎に最終話があって。
翌月にはまた別の「第1話」が始まったりする。
更にそれら原作コミックに加えて。
ドラえもん百科、という書籍が存在する。
タイムマシンは120万円とか、ひみつ道具の値段の設定もコレ出典だ。
因みにこれの筆者は方倉陽二先生だ。
藤子先生の元アシスタントという経歴を持つ。
のんき君を代表作に持つお方だ。
当時、人気のあったコンテンツには、よくこういった百科が作られた。
しかしその実態は、二次創作に近い形のもので。
原作者が監修しないまま、付随する設定を第三者が考案。
そして1冊の本にソレをまとめた、というのが常態化していた。
ウイングガンダムゼロの「銀河系を破壊する」とかいう設定も、こういう経緯によるものだろう。
ちなみにガンダムの公式設定は、映像作品が基本なので、こういうものは信用できない。
さて。
では、ドラえもん百科は公式かというと。
小学館が公式に発行した書籍なので、当然に公式設定だ。
詳しい人なら、ドラえもんは体重129.3kgなのに、走ったりして建物とかは大丈夫なのかと、聞かれたら。
実はドラえもんは反重力で3mm浮いてるから大丈夫なんだよ、と答えられるが。
あの設定の出典も、この百科だったりする。
95年公開の映画「2112年ドラえもん誕生」も。
百科設定を取り入れた原作者監修のものだ。
逆輸入の形で原作にも設定が登場したり、相補的な面もある。
そしてまだある。
最大の媒体、アニメ設定。
これには独自のエピソード・設定も多い。
ドラえもんズというキャラが、90年代中頃に存在した。
コレもアニメオリジナルの設定だ。
ただし原作へのリスペクトに欠けるとして、今では存在がなかった事にされているが。
そして原作・百科・アニメに加えて。
更に設定の途中変更もある。
元々ドラえもんは原子炉が動力とされていた。
実は当時の日本では、原子力はかなり肯定的な目で見られていた。
黄金バットの今では規制音を入れないと放映できないエピソードも、放射線の扱いが科学的根拠のないものだからだったりする。
しかしそんな風潮も、チェルノブイリ原発事故で一変。
原子力=けしからん気運は高まり。
今ではドラえもんの動力は、謎のエネルギー炉とされている。
もっと言うと、先述の反重力設定も。
PTAからの、裸足で中も外も歩くドラえもんは汚い(から子供が真似しないようにやめろ)。
なんて抗議に対する反論で生まれたもの、だったりする。
ちなみに、世界的にも大人気で、各国でローカライズされている。
もっとも、子供の教育に相応しくない言動は、全てカットされているので。
海外の人はあの青狸を、完璧な聖人だと思ってるらしいが。
きみはじつにばかだなあ。
……とまぁ、この通り。
ドラえもんの世界は、非常に多元的だ。
いわゆるマルチパースという奴だ。
なのでドラえもんを語り出すと。
原作しか認めない原理主義派や。
百科設定の正典派。
わさドラを見て育つ急進派とか。
宗教学的側面を持ったり。
更には作品で取り扱われた問題から。
海底鬼岩城の戦いの背景にあった、冷戦の脅威や。
雲の王国の自然破壊の話題から、当時の環境問題等。
諸々の変更された設定は、何が問題とされたのか。
考古学的に、当時の社会背景が伺えたりする。
これらを筆者の、大袈裟な妄言だと思うなかれ。
実際に大学の講義として取り扱われて。
網羅的にドラえもんという作品をデータベース化しようとしたり。
寓話的に教育学として扱われたり。
工学的にドラえもんを実現しようとしたり。
学問の一分野として、実際に成立しているぐらいだ。
たかがマンガやアニメとは、簡単に切って捨てられない。
集積された歴史の重みが、ドラえもんにはある。
まずはドラえもんの特殊性について触れてみた。
筆者はこれから公開する短編で、実際にいくつか。
ドラえもんの事を、取り扱おうと思っている。
本気で取り組んだら、こんなに面白いという事を。
読者の皆さんにも知って欲しい次第だ。




