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ドラえもん哲学 多元的ドラえもん

作者: 忠柚木烈
掲載日:2026/04/24

 国民的アニメドラえもん。

 老若男女を問わず、おそらく知名度100%。




 さて、そんなドラえもんの。

 誕生エピソードを正しく、語る事ができるだろうか。


 作られた時に、ネジが1本抜けてしまったんだよね。

 それが原因で電子頭脳に欠陥があって、アウトレットになってしまった。

 そうそう、工場に雷が落ちたから、起きた事故なんだよね。


 ……雷?そんなのあったっけ?


 ドラえもんとドラミちゃんは、同じオイルを使ってるから兄弟なんだけど。

 工場長が出来のいいロボットの為に取っておいた。

 とびっきりの高級オイルを、2人に使ったんだけど。

 保管してる間にオイルが分離してて。

 上澄みのうっすい部分で作られたのがドラえもん。

 沈殿した濃い部分で作られたのがドラミちゃん。

 だから2人は兄弟なのに出来が違うんだよね。


 ……オイル?そんなのあったっけ?


 元々ドラえもんは体が黄色で、ネコ耳もあったんだけど。

 昼寝してる時に、本物のネズミに耳をかじられて。

 何かをかじる音がしたから、僕にも食べさせて、と飛び起きたドラえもんが。

 自分の耳がなくなってしまった事に気付いたショックで、三日三晩大声で泣き続けた結果。

 涙で黄色い塗装が落ちて、声もガラガラになってしまった。

 それ以来ネズミが大嫌いになってしまったんだ。


 え、違うよ。

 齧ったのは本物のネズミじゃなくて、ネズミ型の工作ロボットだよ。

 セワシ君がドラえもんを粘土で表現しようとしたけど。

 耳が上手に作れなかったから、工作ロボットに本物と同じにしてって命令したら。

 ロボットが粘土を本物と勘違いして、ドラえもんの方の耳をボロボロにしちゃったんだよ。


 そしてドラえもんが泣いた理由が、ちょっと抜けてるよ。

 ドラえもんは元気の元ってひみつ道具で、立ち直ろうとしたんだけど。

 間違ってよく似たひみつ道具の、悲劇の元を飲んじゃったせいで。

 泣くのをやめることができなかったんだよ。


 ……工作ロボット?

 ……悲劇の元?

 そんなのあったっけ?




 読者の皆様はこのやりとり。

 それぞれどっちが正しいかお分かりだろうか。

 ちなみに正解は、どっちも正しい、となる。


 なんでそんな事が起こるのか、きちんと説明できるなら。

 貴方はドラえもん学の、実に有望な学徒だ。


 実はこれ。

 先に語って疑問を浮かべる方が原作知識で。

 後からだよねと言ってる方がアニメ知識だ。


 そもそもドラえもんという作品は。

 非常に複雑な構造をしている。


 掲載誌は当時小学館から刊行されていた月刊誌の。

 小学一年生から六年生までに加えて、コロコロコミックでも連載。

 低学年向け掲載誌ではわかりやすいギャグ中心のエピソード。

 高学年向け掲載誌では凝ったSF・社会風刺絡みのエピソード。

 と掲載誌の特徴に合わせた、味付けがなされている。


 因みに本題と関係ないが。

 原作者の、藤子・F・不二雄先生は。

 月刊誌とはいえ7本と、さらに別連載を抱えていた事になる。

 ある種、週刊連載を超える激務の中で、ご執筆されていた訳だ。

 

 閑話休題。


 というわけで。

 掲載誌毎に別々の第1話が存在している。

 なんなら年度末毎に最終話があって。

 翌月にはまた別の「第1話」が始まったりする。


 更にそれら原作コミックに加えて。

 ドラえもん百科、という書籍が存在する。

 タイムマシンは120万円とか、ひみつ道具の値段の設定もコレ出典だ。


 因みにこれの筆者は方倉陽二先生だ。

 藤子先生の元アシスタントという経歴を持つ。

 のんき君を代表作に持つお方だ。


 当時、人気のあったコンテンツには、よくこういった百科が作られた。

 しかしその実態は、二次創作に近い形のもので。

 原作者が監修しないまま、付随する設定を第三者が考案。

 そして1冊の本にソレをまとめた、というのが常態化していた。


 ウイングガンダムゼロの「銀河系を破壊する」とかいう設定も、こういう経緯によるものだろう。

 ちなみにガンダムの公式設定は、映像作品が基本なので、こういうものは信用できない。


 さて。

 では、ドラえもん百科は公式かというと。

 小学館が公式に発行した書籍なので、当然に公式設定だ。


 詳しい人なら、ドラえもんは体重129.3kgなのに、走ったりして建物とかは大丈夫なのかと、聞かれたら。

 実はドラえもんは反重力で3mm浮いてるから大丈夫なんだよ、と答えられるが。

 あの設定の出典も、この百科だったりする。


 95年公開の映画「2112年ドラえもん誕生」も。

 百科設定を取り入れた原作者監修のものだ。

 逆輸入の形で原作にも設定が登場したり、相補的な面もある。


 そしてまだある。

 最大の媒体、アニメ設定。

 これには独自のエピソード・設定も多い。


 ドラえもんズというキャラが、90年代中頃に存在した。

 コレもアニメオリジナルの設定だ。

 ただし原作へのリスペクトに欠けるとして、今では存在がなかった事にされているが。


 そして原作・百科・アニメに加えて。

 更に設定の途中変更もある。


 元々ドラえもんは原子炉が動力とされていた。

 実は当時の日本では、原子力はかなり肯定的な目で見られていた。

 黄金バットの今では規制音を入れないと放映できないエピソードも、放射線の扱いが科学的根拠のないものだからだったりする。


 しかしそんな風潮も、チェルノブイリ原発事故で一変。

 原子力=けしからん気運は高まり。

 今ではドラえもんの動力は、謎のエネルギー炉とされている。


 もっと言うと、先述の反重力設定も。

 PTAからの、裸足で中も外も歩くドラえもんは汚い(から子供が真似しないようにやめろ)。

 なんて抗議に対する反論で生まれたもの、だったりする。


 ちなみに、世界的にも大人気で、各国でローカライズされている。

 もっとも、子供の教育に相応しくない言動は、全てカットされているので。

 海外の人はあの青狸を、完璧な聖人だと思ってるらしいが。

 きみはじつにばかだなあ。




 ……とまぁ、この通り。

 ドラえもんの世界は、非常に多元的だ。

 いわゆるマルチパースという奴だ。


 なのでドラえもんを語り出すと。


 原作しか認めない原理主義派や。

 百科設定の正典派。

 わさドラを見て育つ急進派とか。

 宗教学的側面を持ったり。


 更には作品で取り扱われた問題から。

 海底鬼岩城の戦いの背景にあった、冷戦の脅威や。

 雲の王国の自然破壊の話題から、当時の環境問題等。

 諸々の変更された設定は、何が問題とされたのか。

 考古学的に、当時の社会背景が伺えたりする。


 これらを筆者の、大袈裟な妄言だと思うなかれ。


 実際に大学の講義として取り扱われて。

 網羅的にドラえもんという作品をデータベース化しようとしたり。

 寓話的に教育学として扱われたり。

 工学的にドラえもんを実現しようとしたり。

 学問の一分野として、実際に成立しているぐらいだ。


 たかがマンガやアニメとは、簡単に切って捨てられない。

 集積された歴史の重みが、ドラえもんにはある。




 まずはドラえもんの特殊性について触れてみた。


 筆者はこれから公開する短編で、実際にいくつか。

 ドラえもんの事を、取り扱おうと思っている。

 本気で取り組んだら、こんなに面白いという事を。

 読者の皆さんにも知って欲しい次第だ。


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