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【第1章完】転生魔女と天才聖女 ~居場所をなくした私たち二人が、最強の相棒となって幸せを見つけにいく物語  作者: 汐柳伊織


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20.論破された神殿長、なぜか逆ギレる

「オル=レーリア、貴様は聖女候補の身でありながら、あろうことか、救済を求める者たちと不必要なまでに接触し癒着したあげく、金品まで巻き上げたと報告が入っておる。これは、教会が是とする公平性と慈愛に反する重大な過失である。規範の中で最も重い、背信行為に当たる行いぞ!」


 突然告げられた、理解不能な罪状。


 最も重いとくれば、それは即ち極刑であり死罪。


 けれど、当然、身に覚えのない濡れ衣。


 内容を聞く前からなんとなくわかっていたことだけれど、本当にムチャクチャだった。


 いったいなんなのよ……。


 せっかく無実が証明できたというのに……どうしてエヴリンに引き続き、あなたまでそんなこと言い出すのよ。


 そんなにまでしてわたしたちを排除したかったってこと?


 少しずつ息苦しくなる胸のうずきをこらえながら、固唾を飲んで見守っていると、


「神殿長。さすがにそれは……」


 唯一左側の審議席に残ったままだった神殿長補佐官のシュレーゲンが、困惑したように呟きながら歩み寄っていった。けれど、


「黙れっ。このわしに指図するでない! 誰がなんと言おうと、ここで白黒はっきりさせてやる。ここまでコケにされて黙っておれるか!」


 神殿長は碧色の鋭い瞳を血走らせながら、シュレーゲンからわたしたちに視線を戻した。


「おい、子リスども。少しだけなら話を聞いてやる。申し開きしてみせよっ」


 目つきは変わっていないのに、口元だけ吊り上がっている。


 絶対的な自信の裏打ちと、強固な意志がそこには感じられた。


「神殿長様」


 これ以上濡れ衣着せられて、面倒事なんかに巻き込まれたくない。


 そう思って声を上げたのだけれど、


「黙れ! 貴様の出る幕ではないわ。ひっこんでろ!」


 泡食ったように一蹴された。


 どうやら、わたしが絡むと再び論破されると思って、いっさいの発言を許さない腹づもりらしい。


 なんて人なのよ。


 少しむっとしていると、


「神殿長、何か誤解されておられませんか?」


 ジョアンナがわたしたちを庇うように、背中に隠してくれた。


「誤解だと?」


 地揺れのような響きを伴う声が返ってきた。


「そうです。オル=レーリアはそのようなことはいっさいしておりません。考えてもみてください。彼女は誰よりも無欲で、とても心の優しい少女です。物欲もまったくない敬虔なる信徒です」


「それがどうしたというのだ? あぁ?」


「え……?」


 神殿長はいやらしいくらいの勝ち誇った笑みを浮かべた。


「お前こそ勘違いしておるのではないか? その者が誰よりも怠け者で強欲なのは周知の事実であろうが。常に眠そうな顔をしてぐうたらし、食うことしか考えておらん。そんなだから、甘い汁をすすろうとする輩どもに付け入られるのだっ」


 何言ってるの? この人。意味がわからない。


 確かにリアは神殿長が言うとおり、熱心な聖女候補生じゃない。


 よく修練や勉強をサボるし、お菓子やご飯のことしか考えていないし。


 おまけに戒律とか規則とかまったく気にしないことも多い。


 だけれど、そんな彼女だったけど、わたしは知っている。


 彼女が何よりも一番、友達(わたし)と遊ぶことを楽しみにしてくれている、屈託なく笑う普通の女の子だということを。だからこそ――


()()は付け入られてなんかいません!」


「なんだと!?」


 もう我慢できない。


 あんな一方的ででたらめな言い分なんか、黙って聞いていられるわけがない。


「何度だって言います。神殿長は間違っています。救済を求めてやってくる人たちはみんな、リアのことが大好きだから集まってくるんです。救い以外の打算的な利益を要求してくる人たちなんかいない!」


「そうです。アネットの言うとおりです。聖礼の儀に集まってくる人たちには皆、平等に接しています。中には規定以上の高い寄付金を納めてくださる敬虔な方々もおられますが、信者すべてと平等に接し、多くの人民を救ってきました。そこに、公平性を欠く行いなど、いっさいございません」


 わたしのあとに続いて間髪入れず、ジョアンナが援護射撃してくれた。


 ――そうよ。ジョアンナの言うとおりよ。


 わたしたちはリアのことをずっと見てきた。


 彼女が本当に多くの人たちに慕われているってことを、ずっとこの目で見てきた。


 悪事なんて働いていないってことを。


 だから断言できる。


 間違ったことなんてしていないって。


「ですから神殿長! どうかお考え直し――」


「黙らんかっ」


 ジョアンナが声を限りに訴えてくれたけれど、赤黒く変色するくらいに怒気を露わにしているあの人には通じなかった。


「貴様らはまるでわかっとらん! 平等に接しただと? それが不公平だと申しておるのだ!」


「え……?」


 神殿長が何を言っているのか理解できなかった。


 平等に救済することがなぜ不公平になるの?


 ジョアンナもわたしと同じ思いらしく、呆気にとられている。


「よいか!? 高い寄付金を払った貴族と、最低限のけちくさい金しか落とさん平民を同列に扱うなどあってはならん。言語道断だっ。その罪、万死に値する!」


 激しく肩を上下させながら、そう吐き捨てるように言い切った神殿長。


 ――貴族至上主義、ここに極まれり。


 わたしは目の前が一瞬、真っ暗になったような気がした。


 意味不明な感情が身体の奥底からあふれ返ってきて、言い知れない怖気に苛まれてしまう。


 ……気持ち悪い。


 ただそれだけだった。


 ただそれだけが、身体のうちを支配していた。


 ……どうして……? なんでなの……?


 吐き気を伴う悪寒があとからあとから込み上げてくる。


 どうしてそこまでして貴族や階級社会にこだわる必要があるのか。


 ……そんなにもわたしたち貧民や平民が憎いの?


 毎日の食にすら困窮しながら、それでもがんばって前に進んでいこうとしているのに――そんなに地位や名誉って大事なの!?


 あまりにも価値観が違いすぎて、まるで化け物でも見ているかのようだった。


 ひとり、止まない悪寒に耐えきれず、小刻みに震えていると、


「神殿長が何言ってるか、わからない」


 突然、リアがぼそっと呟いた。


「平等の意味違う。女神様からもらった力、みんなに振る舞う。これが平等」


 珍しくまともなことを言い出した彼女に、すかさずジョアンナが加勢する。


「そうです! 神殿長がおっしゃっていることは平等でもなんでもありません。救済への寄付金は、もともと最低限の額しか定められていないはず。ですから、多めに収めてくださる方々の行為はあくまでも善意。そこに差をつけたら、それこそ不公平なのでは――」


「うるさいっ、黙れと言っている――つべこべ抜かすな、背教者どもめがっ! ただでさえ、神に選ばれし者しか立ち入ることが許されん神地に土足で踏み入っているのだ。これ以上の狼藉も侮辱も、いっさいが許されん!」


「神殿長!」


「もうよいわ! 大聖女(あのくそおんな)が懇願して頼み込んできたゆえ、せっかく置いてやったものを。その恩義を仇で返すような輩を、これ以上置いておくわけにはいかん!」


 整っていたはずの真っ白な髪をボサボサにしながら、そこで一拍おくと、


「背信者オル=レーリア、それからそこの薄汚い小娘! これより罪状を申し渡す――貴族への大反逆罪と、崇高なる神を冒涜した大罪により、貴様らを即刻処刑台送りにしてくれるわ!」


 枯れ果てたようなしわがれ声で、そう裁定を下す神殿長。しかし、


「お待ちくださいっ。その裁決はあまりにも横暴です! 万が一そのようなことが神殿内で起こったと知られたら、王家や国民、総本山におられる大聖女様が黙っているはずがありません。今一度、お考え直しください!」


「うるさい、黙れ! これはもう決定事項なのだ。覆すことなど許されんっ。これ以上このわしの裁定にケチをつけようものなら、いかなクロイツ家の令嬢とはいえ、ただではすまさんぞ!」


 必死に訴えてくれるジョアンナだったけれど、それすら息切れしているあの人の心には届かなかった。


 もう無理だよ、これ……。


 こうなったら……最後の手段を使うしかないかもしれない。


(……やめときなさいよ)


 わたしの心を読んだクロニャンが、呆れたように突っ込んできた。


(でもこのままじゃ、本当に殺されちゃうかもしれないのよ!?)


(大丈夫よ。そうはならないわ)


(え……?)


 意味深なクロニャンの言葉の意味がわからず茫然としていると、審議席のテーブル付近で成り行きを見守っていたシュレーゲンが、神殿長へと歩み寄っていった。


「恐れながら神殿長。浅慮とは申しませんが、やはりここは、クロイツ嬢の進言に耳を傾けるべきかと。さすがに大聖女様が直々に見出された弟子(プロテジェ)を、たとえ背信者とはいえ一方的に処刑などしたら、大騒ぎとなります」


 困惑気味に苦言を呈する彼だったけれど、


「黙れ! 貴様までそのようなことを申すのかっ? こいつらを許してこのまま神殿に置いておけと? ふざけるなっ。そのような戒律違反、許されるはずがなかろう!」


「ですが、処刑だけは絶対にあってはなりません。あの者は――あの方の御名(みな)を冠する特別な子供なのです。万が一なんのお伺いも立てずに一方的に(しい)したと知られたら、神殿長の権威は必ずや、失墜いたします!」


 理知的な声色で根気よく説得を試みてくれるシュレーゲン。


 それが功を奏したのか。


 恐ろしいほどに長い沈黙ののち、不愉快そうに舌打ちしながらも、神殿長が微かに口元を笑みの形に歪めて鼻で笑った。


「――ふんっ。まぁいい。(ぬし)の言うことも一理あるか。本来であれば、貴族への不敬だけでなく、神への背信という二重の罪を犯したのだ。極刑に処されても文句は言えまい。だが、あの女が連れてきた小娘だからな」


「ええ、ですのでここは、恩を売っておいて損はないかと」


 それが何を意味するのか理解したらしく、神殿長はぱっと表情を明るくしたあと、いやらしく顔を歪ませた。


「くくっ……それはいい! あのクソ女にはさんざかコケにされてきたからな」


「では」


「うむ」


 そこで、顎を上げて澄まし顔となった神殿長がこちらを向く。


「これより最終決を下す。聖女候補オル=レーリア。それからそこの――」


 シュレーゲンが耳打ちする。


「アネットとか申す赤毛の小娘。貴様らを今日限りで破門といたすっ。本日中に荷をまとめ、明日の朝一番にここから立ち去れ!」


 シーンと静まり返る断罪の聖堂。


 一方的に下された理不尽な結末に、わたしもリアも、ジョアンナも。


 誰ひとり声を上げることができなかった。


 緩やかに広がっていく冷たい闇が、わたしたちから明日の光を奪っていく。


 ――告げられた猶予は今夜いっぱい。


 明日の朝には出ていかなければならない。


 再び仏頂面となった神殿長は、シュレーゲンと一緒にさっさと部屋から出ていってしまった。


 扉付近にいた他のお偉方も、「やれやれ」とばかりに消えていく。


 聖杯を運んできた例の嫌みな男性神官にいたっては、いつの間にか姿が見えなくなっていた。


 最後まで残っていたのはわたしたちと、尻餅ついたまま固まっていたエヴリンたちだけ。


 そして――放心状態だった彼女たちとわたしたちの視線が絡み合う。


 その瞬間、エヴリンの瞳に光が戻った。


 見る見るうちに、歪みきった醜悪な笑みへと回帰していく。


「クク……あはははっ――あ~おっかしい。いい気味だわっ。これで目障りなガキどもと顔を合わせなくてすむかと思ったら、ホント、せいせいする。さいっこうに、気分がいいわ! ――あっはははは」


 人ってここまでおぞましくなれるんだとドン引きしてしまうくらい、彼女たちは気色悪い笑みを浮かべながら、踊るように出ていった。


本エピソードをもちまして裁判編が終了となります――が、当然これだけでは終わりません。

次話以降、「○○編、そして――」へと続きます。

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