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転生魔女と天才聖女 ~居場所をなくした私たち二人が、最強の相棒となって幸せを見つけにいく物語  作者: 汐柳伊織


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2.「見つけた」 ~光り輝くパレードの中で~

 神秘的な音色と不思議な感覚に誘われて、わたしは大通りへと繋がる小路(こみち)を走り続け、そこへと出た。


「わぁ……」


 道の先は、すでに大勢の見物人たちでごった返していた。


 隙間がないくらいにびっしりと埋め尽くされ、背の高い壁となって立ち塞がっている。


 身体の小さなわたしでは、通りを埋め尽くす大人たちの背中が邪魔で、向こう側で何が行われているのかまったく見ることができなかった。


 だけれど――


 そのとき、ぱっと、朝靄(あさもや)の空に鮮やかな光の粒子が舞った。


 薄暗い小路にいたわたしは、つられるようにそれを見た。


「ぅわぁ……きれい……」


 人垣の向こう側から聞こえてくる、(きら)びやかな(がく)()に華を添えるように、見上げた空一面が光り輝いている。


 わたしは、そこから目を()らすことができなくなってしまった。


 生まれたときからずっと、陰日向で生きてきたから。


 母が生きていた頃はそれでも幸せだったけれど、やっぱり温かな光あふれる場所にはずっと憧れを抱いてきた。


 だからこそ、余計に見とれてしまう。


 いくら手を伸ばしても届かない、ずっとつかみ取りたいと願っていた華やいだ世界。


 それが今、目の前に広がっている。


 あの光は……魔法かな?


 綿のように舞う赤や黄色といった温かな光が辺り一面に漂っては消え、現れては(はじ)けて花火のように飛び散った。


 すごい……。


 初めて目にしたけれど、魔法ってあんなことまでできちゃうんだ。


 この世界には魔法が存在するって母が教えてくれたけれど、素養がないと使えないうえに、勉強するにもお金がかかるって言ってた。


 だからわたしには無縁な力だし、貧富の差が激しいこの町では、お貴族様とかお金持ちのみに許された特権的象徴。だけれど……だからこそ、


「もっと、近くで見てみたい」


 魔法も巡礼行列も一度も見たことがないし、せっかくだから目に焼きつけておきたい。


 少しでいいからという一心で、ぴょんぴょんその場を飛び跳ねてみた。


 だけれど、ダメだった。


「だったら――」


 わたしは身体の小ささを最大限に活かし、大人たちの足もとにできていた隙間を縫うように、前へ前へと突き進んでいった。






「んんん~~~! ごめんなさいぃっ」


 ほとんど無理やり押しのけるようにして最前列へと出たわたし。


 小綺麗な格好をした大人たちが迷惑そうにしていたので、少し申し訳なく思ってしまったけれど、そんな気持ちはすぐに消し飛んでいた。


 圧巻。


 まさにその一語に尽きた。


 白い神官衣を身にまとった大勢の人たちが、綺麗に隊列組んで歩いていた。


 彼らが手にしているのは、先端に金属製の輪っかや鈴がついた杖のようなもの。


 きっと、わたしが貧民街で聞いたあれは、あの人たちが持っていた杖の音だったのね。


 二列で歩く彼らはたぶん、三十人くらいいる。


 地面に杖を突くたびに、しゃん、と清らかな音色がそよいだ。


 魔法使いのような白いローブを頭から被った人たちが、空中に円を描いた途端、空に花が咲いた。


「本当に……夢みたい。こんな地獄みたいな世界にも、あんな綺麗なのがあったんだ……」


 彼ら神殿で働いている人たちは、定期的に町を練り歩いては、神の祝福を分け与えてくれていると聞く。


 でも、決して貧民街に立ち寄ることなんてない。


 だから、こんなにも不公平なのかな?


 貧民や貧困層への差別意識が酷い、この神殿都市ザルツークの表と裏の顔を同時に見てしまったような気がして、少しだけ嫌な気分となった。


 本当はずっと見ていたいくらい煌びやかな世界だったけれど、このままここにいると自分が(みじ)めに思えてきてしまう。


「……仕事もあるし、戻ろうかな」


 ほんのちょっぴり寂しくなってしまったけれど、未練を断ち切るべく、元いた場所へと戻ろうとした。しかし、そんなときだった。


「え……?」


「あっ……オル=レーリア様だ!」


「きゃぁっ……未来の聖女様よ……! 本当になんて神々しい……」


「あなた様のお陰で息子の病が治りました! ありがとうございますっ」


 突然巻き起こった人々の熱狂。


 そして、そのうねるような歓声に晒されるように、ひとりの女の子が歩いていた。 


 大人たちの隊列に混ざって、ひとりだけいた小さな子。


 たぶん十歳くらいかな?


 そんな彼女がなぜかこちらをじ~っと見つめてきていることに気がつき、一瞬ドキッとしてしまった。


 だけれど、それもすぐに気にならなくなった。


 なぜなら――


 肩までの白銀の髪と、アクアマリンみたいなキラキラした瞳がとっても神秘的で、印象深い女の子だったから。


 ボサボサ頭のくせっ毛で、彼女と同じく、肩まで伸ばした赤茶色の髪と碧眼というわたしの見た目とは大違い。


「まるで西()()()()みたい。大人だった頃のわたしだったら、絶対にぎゅ~ってしちゃってる」


 帰ろうとしていたこともすっかり忘れて思わず魅入っていると、なぜかその子がこちらに歩いてきた。


 そして、わたしの目の前で立ち止まる。


「……かわいい……」


「は、はい?」


 見た目同様、声まで舌っ足らずであどけなさ満点の彼女の呟きに茫然(ぽかん)となっていると、


「……決めた。あなた、とってもいい。わたし(リア)、あなた連れてく」


 へ……?


 わたしは彼女が何を言っているのかまったく理解できなかった。


 連れてくって何?

 わたしをどうする気?


 しかし、混乱するわたしを余所に、話は勝手に進む。


 いきなりわたしの腕をつかむと、半ば強引に隊へと戻ろうとする。


 わたしはひとり焦ってしまった。


「あ、あのっ……ちょっと待ってください! これはいったいどういう――」


「あなた、綺麗な魔力してる」


「え? 魔力?」


 意味がわからずきょとんとするわたしだったけれど、彼女はお構いなしに、大きな瞳をキラキラ輝かせながら、わたしの両手を握りしめてくる。


「それに、かわいいから好き。だから、リアの侍女にする」


「え? ……えぇぇぇ~~~!」


 一方的に告げられた彼女からの召喚宣言に、わたしはただただ、叫ぶことしかできなかった――






「いや、あの――ちょっと待ってくださいっ。わたしこれからお仕事に……!」


「だいじょぶ。お仕事はこれからいっぱい、神殿でできる。リアと一緒に仕事する」


「いえ、あの。そういうことじゃなくてですね……!」


 どうしよう。困った。まったく話が通じない。


 両足をつっかえ棒にして、連れていかれないようにがんばって抵抗したのだけれど、この子見かけによらず、めっちゃ力が強い。


 あっという間に巡礼行列のところまで連れていかれてしまった。しかも、


「オル=レーリア様。あなたはいったい何をされておられるのですか。勝手なことをされては困ります。そのうえ、このような薄汚い賎民(せんみん)、いったいどうされるおつもりですか」


 このリア? って女の子がおかしな行動に走ったからか、すっかり行列の歩みが止まってしまっている。


 雑然としていて、その中のひとり――たぶん貴族かな?


 白の神官衣を身に着けた金髪の男性が、物凄く汚らわしいものでも見るような目つきで文句を言ってきた。


 けれど、彼女は気にした風もなく、


「……? 汚い? 誰のこと?」


「いえ、ですから、その子供のことですよ」


 きょとんとする彼女に対して、少し苛立ったようにそう言うと、男の人が(あご)でわたしを指し示してくる。


 けれど、それでも彼女は首を傾げるだけだった。


「よくわからない。でも、この子、とっても綺麗。だから侍女にする」


 彼女はそれだけ言うと、他の神官たちを無視して再び歩き出してしまった――ていうか、ちょっと待ってっ……。


 わたしは事の成り行きについていけず、ひとり混乱してしまった。


 この子、本当にわたしを神殿に連れていく気?


 意味がわからない。


 なんで?

 どうして急に?

 侍女にするって何?


 この子のお世話係に選ばれたってこと?


 確か、貧民はあそこに入れないって、誰かが言ってた気がするけれど、それでも連れていく気?


「あの、よくわからないですが、本当に困ります。わたしは――」


 なんとかしてこの場を乗り切らなければならない。


 このままおかしなゴタゴタに巻き込まれたら、わたしの将来がどうなってしまうかわからない。


 そう思って必死の抵抗をしようとしたのだけれど、そんなときだった。


「おい!」


 どこからか、聞き知った怒鳴り声が聞こえてきたような気がして、慌ててそちらを見て――愕然(がくぜん)とした。


「なっ……。お父さん……!」


 そう。大通りを埋め尽くす見物人たちを殴り飛ばしながら、強引にこちらへと近寄ってきた髭面の男は――わたしの父だった。

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