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【第1章完】転生魔女と天才聖女 ~居場所をなくした私たち二人が、最強の相棒となって幸せを見つけにいく物語  作者: 汐柳伊織


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18.言い逃れできない証拠――『神前裁判』 ~転換~

 例の男性神官によって、ワゴンに乗せられた大聖杯が慎重に運ばれてくる。


 神殿長のもとへと届けられたとき、常軌を逸したエヴリンの笑みに獰猛さが加わった。


 わたしたちを見て、ひたすら嘲笑っている。


「……間違いない。これは……行方不明になっていた大聖杯ではないか!」


「しかも――あぁ、なんてことだっ。本当に欠けているではないか……!」


 裁判の争点となっていた聖杯。


 そしてその渦中にあった実物がいきなり登場したことによって、『断罪の聖堂』内は大騒ぎとなってしまった。


 左右のテーブル席にいたお偉いさん方が次々にそれへと集まり、驚きと嘆きの声を発している。


 中には、女神像へと跪いて祈りを捧げ始める人までいた。


「おい、貴様! いったいどこにあった? どこで見つけたと申すか!?」


 顔を赤くし血相変えている神殿長が、聖杯を運んできた男性の肩を揺さぶった。


「そ、それが……聖女候補様方の居室も含め、神殿内すべてをくまなく捜索したのですがまったく手がかりなく、そこで一箇所だけ調べていない場所があると気がついたもので――」


「前置きはいい! 状況など聞いておらんわ。要点だけ申せ!」


「は、はい! 実は……」


 男性神官はそこで言葉を詰まらせたあと、困惑顔でわたしたちを一瞥したような気がした。


 嫌な予感しかしない。


 ただでさえ、口の(へり)が欠けた聖杯が出てきてしまったというのに、そのうえ息を吹き返したエヴリンたちや、男性神官たちの挙動がなんかおかしい。


 これ以上ないくらいに最悪の流れに変化していた。


 神殿長まで、どことなくいやらしい笑みを浮かべているような気がする。


 本当に勘弁してほしい。


 これ以上、面倒事なんて起こってほしくないのだけれど。


 しかし、そんなわたしのささやかな願いは叶わない。


 問い詰められた男性神官が、震えながらわたしたちを指さした。


「れ、例の天雷門(てんらいもん)とされている場所――現在、聖女候補オル=レーリア様専用となっている修練場、あそこで見つかりました……!」


 そう告げられた事実に前に、エヴリンたちだけでなく、なぜか神殿長まで会心の笑みを浮かべた。


 まるで、内なる喜びを隠しきれなかったみたいに。


 わたしにはそれが、狂喜の叫びのように感じられた。






 聖堂内には依然、異様な空気が漂っていた。


 そこら中から猜疑心や嫌悪感といった、よくない視線がわたしたちに向けられている。


 そんな中、わたしはあの男性神官が告げた『修練場』という言葉を何度も反芻(はんすう)し、やるせない気持ちになっていた。


 ……そっか。だからか。だからあの人、ときどきあそこに……。


 わたしはこのあとの展開を予想し、どうしようか考え込んでいたのだけれど、やがて周囲のざわめきが徐々に収まっていった。


 全員が元の位置へと戻っていく。

 それを見た神殿長が審議を再開した。


「聖女候補オル=レーリアよっ。どういうことなのか説明してもらえるのだろうな? ――今すぐ答えろっ」


 これまでの裁判中も、神殿長の苛烈さはときどき垣間見えていたけれど、今は特に酷い。


 高圧的で、いっさいの反論は認めないとでも言いたげに、わたしたちを睨んでいる。


 これ、やっぱり詰んだのかもしれない。


 今までは聖杯がなく、欠片の信憑性も限りなく低かったから、相手の論拠を潰すことでなんとかなっていたけれど、このまま進んだら最悪の結末しか待っていない。


 しかも、神殿長のあの顔……。


 もしかしたらあの人、エヴリンに便乗してわたしたちを処分しようとしてるんじゃ……?


 だって、頭ごなしにこっちが悪いって断定してきてるし、それにあの女の策に乗っかれば、自らの手を汚さずに目障りだったわたしたちを排除できるんだもの。


 どうしよう……。


 わたしは起死回生の言い訳を見つけられなくて、ジョアンナと顔を見合わせた。


 彼女もわたしと同じで困惑気味に首を微かに振るだけ。だけれど、


「大丈夫。万が一のときには、一命を賭してでもあなたたちを守ってあげます」


 そう囁きながら、肩を抱き寄せてくれた。


 命がけはやめてほしかったけれど、優しい彼女の温もりのお陰で、剥がれ落ちかけていた明日への希望を取り戻せそうな気がした――しかし、


「神殿長様」


 ニヤニヤしていたエヴリンが祭壇へと歩いていった。


「とりあえず、接合鑑定してみませんか? それからでも話は遅くないかと」


「あ? ――あぁ、まぁそうだな」


 エブリンを見て忌々しげにそう言うと、顎で指し示す。


 さっさとやれとでも言いたげだった。


 相変わらず横柄な態度の神殿長だったけれど、エヴリンは気にした風もなく、喜色満面、聖杯の欠片と主張している金色の破片を割れ口にあてがっていった。


 わたしたちだけでなく、その場にいた全員が固唾を飲んで見守る。


 そして――金属の破片同士が擦れるような音をさせながら、断面がぴったりとくっついた。


 その瞬間、


「キヒヒ……クク――あっはははは……!」


 身体を丸めながらこらえるように笑っていたエヴリンが、我慢しきれなくなったように仰け反り笑った。


「これでわたしの勝ちよ、下民ども。もう言い逃れはいっさいできないわ。大人しく、神の裁きを受けることね!」


 静寂を引き裂くように発せられた金切り声が、聖堂内を震わせる。


 鳴り止むことのない残響が、ただでさえぐらつきかけていたわたしたちの足もとを一瞬にして崩壊させていったような気がした。


 ……やっぱりこれ、もうダメかもしれない。


 欠片が本物と証明されてしまった以上、おそらくもう言い逃れなんてできない。


 きっと、「わたしたちは無実だ」と主張しても、誰も信じてはくれないだろう。


 だって、この裁判、最初から出来レースなんだもの。


 エヴリンだけでなく、神殿長や他のお偉いさん方も、わたしたちのことなんかゴミとしか思っていないし。


 今回の裁判を根底から覆せるような物的証拠でも出ない限り、わたしたちの話なんて聞く耳持たないに決まってる。


 わたしは恐る恐る周囲を見渡した。


 神殿長や上位神官たちが目を細めながら聖杯を眺めていたけれど、やがて納得したように頷いた。


「やはりそういうことだったのか」


「だな。所詮、貧民街からきた穀潰しは、疫病をもたらす邪気でしかなかったということか」


 彼らの口をついて出る言葉のすべてに毒が感じられた。


 それらに埋め尽くされていく聖堂内は、(けが)れをはらんだどす黒い煙に埋め尽くされていくようだった。


 息苦しさに目を回しそう。


 このまま何も反論しなかったら押し切られてしまう……!


 わたしは必死になって思考を巡らせ、なんとかして場を好転させようとしたのだけれど――


「違う」


 ポケ~っと聖杯を見ていたリアが、いきなりおかしなことを呟いた。


「あれ違う。聖杯じゃない。偽物」


「え……?」


 偽物……? 偽物なの!?


 彼女が何を言っているのか理解できず、茫然となる。


 ざわついていたお偉いさんたちも一斉に静まり返った。そんな中、


「聖杯違う。本物、もっとキラキラしてる。その偽物、汚い」


 そう発して、小首を傾げるのだった。

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