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転生魔女と天才聖女 ~居場所をなくした私たち二人が、最強の相棒となって幸せを見つけにいく物語  作者: 汐柳伊織


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34.冒険者ギルドはお仕事斡旋所 ~曰く付きのお仕事~

 冒険者ギルドというところは、本当にいろいろなお仕事を斡旋してくれる施設らしく、その辺の仕組みについても魔術師協会のお姉さん、ヘルミネアさんがついでに教えてくれた。


 こちらのお店は二十時までやっているということだったけれど、夕食がまだだったのと、村の中とはいえ、あまり夜はうろつかない方がいいと忠告されていたので、お礼を言ったあと、すぐにお隣さんへと移動した。


 木製の扉を開けると、どの店舗ともに共通している鈴の音がカランコロンと鳴った。


 店内は魔術師協会と違い、二倍くらいの広さがあった。


 けれど、他の大きな町と違い、この村のギルドはお食事処のようなものは併設していないとのこと。


 そのため、内部は待合用に使われている丸テーブルがふたつと、それぞれに椅子が四脚ずつ。


 左右の壁に大きな掲示板があり、真正面に受付カウンターが設けられている、といった感じになっていた。


「おい、嬢ちゃんたち。ここはお遊戯する場所じゃねぇぜ」


 入った途端、椅子に座っていたがたいのいいおっちゃんがそう言って、「がはは」と愉快そうに笑った。


 お姉さんが言っていたとおり、本当に変なのがいた。


 あまり来てはいけない場所だったのかもしれない。


 わたしは少し緊張しながらも、万が一の時に備えて、リアの左手をぎゅっと握りしめた。いつでも逃げられるようにと。しかし、


「こらっ、ザックス! あんたあんな小さい子虐めて、何してんだいっ」


 奥のカウンター内にいた、筋肉質な赤毛のお姉さんが腕まくりしながらドタドタと歩いてきたかと思ったら、いきなりおっちゃんの頭を後ろからバシーンと、引っ叩いてしまった。


「いってぇぇっ。おいっ、何すんだよ!」


「何すんだよじゃないでしょっ――たく、本当に相変わらずの飲んだくれなんだから。勝手に酒まで持ち込んで。ほら。もう今日は用ないんだろ? さっさと帰って、かみさん安心させてやんな。いつもいつも、心配ばかりかけて」


「けっ。なぁにがかみさんだよ。お前が暇そうにしてるだろうと思って、わざわざ来てやってんじゃねぇか」


「何が暇よ。そんな必要ないから、さっさと帰んな。さもないと――」


 そこまで言って、お姉さんが不敵な笑みを浮かべながら、右拳を振り上げるような動きを見せた。


 必然的に、剥き出しになった腕の筋肉が膨れ上がる。


「ひっ~~」


 それを見たおっちゃんが一瞬にして顔面蒼白となると、凄い勢いで逃げていった。


「え~……」


 わたしはその手荒くも強烈な歓迎を目にして、呆気にとられてしまったのだけれど、


「お~……凄いのです。リアもあの技、身につけたいのです」


 そうリアがおかしなことを言い出した。


 どうやら気に入ってしまったらしい。


 口を開けたまま一連の出来事を眺めていた彼女は、両腕を上げたあと、お姉さんの真似して身構えた。しかし、


「やめなさい」


 すかさずわたしは彼女のぷにっとした左頬を下からつついて制止するのだった。






「は~……。なるほどねぇ。こんなちっこいのに、本当に立派というか、大変だったねぇ」


「はい。本当に大変でした。ですが、新しい土地に来たり、知らない物を見たりするのは新鮮で楽しいので、十分、今の境遇でも満足しています」


 わたしたちは例によって、自己紹介し合ったあと、受付カウンターの前で先程の女性にひととおり事情を説明し終えていた。


 自分たちが訳ありで旅をしていること。


 魔術師だということ。


 路銀を稼ぎたいということ。


 そしてそのうえで、魔術師の仮登録を本登録にするためにもぜひ、ギルド登録したうえで、お仕事の斡旋などもお願いしたいと申し出たら、魔術師協会のお姉さんよりも大仰に驚かれてしまった。


 わたしは思わず苦笑してしまった。


 どうやらこのギルド出張所の支部長という立場らしいこのお姉さん――イセリアさんは、わたしの話に何か思うところがあったのか、腕組みしながら、「しかしねぇ」と、渋い顔をした。


「ヘルミネアんところと同じで、うちも別に登録するのに資格は必要ないんだけれどね。あいつのとこで聞いてると思うけど、一応冒険者ギルドってのは、そもそもが旅人の路銀稼ぎのために設立された世界的機関って言われているくらいだからね。訪れた土地土地で、ギルドに寄せられたいろいろな仕事をこなして報酬もらってその日の糧とする。だから嬢ちゃんたちみたいな子供でも、登録させるのは簡単なんだけどね」


 そんなことを言いながら、書類を引っ張り出してきた。


「ただ、あっちと違って、こっちの場合は月ごとにノルマがあるのよね」


「え? ノルマですか?」


「そ。最初はカッパーって最低ランクから始まるんだけど、それぞれのランクごとにこなさなければならない仕事量が決まっててね。それをクリアしないと、登録抹消されちまうのさ」


「そうなんだ」


「あぁ。で、ここからが問題なんだけど、ドブさらいとか御用聞きや郵便配達なんていう比較的安全な仕事もいっぱいあるにはあるんだけど、稼げる点数が低くてね。それだけでやってると結構、クリアするのがきつくなるから、大抵、魔物退治とか危険な仕事もこなさなければならなくなるのよ。一応、人数制限はないから、たくさん点数稼げるものを複数人でやればすぐ終わるんだけど、中々人集めるのも大変だし、危険だし、点数と違って報酬は参加者同士で山分けになるから割に合わないしでね」


「なるほど……つまり、ずっと魔術師として冒険者のお仕事をこなしていこうとすると、そういうのもやらなければならないということですか?」


「ま、そういうことだね。だから嬢ちゃんたちみたいな子供にはきついと思うのよ。いくらかけ出し魔術師といってもね」


 そう困ったような顔をして、イセリアさんは最終判断をわたしたちに促すようにじっと見つめてきた。


「どうする、リア?」


 わたしは一応、リアに聞いてみた。


 けれど、聞くまでもなかった。


「はい! リア、冒険者やるですっ」


 まぁ、そう来るよね。


 わたしだって、可能なら、路銀稼ぎにも魔術師協会の貢献度稼ぎにもちょうどいい冒険者という立場は魅力的に感じる。


 もしうまくすれば、ひとつの仕事で二倍おいしくお金稼げるわけだしね。


 路銀のことも考えれば貯蓄なんて夢のまた夢かもしれないけれど、いっぱいお金貯まってお金持ちになれたら、今までやりたいと思ってもできなかったことだってできるようになる。


 わたしと同じような境遇の子供たちを助けることだってできるかもしれないし、医療の助けを必要としている貧しい人たちにも、正しいお薬をあげられるかもしれない。


 だけれど、かなり危険って言われている魔物や魔獣の相手なんてわたしたちにできるの?


 クロニャンたちけしかければ一瞬で終わりそうだけれど、たぶん、相当酷いことになりそうだし……。


 容易に想像できる最悪の結末。


 猛獣みたいなのを一体倒そうとして、森すべてが消し炭になるとか。


 ――こわっ。そっちの方が怖いよ!


「う~む」


 リアを危険な目に遭わせたくないし、自分も怖いの嫌いだし。


 いろいろな思いが邪魔して中々答えを見出せないでいると、


(わたしたち使い魔は、魔術師の補助をするために契約してるってこと、忘れないでちょうだいね?)


(え?)


 突然クロニャンが声をかけてきた。


(ジョアンナからいくつか説明受けてるでしょ? 能力こそ差があれど、基本的な補助能力はどれも同じ。魔法詠唱中に敵に攻撃されても大丈夫なようにするための防御結界。それから、魔法威力を増幅させるサポート。このふたつは都度、こちらで制御してるから、ちょっとやそっとの攻撃じゃ、あんたたちは怪我しないわよ? その辺の低レベルな使い魔ならいざ知らず、わたしたちは厄災とか()()()()()()わけだしね)


(あ……そっか。そういえばそうだった)


 魔術修行しているときに、座学でジョアンナがそんなこと言ってたっけ。


 最後皮肉を言ったのか、それとも誇らしげにしていたのかはわからなかったけれど、クロニャンのお陰で光明が見えたような気がした。


 わたしは緊張や不安、恐れ、期待など、いろいろな思いに胸や胃の辺りが痛くなったけれど、リアと話し合った末にイセリアさんに向き直った。そして元気よく、


「わたしたち、冒険者になります!」


 そう宣言して、最後はにかっと笑ってみせるのだった。






 ふたりあわせて銀貨十枚の登録料を渡し、必要事項などもひととおり書き終えたあと、ようやくわたしたちは正式に、ギルド登録証であるペンダントをもらった。


 トップが金属製の四角いプレートになっていて、これもある意味、魔導具みたいな機能を持っているらしい。


 個人情報やランク、現在の点数とかいろいろ書き込まれていて、身分証やギルドでの仕事斡旋時の照会にも使われる結構重要なものらしい。


 魔術師協会のライセンスカードもそうだけれど、なくさないようにしないと。


「――で。この辺があんたたちのランクで紹介できる仕事なんだけど、一発で魔術師の仮登録を本登録にできるレベルとなると――この辺くらいかねぇ」


 そう言って、イセリアさんは伝票みたいになっている紙の束をわたしたちに見せてくれた。


 だけれど、お姉さんが眉間に皺を寄せながら困ったような顔をしているとおり、そこに載っていたものは、魔物や魔獣討伐の仕事ばかりだった。


「本当にこういうのやらないといけないんだ」


 わたしは魔物とかには詳しくないから、強さもわからないし、名前書かれていてもいまいちピンとこない。


 確かリアが荷物の中に薬草図鑑とか魔獣図鑑持ってた気がしたけれど。


 そう思って、彼女から図鑑を借りようかと思ったときだった。


 興味津々にペラペラめくっていたリアが「あっ」と声を上げた。


「アネット。これ、変なこと書いてある」


「変なこと?」


 わたしは中を覗き込んで、やっぱり首を傾げてしまった。




【依頼内容】


 ・魔導具製造に必要な材料『ルアン魔鉱石』調達。


 ・ここより西にあるレファールの森の中にあり。




「依頼主、G――ぐれ……ぐらごろ? ぐれぐれ? 字が汚くて読めない。なんなの、これ?」


 意味がわからず考え込んでいると、


「あぁ、それか。いわゆる素材採取の仕事だね」


「素材採取? じゃぁ、ここに書いてある魔鉱石というものを採取してくれば、それだけでお仕事完了ってことですか?」


「そういうことになるね。ただ、悪いことは言わない。これだけはやめときな」


「え? どうしてですか? 石を取ってくるだけなんですよね?」


「そうだけれど、それだけじゃないんだよ」


「……?」


 どういうこと?


 首を傾げるわたしに、お姉さんが説明してくれる。


「つまり、こいつは曰く付き案件ってことさ。この依頼が出されたのはもう半年も前らしいんだけどね。それなのに誰もやりたがらない理由っていうのがあるのさ」


「理由……ですか?」


 なんだかいやぁ~な予感がした。


 生唾飲んでイセリアさんの次の言葉を待っていると、


「いいかい、アネットの嬢ちゃん。あそこは凶悪な魔物の巣窟なんだよ」


 そう静かに語りかけてきたお姉さんの低い声が、ゆっくりと、胸の奥深くに浸透していった。


 彼女が向けてくるルビーのような瞳には、諦観を促す強い意志すら感じられた。


 絶対に止めとけと。受けたら死ぬぞと。けれど――


 わたしはぎゅっと、両拳を握りしめた。


 もし本当にそうだったとしても、やらなければならない理由がわたしたちにはあった。


 無理にここで受けずに次の町で仕事を探すという手もあったけれど、この先何が起こるかわからない。


 ここ以上に難しい仕事しかなかったら、目も当てられないし。


 だから、一刻も早く魔術師の仮登録を本登録にして、路銀を稼ぎやすくしておきたかった。


 わたしはリアを見た。


 相変わらず、この子はのほ~んとしていて状況を理解しているのかしていないのかよくわからなかったけれど、


(ま、大丈夫でしょ)


(うむ。いざとなったら我らが暴れてやるしな)


 クロニャンとヴィーが後押ししてくれた。


 だからわたしの覚悟は割と早く決まった。


「イセリアさん」


「うん? なんだい?」


「わたしたち、このお仕事請けます!」

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