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転生魔女と天才聖女 ~居場所をなくした私たち二人が、最強の相棒となって幸せを見つけにいく物語  作者: 汐柳伊織


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7.魔力測定 ~明かされる真実。それは……~

「それでは始めます」


「はい」


 どこかで見たことがあるような、神秘的だけれど、妖しげな雰囲気立ち込める魔法陣の中央に立ったわたし。


 二重に描かれた真円の、その狭間には、ジョアンナに教えてもらったこの世界の文字、それからこの神殿を管轄しているノルド聖教会で使われている神聖文字によって、いろいろなものが描かれていた。


「危険なことも痛みもいっさいありませんので、どうか心を落ち着けていてください」


「はい……」


 リラックスしていろってことなのだろうけれど、はっきり言って無理。

 さっきからドキドキしっぱなしで、どうにかなってしまいそうだった。


「アネット、ガンバ」


 そんなわたしの心を見透かしたかのように、少し離れたところから、にこにこ笑顔のリアが手を振っている。


 もう。

 でもお陰で気が紛れた。


 ジョアンナが神官の杖を床に置き、今度は代わりに、宝玉がちりばめられたゴツゴツした木の杖と、こちらも宝石みたいなのが付いている分厚い本を手に持った。


 えっと……何する気?


 やや緊張しながらも、わたしがそれをじろじろ見つめていることに気がついたのだろう。


 ジョアンナが説明してくれる。


「これは魔術師の杖と魔導書です。わたくしの家は代々、高位の術者を輩出している名門魔術師一族なのです。ですが、国や国教である聖教会の規則により、この国の貴族は定期的に持ち回りで、家から人を出さなければならないのです。そこで、末の娘だったわたくしが神殿入りすることになったのです」


「なるほど。そういう経緯があったのですね。だからいつもと違う杖を」


 お貴族様って脳天気に生きているだけなのかと思ったけれど、そういうめんどくさいしきたりもあるのね。

 市民権や名字すら持てない、わたしたち貧民とはやはり住む世界が違う。


「えぇ。そうですね。ですが、神官になったからといって、魔術師をやめなければならないという決まりもありませんから。ですからわたくしは、今でも普通に魔術師として活動しているというわけです。それが、この子たちを実家から持ち出し、手元に置いている理由のひとつです。昔から使っていて愛着があったから、というのもありますが」


 そう言って、ジョアンナが、手にした杖と魔導書を見せてくれた。


 大きくて分厚い魔導書の方は新書並みに綺麗だったけれど、杖の方は結構使い込まれていて、握りに巻かれた平革が独特の風合いを醸し出している。


 よく手入れされているように見えるし、それだけ大事にしているってことなのね。


 そんなことを考えながらしげしげと眺めていると、


「――少し話が長くなってしまいましたね。それでは早速始めましょうか」


「あ、はい」


 柔らかくなっていたジョアンナの表情が、わたしの返事を受け、再び引き締まった。


 いよいよこれから儀式が始まる。


 ゴクリと生唾を飲み込み緊張していると、杖を構えた彼女が詠唱を開始した。


 流麗で淀みなく流れる聖歌のような旋律。


 彼女の高くて綺麗な声色と相まって、聞いているだけで不思議と気分がよくなっていく。しかし――


 バチッ。


 突然、何かが爆ぜるような音が聞こえてきた気がする。


 心なしか、わたしの周りが一瞬だけ、明るく光ったような気がした――と、そう思った次の瞬間だった。


「なっ……」


 ジョアンナが切れ長の瞳を大きく見開き愕然とした。


 直径二メートルくらいの魔法陣を取り囲むように、いきなり冷たい風が吹き荒れる。


 さらに、わたしの小さな身体が台風の目となり、暴風吹きすさぶ乱気流を発生させた。


 眩い輝きまで放ち始める。


 わたしは、刻一刻と変化していく周囲の光景を前に、茫然としていることしかできなかった。しかし、


「これは……!」


 へ?


 轟音の向こう側にいたジョアンナが、突然、よくわからない顔で叫んだ。


 ……なんで驚いているの?

 ていうかこれって、どういう状態?

 さっき危険じゃないって言ったよね!?


「ジョ、ジョアンナ様……!」


 わたしはどうしていいかわからなくなって、身を縮こませた。


「大丈夫です……! そのまま動かないでください……!」


 暴風に吹っ飛ばされないように懸命に足を踏ん張って耐えている彼女だったけれど――


 全然説得力ないよっ。

 これのどこが大丈夫なの?

 魔力を調べるときっていつもこうなの!?


 思わずツッコミを入れてしまったけれど、それで事態が好転するわけではない。


 そうこうするうちに、目も開けていられないくらいの強烈な光を放っていたそれが、いきなり光量を減らし、色を変化させた。


 赤、青、黄色、緑、白、深淵を思わせる闇。


 目まぐるしく色合いが変化していき、やがてそれらすべてがひとつに混ざり合ったときだった。


「やはり……そうだったのですねっ……!」


 え……?


 さっきまであんなにも顔をしかめていたのに、なんだか興奮したように、ジョアンナが瞳を輝かせている。


 なんであんな顔してるの?


 不安に思ったわたしは、光の向こう側を見ようとして思わず息を飲んでしまった。


 摩訶不思議な光景が目の前に展開されていたからだ。


 周囲を渦巻く虹色の風の向こう側には、大小様々な魔法陣が宙に浮かび上がっている。


 床上(ゆかうえ)全方位目がけて、無数のそれが広がりを見せていた。


 中には、見たことがないような不可思議な文字や、針がぐるぐる回っている歪んだ文字盤みたいなものまで漂っていた。


「な……に……? これ……?」


 幻想的だけれど胸に圧迫感を覚える光景に圧倒されていると、いきなりそれらが「バァーンッ」と弾け飛んだ。


「きゃっ……!」


「ジョアンナ様っ」


 生じた爆風に巻き込まれて、後方へと吹き飛ばされてしまったジョアンナ。

 けれど、すべてが雲散霧散して再びその場に静寂が訪れたときだった。


「凄い……素晴らしいです、アネット! やはり……わたくしの予感は間違ってなどおりませんでした。あなたは……あなたはあの――偉大なるエルシーリア様の再来です!」


 そう叫んだ彼女の顔には、異常事態に対する恐怖など欠片も浮かんではいなかった。


 あるのはただ、興奮しきったような歓喜の笑みばかり。 


 両手を組んで、女神様に祈りを捧げるみたいな格好で恍惚と天を仰いでいる。


 わたしはそんな、見たこともないくらいに興奮しきった彼女を前に、ただただ呆気にとられることしかできなかった。






「おっほん」


 しばらくして。

 思いきり取り乱してしまったことを今更ながらに恥じているのか、色白のジョアンナの顔は真っ赤だった。


「えっと……あの、ジョアンナ様?」


「な、なんでしょうか……?」


 必死になって取り繕うとしているようだったけれど、全然いつものお澄まし顔に戻っていないのだけれど?


 ま、まぁいいや。


 とにかく、先程の儀式がいったいなんだったのか、何が起こったのかまるで理解できていなかったため、聞いてみることにした。


「あの、いまいち状況が飲み込めていないのですが、結局、儀式はどうなったのでしょうか? 失敗してしまったということでしょうか?」


 小首を傾げるわたしに、ようやく平静さを取り戻したジョアンナが、いつもの調子で凜とした表情を浮かべる。


「えっとですね。落ち着いて聞いてください、アネット。あなたの魔力は――異常です」


 え……? 異常って何?


「どういうことですか? 綺麗……とは関係ないのですか?」


「関係がないかどうかはわかりません。ですが、オル=レーリアが指摘していたあなたの魔力の質。それがわたくしたち一般人とは桁違いなのは間違いありません」


 桁違い? 何を言われているのかさっぱりわからなかった。


 さっき言ってたエルシーリアって人のことも理解不能。


 わたしの魔力っていったいなんなの?


 困惑していると、部屋中央にいたわたしたちにリアが近寄ってきて、わたしの右腕に絡みついてきた。


「アネットの魔力は綺麗。他の人は青とか赤とか、ただ色が付いているだけ。でもあなたのは違う。キラキラしてる。いろんな光が出てて、その中に、キラキラの粒、いっぱいあるのです」


 片言リアが珍しくいっぱい説明してくれた。


 なるほど。


 そういえば、さっき、たくさんの光がわたしの周りに出ていたけれど、あれも関係しているのかな?


 そんなことを考えていると、


「要するにです。魔力には属性が存在するということですね。そして、それに応じて、基本的にはひとつの光だけが放たれている。ですが、あなたの魔力は常に違う色に輝き、光の粒子を放っていました」


「え? それってつまり、さっきのあの光が、わたしの魔力と関係していたということですか?」


「えぇ。そのとおりです。そして、あなたと同じような性質の魔力を持っていた人物を、わたくしはたったひとりしか知らない」


 彼女はそこで一拍(いっぱく)おき、わたしの心を透かし見るようにした。そして、


「大魔女エルシーリア。四大系統魔法(しだいけいとうまほう)すべての開祖と言われる三大魔女のひとりにして、わたくしたち人族が操る魔術という名の魔法をこの世に生み出した、千年以上前に生きた偉大なる人物。アネット、あなたの魔力はあのお方のそれと瓜二つなのです」


 静かに告げられた事実と言葉の重み、そしてその意味が、徐々に心の奥底へと浸透していく。


 ……四大系統魔法と、その開祖……。

 大昔に生きていた魔法使い……。


 その人がどれほど凄い人物なのかはわからない。


 けれど、たったひとつのことだけは理解できた。それは――


「四つある魔法のひとつ――魔術というものを生みだした伝説上の人物とわたしが、似ているということですか……?」


「そうです。あなたは古の大魔女の再来と目されるほどの、上質で強大な魔力の持ち主だということです」


 明かされた真実を前に、わたしはしばらくの間硬直し、そして――絶句した。


 あまりに突拍子もない現実を突きつけられて、酷く頭が混乱していた。


 貧民で才能もない自分には無縁だとばかり思っていた魔法――あの魔術を、わたしでも使えるようになるってこと?


 リアと初めて出会ったとき、わたしの目の前には華やいだ世界が広がっていた。


 見上げる空に咲いていた、あの、光の花々。


 手を伸ばしても決して届かないと思っていた華やいだ光。


 わたしも……勉強すればいつか花火魔術(あれ)が使えるようになるってこと?


 事態の推移についていけず、ひとり茫然(ぽかん)となっていると、


「――さぁ、こうしてはいられません。もっと、もっといっぱい調べなくては!」


「へ?」


 わたしの混乱などまるで意に介した風もなく、どこか浮かれ気味のジョアンナが小躍りしていた。

 見たことがないくらいに右往左往している。


「え、えっと、あのっ……。し、調べるって、わたし、何されるんですか!?」


 ジョアンナとは違う意味で狼狽(ろうばい)するわたしに、


「魔術といえば、使い魔です。魔術師が唱える魔術の補佐をしてくれる、かけがえのないパートナーです。どのようなものが呼び出せるのか、非常に楽しみですね。ぜひ確認しなくては!」


 ……なんかめっちゃ興奮してる……ていうか、早口すぎる……!


「あぁ、それからそれから。あなたには今後、オル=レーリアの聖女訓練の時間と並行して、わたくしがみっちりと、魔術をお教えいたします! このような素晴らしい才をお持ちの方を埋もれさせるなんてもってのほかです。えぇえぇ、そうです。しっかりと教育しなければっ」


「へ?」


 どこか暴走気味のジョアンナを前に、わたしは呆気にとられることしかできなかった。


 自分の未来がどうなってしまうのかまったく予想できず、ただただ不安の色に押し潰されていくだけだった。


本エピソードをもちまして「新しい日常と魔力開示編」が終了し、いよいよ次話から「使い魔編」に突入いたします。

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