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【第1章完】転生魔女と天才聖女 ~居場所をなくした私たち二人が、最強の相棒となって幸せを見つけにいく物語  作者: 汐柳伊織


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6.魔力に秘められた謎と、大聖女様が繋いだ縁

 ――調べるって、今からわたし、何されるんだろう……。


 そんなことをドキドキしながら考えつつも、ひとりで着替えるのが苦手なリアを手早く正装――白を基調とした青の縦線が入った聖女候補専用神官衣に着替えさせてから、わたしたちは儀式場へと移動した。


 ここは、もともとは神官たちの修練場のひとつだったけれど、わたしが普段お掃除している裏庭の、さらに奥にある鬼門封じのような役割を果たしている場所ということもあり、気味悪がって誰ひとり、近寄ろうとしない。 


 なので、そういった理由から、皮肉にもリアにとってはこの古びた聖堂が、とても大切で特別な場所となっていた――ここ以外で、個人修練することが許されていなかったから。


 わたしたちは、そんな少し(ほこり)臭くてじめっとした部屋に入るなり、奥の方へと歩いていった。


 いつもならこの部屋で精神集中や儀式魔法、神聖魔法などの聖女修行を行っているのだけれど、今日は勝手が違った。


「それではアネット。まずはあなたのことを調べる前に、ちょうどいい機会ですので、言っておきたいことがあります」


 奥にある小さな祭壇に、ノルド聖教会唯一絶対神となる地母神アイシスを象った女神像が安置されている。


 左右の壁には小さな窓がいくつかあり、明かり取りの役割を果たしている。

 そんな、どこか厳かで陰鬱さを感じさせる部屋中央にわたしたちは立っていた。


「これまでの三週間。あなたのことは逐一、様子を見させていただきました」


「はい……」


 調べると言っておきながら、なぜか、お小言モードに入ってしまった。


 普段はおっとりとしているのに、怒ると結構怖いから質が悪い。


 お説教だけは勘弁して欲しい。


 わたしは、いつにも増して凜とした響きを伴う彼女の声色に、自然と身が引き締まった。


「率直に申し上げます、アネット。あなたは五歳とは思えないくらい本当に優秀で、しっかり者です」


「はい……え?」


 いきなり何を言われたのか理解できなくて、きょとんとしてしまった。


「教えたことは即座に覚え、実践してみせるその手際のよさ。掃除も料理も大人顔負け。まるで、中身が大人なのではないかと思うこともあります。本当に他の侍女官たちにも見習ってほしいものです」


「そ、そうですか?」


 ジョアンナ、相変わらず笑顔がないけれど、もしかして褒められている? 


 ていうか、え?


 一瞬ドキッとしてしまった。


 まさか、わたしの中身が正真正銘、大人だと見抜かれていないでしょうね?


 目の前のお姉さんが突然おかしなことを言い出したものだから、余計に緊張してしまった。


 けれど、ジョアンナはそれに気づいた風もなく、


「えぇ、本当にあなたは素晴らしい子です。その小さな身体でよくぞあれだけの仕事量を、毎日てきぱきとこなしてきてくれたものです。これまでよくがんばってくれましたね。ありがとう」


 そこでようやく、いつもの優しい笑みに戻った。

 わたしは少し恐縮しつつも、


「いえ、それがわたしの務めですから」


「そうですね。そのように教育を施したのはわたくしですから。ですが、だからこそときどき心配になってくるのですよ。それが負担となって、心身ともに壊れてしまわないかと」


「壊れる……ですか?」


「えぇ。ただでさえ、あなたは人一倍仕事量が多く、不慣れな場所での生活を余儀なくされているのです。わたくしの方でも補助できることはしておりますが――ですが、あなたにはさらに乗り越えなければならない壁がある」


 そう言って、意味深に見つめてくる。


 わたしは、ジョアンナが何を言いたいのか、すぐにわかった。


 出自が低い者への差別。


 大体いつもリアたちと一緒にいるから酷いことにはならないけれど、最初の頃はとにかくよく絡まれた、一緒にいてもいなくても。


 侍女官が暮らす宿舎にはわたしと同じように、辛く当たられている平民出身の女性たちがたくさん生活しているから、彼女たちからの八つ当たりも相当多かった。


 だけれど、今はもうそれはない。

 笑えるくらい、リアが全部追っ払っちゃったからね。


 もちろん、陰口程度の嫌がらせは現在も続いているけれど、ただそれだけ。


 表だって絡まれることはなくなっている。

 貴族が相手でもそう。


 どうやら、リアが怒るからだけでなく、わたしの方も適当にいなしているからか、飽きてしまったらしい。


 お陰で、白い目で見られることはあっても、最近はほとんどちょっかい出されることもなく、平穏に過ごせている。


 だから、そこまで気にはしていないけどね――まぁ、ときどき、今朝みたいなこともあるけど。


「アネット」


「はい」


「何か困ったことがあったら、必ず申し出るのですよ? 可能な限り、力添えいたしますので」


「はい。ありがとうございます」


 わたしはかしこまってお辞儀した。






「さて、それではアネット。ここからが本題となりますが――」


 そう言って、再び厳かな雰囲気となったジョアンナが、じっと見つめてくる。


 どうやら、今からようやく、調べる云々が始まるらしい。


 わたしは「何されるんだろう」と少し緊張してしまい、侍女服のスカート部分をぎゅっと握りしめた。


「あなたのことはオル=レーリアからよく聞いています。なんでも綺麗な魔力というものを持っているそうですね。いい匂いもするとか」


「え? に、匂いですか?」


 思わず反射的に服の匂いを嗅いでしまった。

 お香と石けんの混ざったような匂いがする。

 いい匂いといえば、いい匂い。


「わたしにはよくわかりませんが、その、綺麗とか匂いってなんのことでしょうか?」


 リアがよく口にしている台詞。

 確かにわたしも気にはなっている。


「わたくしにも詳しいことはわかりません。本来、他人やものに宿る魔力は人には視えないものですから。当然匂いもです」


「そう……なんですか?」


「えぇ。一応、わたくしのような上位の神官や魔術師であれば、魔力を感じることはできます。ですが、視ることはできないのです」


 なるほど。魔術師とか感じるとか、まったく理解できないけれど、そういうものなのね。でも、


「だったらどうしてリアは、わたしが綺麗な魔力を持っていると言ったのでしょうか?」


「そこが謎なのですよ。あなたの綺麗な魔力という、質の問題に関してもです。ですが、オル=レーリアは特別な子。この子をお預かりしたとき、大聖女様から希代の大聖女になるかもしれない器を持っていると伺いました。おそらくその力の一端なのかもしれません」


 希代の大聖女と言われて、それまでぼけ~っと成り行きを見守っていただけのリアが、得意げに胸を反らした。


 ――大聖女様か。


 神殿に来て少し経った頃、侍女官教育を受けているときに、ジョアンナから教えてもらったことがある


 この神殿の総本山に当たる、ノルドアイシス聖教国。


 大陸遙か北に位置する場所に聖地があって、大聖女様は普段、そこにそびえ立つ大神殿で暮らしているのだとか。


 頂点に君臨する法王様や枢機卿様の次に偉い人らしい。


 そんな人が、どこからか連れてきた希有(けう)な才を持つ女の子がリア、ということらしい。


 つまり、大聖女様がいなければ、わたしとリアは出会っていなかったとも言える。


「ともかくです。わたくしには、オル=レーリアがさす、あなたの魔力が綺麗という比喩が何を意味しているのかはわかりません。ですが、少し気になることがあるので、調べさせていただけますか?」


 そう尋ねてきた彼女の瞳は、困惑したような探るような、複雑な色に染まっていた。


 ジョアンナが何を気にしているのか皆目見当もつかなかったけれど、確かにわたしもずっと気になっていた。


 自由奔放で捉えどころがないリアだけど、不思議な魅力と力を持っていることもまた事実。


 だったら――


「わかりました。少し怖いですが、すべてを委ねます」


「ありがとう。ではこちらへ」


 よくわからない期待と不安を抱えたまま応えるわたしに、にっこりと微笑むジョアンナ。


 わたしは導かれるままに、彼女が床に描いた魔法陣へと近づいていった。

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