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転生魔女と天才聖女 ~居場所をなくした私たち二人が、最強の相棒となって幸せを見つけにいく物語  作者: 汐柳伊織


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40.ルアン魔鉱石の採取

「……本当に酷いことになってるよね……自分でやっておいてなんだけれど」


 リアの浄化魔法により、太陽光がちゃんと地面まで届くようになったお陰か、そこら中がキラキラ光り輝いていた。


 陽光を乱反射する氷の世界は幻想的ですらあった。


 そんな、おそらく半径三十メートル以上ありそうなこの場所だったけれど、当然のように、二十メートル四方くらいありそうな大きな泉も、カチンコチンに凍りついている。


 地面も――瘴気の影響かな。


 すっかり枯れ果てて、横倒しになっていた草木も、余すことなく凍りついていた。


 ……ていうか……なんかいろいろな意味で凄い。


 周りの木、全部紫色に変色してるし、しかも、それら全部が魔物ごと、分厚い氷で覆われちゃってるし。


 誰よ、いったいこんなことしたの。


(あなたでしょ?)


 頬を引きつらせながらぶつぶつ言っていたら、すかさずクロニャンがツッコミを入れてきた。


(いや、そうですけど……でもこれ、本当に上級魔法とかじゃないの? もし本当に魔力制御失敗してこうなっちゃったなら、今後、怖すぎて魔術使えないんですけど?)


 火魔術のときもそうだったけれど、迂闊に使用して万が一関係ない人とかリアとか巻き込んで傷つけちゃったり死なせちゃったりしたら……。


(まぁ、さっきも言ったけれど、修行あるのみでしょうね。だけど、十分気をつけることね。うまく魔力制御ができなくてこんなことになっちゃってるってことはつまり、効率の悪い魔力運用してるってことの現れでもあるんだからね? 本来は十の魔力ですむところを三十も使っちゃってるようなものだし。当然その分、威力は高くなるけれど、すぐに魔力枯渇になって気絶しちゃうからね?)


(わ、わかってるわよ)


 魔術に代表される魔法全般は魔力を使うらしいけど、それが空っぽになると魔力が枯渇して気絶してしまうらしい。


 もちろんそれだけで死ぬことはないらしいけれど、戦闘中や他に誰もいないところでひっくり返ったら、そのあとどうなるかなんて目に見えている。


 そういう意味ではかなり危険だった。


(とりあえず、今後も魔力制御の練習は毎日欠かさず行いなさい。そうすればうまく使えるようになるから)


 クロニャンはそれだけ言うと、そそくさと泉の向こう側へと歩いていってしまった。


 わたしたちも彼女に倣い、ゆっくりとそこへ到達する。


 ルアン魔鉱石が採取できると言われている、巨大な岩石。


 それがあるはずの場所まできて立ち止まった。しかし、


「アネット。ここで取れる?」


「うん。そのはずなんだけど……なんか、ないよね……」


 ギルドのイセリアさんからは、ここに大きな岩山みたいな岩石が地面から突き出ていて、そこから切り出して採取していたと聞いていた。


 けれど現状、それらしきものは欠片も見当たらなかった。


 どういうこと?


 周囲を見渡してみると、確かに大きな石ころがゴロゴロ転がってはいたけれど、見上げるような高さの岩石はまったく見られない。


「これって……もう採取し尽くされちゃってるってこと?」


 もしそうだとしたら、本当に骨折り損だった。


 こんな大変な思いしてまで取りに来たというのに、おかしな現象に遭遇したあげくに魔鉱石それ自体がないとか。詐欺としか思えない。


 これ、どうしたらいいの?


 そんなことを考えていたら、


(結論を急ぐのはまだ早いんじゃないかしら?)


(だな)


 クロニャンとヴィーがそんなことを言って、わたしを見た。


(どういうこと?)


(どうやらここは相当に厄介な場所のようね。人間たちはおそらく、地面から突き出た岩石部分からしか魔鉱石を採取できないと判断したのかもしれないけれど、鉱脈の本体はこの真下――つまり、地面の中に眠っているわね。しかも、相当大きな鉱脈になっていると思うわよ。魔力の匂いがかなり強いから)


(そうなの?)


(えぇ。考えてもみなさい。なぜなんの変哲もないこんな場所に、あんな大量の瘴気が立ちこめていたのか。どうして魔物の卵がそこら中に植え付けられていたのか)


 そう意味深に見つめてくるクロニャンに、わたしはジョアンナから教えられた魔物についての講義を思い出していた。


『魔物は魔力の残滓(ざんし)が寄せ集まって生まれてくる魔法生命体のこと』


 もしクロニャンが言うことが真実なら、いろいろと説明がつく。


 長年にわたって岩山を削り続けた結果、魔鉱石が傷つきそこから漏れ出た魔力が大気中に飛散し淀みとなった。


 あるいは巨大な鉱脈が地下に眠っていて、そこから漏れ出すなりなんなりして、濃密な魔力が一箇所に集まり、何かしらのきっかけで魔物を生み出す製造場所となってしまった。


 そして、それだけにとどまらず、生み出された凶悪な魔物たちが吐き出す汚れた邪気により、泉が汚染され、瘴気が発生した。


(もしかして……この森の魔物がいきなり凶暴化したのって……)


(さぁ? その辺はなんとも言えないけれど、あり得るといえばあり得るかもしれないわね。瘴気や漏れ出た魔力に当てられて、もともとここにいた魔物が凶暴になったか、もしくは変異したか。いずれにしろ、そんな場所に長居するのは危険ってことね)


 そう締めくくるクロニャンに続いてヴィーも、


(探していたものはないようだが、その辺に転がっている中に魔力を持っておるものもあるゆえ、それらを適当に拾っていけばよかろう。もし足りないようなら、足もとの岩盤をぶち抜けばよい)


 ふふん、と鼻を鳴らして得意げにされたけれど、岩盤ぶち抜くって……。


 そんなことできるはずないじゃない。


「だけれどとにかく、魔鉱石探そうか。リア」


「ん?」


「時間もないから早速始めよう。いい? まず転がっている灰色の石の中に、青いのが混ざっているものがあるのだけれど、もし見つけたらそれを片っ端から集めて、この革袋に入れていって」


「ん。わかったのです」


 彼女は元気よくそう応じると、ギルドから預かった革袋と小さなツルハシを受け取り、魔鉱石採取を開始した。


 タイムリミットはあと三十分くらい。


 それをすぎたら戻らないと結界の効果が切れてしまう。


 急がないと。


 そう決意も新たに、わたしもリアに倣うように、早速作業に取りかかった。






 カーン、カーン、カーンと、石ころを叩く甲高い音が鳴り響いている。


 一見すると、とても順調そうに採集作業が進んでいるように思われたのだけれど……。


「アネット」


 周囲にゴロゴロ転がっていた石ころをあさっていたリアが、わたしの真横に近寄ってきてしゃがみ込んだ。


「どうしたの?」


「青いの結構あった。でも、みんな細かいつぶつぶ。これ、どれくらい必要?」


 わたしはリアが見せてくれた革袋の中身を覗き込んだ。


 袋の大きさ自体はわたしの首から腰くらいまでの長さしかないから、それほど大きくはなかったけれど、それでも、三分の一くらいは入っていた。


 一応ギルドからは、特にこれだけは必要という決まった量は指示されていなくて、この袋に詰められるだけ詰めてきてほしいとのことだった。


 分量に応じて報酬が支払われる仕組みだからと。


 だから、子供のわたしたちでも持ち運べる量になったら、そこで撤収する予定だったのだけれど。


 でも、袋の中から石を取り出し、ふたつに割って確認してみたところ、リアの言ったとおり、確かに青いのが混ざっていたものの、どれもこれも小さな粒状のものしかなかった。


 すべてが青くなっているものとかがまったく見られない。


 これだと、魔鉱石の価値としてはほぼゼロに等しくなってしまう。


「やっぱり、その辺に転がっているのって、なんの価値もないゴミみたいなものだから、それで回収しないでうち捨ててあったってことなのかな?」


 一応そう思って、他にもないか、ヴィーが指摘したとおり地面の岩盤を抉り取ろうとしたのだけれど、固すぎてびくともしなかった。


 ここから魔鉱石を採取していたはずの他の人たちも、もしかしたら同じことを考えたのかもしれない。


 岩を掘り進めようとして無理と判断し、撤収。


 実際にその痕跡も少し残っていたけれど、ほとんど穴が空いていない状態だった。


 きっと、大人の腕力ですら歯が立たなくて、諦めたってことなんだと思う。


「だったら、力のないわたしがやったってダメに決まってるじゃない」


 誰よ、岩盤ぶち抜けって言ったの。


 すでに腕がパンパンで悲鳴を上げている。


 わたしは恨めしげにヴィーをじ~っと見つめた。


 クロニャンともども、周囲を警戒してくれていた白銀のもふもふさんは、どうやらそんなわたしの視線に気がついたらしい。


 少し離れたところからこちら側へと近寄ってくるなり、


(まったく、仕方のない奴らだ。ほれ、どいておれ)


 そう言うなり、ぶそ~っとしながら首だけでしっしっと、わたしたちを追い出しにかかった。


(ちょっと、何する気?)


(決まっておる。我が一撃により、このような軟弱な岩盤など粉砕してくれようぞ)


(粉砕って……ちょっと待ってっ)


 いきなりなんの冗談かと思ったけれど、ヴィーは有無を言わさず、すでに足もとの岩盤を蹴りつける動作に入っていた。右の前肢があがっている。


 まずい……!


 こんなところにいたらどうなっちゃうかわからない。


「り、リアっ。逃げるよっ」


「ん?」


 事の次第がまるで飲み込めていない風の彼女を無理やり立たせて、大急ぎで数メートル避難したその直後だった。


(ふんっ)


 巨大な破砕音とともに立っていられないくらいの地揺れが起こって、わたしたちはそのまま足を取られ、転倒してしまった。


 そして次の瞬間、木っ端微塵に砕け散った大小様々な石塊が宙を舞う。


 わたしとリアは尻もちついたままそれを見上げ、呆気にとられた。


 ――日の光を乱反射する、青くて美しい輝き。


 氷の世界に突如として現れ、地面へと降り注いだ大量の魔鉱石の光が、ひたすら妖しい揺らめきを放っていた。

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