20年前の謎の答え
僕は真田良太、色々な事があって仕事をやめた。嫌な事があってとかじゃない、何かこのままで良いのか?と言うもやもやした気持ちがあった。時間が出来た、すぐに仕事を探さなかったのはかなり余裕はあった。5月病なら、そりゃお金はないが、中年に差し掛かる年齢にふとこんな迷いが出る人って多分多いよな。
世間でこいつに名前を付けて欲しいものだ。そんな頻繁にあるか?と言うと僕はそういう話を残した他者に影響を受けたのがある。空いた時間で、刺激的過ぎず、かといってくだらなすぎずの微妙な事をしてみた。ネットで、ヘラジカを見たってなんかツチノコみたいな話だなと思ってた。
じゃくだらないじゃないか?だが、どこかで飼われていたものが逃げ出したのじゃないか?と言う考察があり、ツチノコよりはましだろうと、他にもニホンオオカミを見たとかいろいろあったので、その中では一番マシだろうと、実際アライグマとかヌートリアとか、逃げ出したものがちょいちょい日本で暮らしてる。
ネットの噂を見て勘違いからカピバラみたいなと思ったら、動画を見たらヌートリアだった。残念ながらヘラジカの動画は無かったので、直接見るかと、小屋を格安で借りれたので、それなりに長期滞在を見込んで山小屋でのキャンプ生活を堪能する事になった。
ただ、時期が悪かったのと、温暖化のこの時代に驚くほどの寒波が来てヘラジカどころじゃなくなった。僕はたまたま目撃情報があった場所に以前から山登りに来ていたので良く知った場所だった。それでもだ雪が降った良く知った場所は怖い。全く知らない場所に変わってしまった。こんな寒波に巻き込まれた事が無かった。
偶然と言うかヘラジカのおかげか長期滞在の準備をしていたので、食料は豊富にあった。そのため食料が危なくなったらリスクを冒せば良いと割り切って山小屋に籠る事にした。うーん本当にヘラジカどころじゃない。初日はなんとも思わなかったが数日たってやや不安になってきた。
いずれは危険を冒して下山しなくちゃいけないのじゃないか?と、そんなある日、小屋の前で少女が倒れていた。まだ暖かいし、息がある。そもそもなんか大きな音がしたので外に出た。クマの可能性が無かったか?と言うとカンとしか言いようがない…。リスク管理がなってなかったかな。
でも、結果オーライだ、折角間に合った命助けてあげたい。やがて彼女は回復した。
「大丈夫?」
「うん」
「まだ体調が戻ったばかりだし、言いたくなかったら言わなくて良い。それで良いなら何があったの?」
そういったら彼女は泣き始めた。それなりの時間彼女のすすり泣きの音だけが小屋を支配した。
「お母さんが」
「どうしたの?」
言わなくて良いと言いつつ、はぐれたら探しに行くの考えないと思って急いで聞いた。
「途中で死んでしまった…」
また彼女は泣きだした。泣き終えた彼女は、ぽつりぽつりと話し始めた。
「私は三井小夜、お父さんは離婚してお母さんと二人暮らし、お父さんが山登りが好きで、私が昔の話をしたらお母さんはそうでもないのにつれてきてくれた」
「落ち着いて、自分が原因だと思ってるなら、君は悪くない。子供は居ないが、それで寂しさがまぎれるならしてあげようと、君を大切に思ってる大人ならするよ」
通常寒さは子供の方が問題になる。子供は体温が高いが、体積が少ない。その点子供と言っても15,6の少女だったため、いろいろな要因でお母さんの方が先に参ってしまったのかな。事情は分かったのでそれ以上は聞かなかった。彼女にはすぐに山を下りるのは危険だと食料はあるから安心して欲しいと言い聞かせた。
結局何日も彼女と山小屋で過ごすことになった。かなり親しくなっていた。そんなある日なんでこんなもの持ってきたんだ?とこんな事になると思わずに、持ってきた爪切りを見た彼女が、
「ねえ爪を切って?」
??自分出来れば良いのじゃないか?と思ったが、これは多分何か彼女なりのメッセージだと感じた僕は切ってあげる事にした。そろそろ山を下りれないか?と無理をしないように周りを二人で散策する日が増えていて、今日もそんな散策から帰ってきた後だった。
「良いよ」
彼女の足を持った時足が冷たかった。凍傷になるほどじゃないが、やはりいろいろと不足している。ただ、暖かくした小屋の中でああ僕たちは雪山に閉じ込められてると言う現実を思い出した。良く分からないのだが、それと同時にこんな体験も悪くないとも思っていた。
しばらくして彼女はくすくすと笑った。
「あ、くすぐったかった?」
「ううん、違うよ」
「じゃなんで?」
「またこんな事があれば教えてあげる」
そんな風にして彼女はその理由を言わなかった。
数日して、天候が安定したので、僕らは思い切って下山を試みた。お母さんの死体は雪が解けてから警察に話して一緒に捜索してもらおうと言い聞かせた。これはちょっと自分でも抵抗もあった。嘘じゃないが、あまり暖かくなると腐敗するかもしれないからだ。でもそんな事言ってられない今僕たちも2体の死体になってしまう危険もあったからだ。
幸い天候は安定していて、無事に下山できた。それからいろいろあって僕たちは数年後に結婚した。僕は大丈夫だよな?と思いつつ、つり橋効果ってやつを思い出していた。
それから20年後、僕たちは無事つり橋効果でスピード離婚せずに今に至る。ある日経緯は忘れてしまったが彼女の爪を切っていた。彼女はくすくすと笑っていた。
「あ、くすぐたかった?」
「前にもこんなやり取りあったね」
「ええ???」
「ふふ、その時ね、また同じような事があればって、笑った理由を言わずに今度言うからって言ったの」
「ああ思い出した。聞きたい」
「ただね、幸せだなって思ったら自然と笑ってたの」




