45.三度やらかすわたし、そして帰還
「どわぁぁ~~~!」
「ぐはっ」
「なんじゃぁぁこりゃぁぁぁ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。
まさしくそんな言葉が似合いそうな光景が、目の前で展開されていた……。
百メートルくらいは離れているというのに、それに囚われた神官たちの悲鳴が、ここまで聞こえてきている。
それでも、唯一救いだったのは、近くにいた村人たちにはいっさいの被害が出なかったということ。
いやぁ~……本当によかったよね。
(何がよかったなもんですか。まぁ、予想通りといえば予想どおりだったから、想定内ではあるけれど)
「想定内とか言わないで……! めちゃくちゃ恥ずかしいし、心臓止まりそうなくらいびっくりしたんだからっ」
そう。
本当に穴があったら入りたいくらいに恥ずかしいことになっていた。
土属性魔術に分類される、拘束魔術。
地面から飛び出た無数の太いつる植物によって、相手をがんじがらめにして動きを封じてしまうというもの。
これに囚われたら最後、ぎゅうぎゅうに締め上げられて、まったく身動きが取れなくなってしまうとのことだった。
けれど、ただそれだけのこと。
す巻き状になってしまうけれど、それ以外になんの害もない比較的安全な魔術のはずだったのだ。
それなのに前方にあるのは――
「なんなのよ……なんであんなことになってるの!? どうしてジャックと豆の木みたいにどんどんつるが伸びて花まで咲き始めてるのよぉ~!」
思わず頭を抱えてその場にうずくまってしまった。
本当なら、葡萄のつるのようなものが出てきて、人間の背丈くらいまでで成長が止まるはずだったのに、どうしてあんなことになってるの?
これもわたしのせいだって言いたいの!?
(そのとおり)
(うむ)
「ちょっ……」
勝手に人の心の中読まないで!
わたしは叫びつつも、恐る恐るもう一度、そこをチラ見した。
「うへ……」
街道沿いの草むらにいた神官たち計六名が全員、高さ五メートルくらいはあるんじゃないかと思えるような巨大なつるにぐるぐる巻きにされていた。
しかもそれだけでなく、悲鳴を上げている彼らがなぜか、全員くしゃみまでしていた。
よく見ると、つるの至る所に咲いている花から、粉っぽいのが北の空に向かって舞っている。
「まさかあれって……花粉にやられて、くしゃみしてるってこと!?」
そんなバカなっ、とか思ったけれど、
「ぶへっくしょいっ」
「うひぃえやぁ~~! 誰かなんとか……へっくしょんっ……」
「うわぁいやだぁ~~。植物に食われるとかあり得ねぇぇ……くしょんっ」
全員男の人と思われる神官たちが、揃いも揃ってくしゃみしながら泣き言わめき散らしていた。
しかも、その原因となっているかもしれない花が、驚いたことに、今度は大きなカボチャみたいな形状へと変化し始めたのである。
嘘でしょ?
まさかわたしの魔術が暴走したせいで、巨大化しただけでなく、急成長して実までついちゃったってこと?
意味わかんない!
だけれど、そんなおかしな状況の中、不幸中の幸いだったのが、村人が誰もくしゃみしていないということだった。
やっぱり風向きが北に向いていたから、それで花粉にやられないですんだってことだとは思うのだけれど、もし被害に遭ってたらごめんなさい!
お薬ないから、対策してあげられないけどっ。
そんなことを考えていたら、
「お、おいっ、お前らっ。こいつをなんとかしてくれっ」
「俺たちを助けろっ」
二メートルくらいの高さで囚われの人となっていた神官たちが、大音声でそんなことを言い始めた。
村人たちも戸惑ったような、ぎょっとしたような、よくわからない反応を見せていて、事態の把握に困ったように、お互い顔を見合わせているだけだったけれど――
「――わ、わかったっ。それで手を打つ……! だから早くしてくれっ」
神官の誰かがそんなことを叫んだ。
すると、それを受けて、村人の何人かが一度門の中へと戻っていって、何かを手にして戻ってきた。
何する気?
(どうやら取引したらしいわね)
「取引?」
(えぇ、斧持ってきたから、あれでつるをぶった切って解放する代わりに撤収しろとでも言ったんじゃないかしら?)
「な、なるほど……」
よくわからないけれど、つまり、これでなんとか無事、神官たちを追い返せるってことかな?
そんなことを考え、ドキドキしながら見守っていると、本当に村人がつるを何度も何度も伐採する素振りを見せ、しばらくしたあと、ど~んと派手に切り倒されて、神官ごと地面に転がった。
そして、つるから解放された彼らは、「へっぶしょいっ」とくしゃみしながら、
「こんな村二度と来るかぁ」
「化け物いるなんて聞いてねぇぞっ」
「やってられるかっ。俺はこんなくだらねぇ任務、もう降りるからなぁっ」
などなど、悲鳴を上げて村の中へと戻っていくのだった。
しばらくしたのち。
わたしたちは村人が興味津々といった感じで切り倒されたつるの周りに集まって騒ぎ始めたのを受け、さんざか悩んだあげくに結局、村へと戻る決意を固めた。
クロニャンが言うには、どうやら先程の神官たちはすでに、村の南門を抜けてとん走に移ったとのことだった。
彼らが持つ魔力反応も、すでに索敵できないくらいに遠くに行っているらしい。
わたしとリアは一度顔を見合わせ頷き合ったあと、クロニャンたちを彼らの住む世界――幻界と言うらしいそこへと戻してから、歩き始めた。そして――
「あんたたちっ。無事だったのかい!?」
わたしたちの姿を真っ先に認めたイセリアさんが、大きな声を上げながら駆け寄ってきた。
そうして、筋肉質な大きな身体で抱き留めてくれる。
「本当に心配したんだからねっ。さっきからよくわからないことばかり起こってたから余計に気が気じゃなかったんだから!」
「は、はは……」
ごめんなさいぃっ。それ全部わたしの仕業ですっ。
乾いた笑い声を返すことしかできなかったわたしを余所に、イセリアさんはわたしたちの身体を隈なく確認するようにしたあと、ほっとしたように胸をなで下ろした。
「見たところ、どうやら怪我もなさそうだね。本当によかったよ。よくわからないけど、村の外でとんでもない爆音聞こえてきたり、いきなり化け物みたいな植物生えてきたりしたから、何かの凶兆じゃないかって心配したんだから」
「す、すいません。ご迷惑おかけしました。でも、わたしたちはこのとおり無事ですので」
ひたすら愛想笑い浮かべて誤魔化すしかないわたし。
それを見てどう思ったのか、
「まぁ、無事ならそれでいいんだけど――それで、首尾はどうだったの? 本当に大丈夫だったの? 仕事の方はうまくやれたの?」
たぶん、相当心配してくれているだけなんだと思うのだけれど、物凄く疑わしげな目を向けられてしまった。
まぁ……無理もないよね。
仕事場所は曰く付きの危険な場所だったし、草原で爆発音連発してたし、果てはさっきのつる騒動だしね……。でも、
「はい、これ! 森の中でちゃんと、依頼のものを取ってきました!」
わたしとリアは、リュックの中から革袋を取り出すと、満面に笑みを浮かべながら、その中身をイセリアさんに見せた。
陽光を反射して青い輝きを放つ魔鉱石の光に包まれた彼女の顔には――ただ驚愕だけが浮かんでいた。




