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【第1章完】転生魔女と天才聖女 ~居場所をなくした私たち二人が、最強の相棒となって幸せを見つけにいく物語  作者: 汐柳伊織


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17.論破する幼女――『神前裁判』 ~抗弁~

 支離滅裂で嘘八百な告発を終えたあの人たちは、とても満足そうに笑い合っていた。そんな中、


「では次に被告のオル=レーリアと赤毛の小娘よ。申し開きがあったら申せ」


 訴えには一言も触れず、神殿長やお偉いさん方がこちらを睨んできた。


 いよいよわたしたちの番が来た。


 反論したかったのをぐっとこらえて我慢してきた。


 今こそ反撃のとき。


 わたしたちを極刑に追い込むためだけに、至宝である大聖杯まで持ち出すとか、ホント正気の沙汰ではないけれど。


 でもそれがきっと、彼女たちにとっては最大級の誤算となるはず。


 だって、自分たちが致命的なミスを犯していることに、気がついていないのだもの。


 今回の一件が彼女たちの自作自演なら、当然あれもあるはずなのに、どうしてこの場に用意しなかったのか。


 ホント理解に苦しむ。


 でっち上げただけの目撃情報と、中途半端な物的証拠だけでは罪を確定させることなんてできない。


 わたしたちはそこにすべてを賭けるつもりで、立ち向かうことにした。


 もしここで相手を論破できなければ、たぶん、未来はない。


「ん。わかった。答える」


 神殿長の言葉に、相変わらずめんどくさそうな顔をしてリアが応じた。


 わたしたちは絶対に勝つんだという気持ちを奮い立たせて、ふたりして軽く頷いた。


「まず、あの人たちの言ってること、全部でたらめ」


「なんですって!?」


 いつもの調子でリアがしゃべると、特にバカにした風でもなかったのにエヴリンが吠えた。


「静かにせんか!」


 それに神殿長のカツが入る。

 再び静寂が戻った。


「リア、朝の儀式、終わったあと、お腹空いたから、すぐ部屋戻った。そのあとずっと、おやつとご飯食べて、お昼寝してた。アネットも一緒。この子をモフってた」


 そう静かに告げるリア。わたしは――


 うんうん。そうだよね、そのとおりだよ、リア。


 わたしたち、あそこでうろついてなんか――て、そうじゃないでしょぉ~!


 思わずノリツッコミしてしまった。


 冷や水浴びせられたような気分となり、一気に現実に引き戻される。


 確かに彼女の言うとおり、実際にはそうだったけれど……。


 でもそれ、今ここで言うことじゃないでしょ!?


 しかも、神殿の規律的にまずいし。


 本当は休憩時間以外、お勤めとか訓練とかしてなくちゃいけないんだから!


 なんだか別の意味でヒヤッとさせられてしまった。


 案の定、神殿長だけでなく、お偉いさん方の表情が険しくなっている。


 今しも怒声を浴びせてきて、懲罰房送りにされそうな雰囲気だった。


 やばい……。


 このままリアに任せていたらとんでもないことになりそう。


 わたしは静かに手を上げた。


僭越(せんえつ)ながら、わたくしから申し上げてもよろしいでしょうか?」


 五歳児の台詞ではなかったけれど、気にしてなんかいられない。


 最大限の敬意を払わないと、発言なんか認められないから。


「許可する」


「ありがとうございます」


 わたしは一礼してから再び口を開いた。


「オル=レーリア様のお言葉を補足させていただきます。わたしたちは午前の儀が終了次第、速やかに退席し、部屋に戻りました。その後、わたしは侍女官としてのお務めを果たすべく、ずっと、お世話、部屋のお掃除、それから午後に予定されていた聖礼の儀の準備をしておりました。ですから、あの方々がおっしゃるような、神殿の秘宝を盗み出す時間も余裕もございませんでした」


 静かに、けれど決然と訴えた。


 けれど、「ふむ」と、神殿長はつまらなそうに声を漏らすだけ。


 それをどう受け取ったのか、「口ではなんとでも言えるわよね」と、勝ち誇った笑みを浮かべたエヴリンが口を開いた。


「あんたたちがずっと部屋にいたって誰が証明できるのよ? ジョアンナかしら? ふふ。ざ~んねん。その人の言うことなんか当てにならないわ。だって、あんたたちが悪事働いたって、全部してないって口裏合わせるに決まってるもの」


 終始余裕の笑みを浮かべているエヴリン。


 神殿長は彼女の発言を特に止めようとしなかった。


 だったら、それを利用させてもらうまでだわ。


「確かにわたしたちの行動を証明できる人は他に誰もいません。ですが、同時に聖杯があった場所に、わたしたちが近づいたということを証明できる人も、誰もいないんじゃありませんか?」


「なんですって?」


 わたしが正論を返したせいか、エヴリンから笑顔が消えた。


「考えてもみてください。午後の儀式にも聖杯は使われることになっています。そして、それに手を触れることが許されているのは上位の神官様方だけです。つまり、聖杯を運ぶために、儀式が終わったあと、必ずあの部屋には運搬係の方々がおられたはずです。儀場を片付ける方々もいらっしゃったはずです。でしたら、わたしたちが大聖杯にまったく手を触れていないことを証明できる方々もおられるのではありませんか?」


 わたしたちに味方し、証言してくれる人たちがどれだけいるかはわからない。


 だけれど、少なくとも議場周辺をうろついていたなどという、でっち上げよりかは遙かに信憑性の高い状況証拠だと思う。


 静かに、そして畳みかけるように反論したわたしに、エヴリンが焦りの色を浮かべた。しかし、


「た、確かにあんたの言うとおり、そうかもしれないけれど。でも、だからといってあんたが盗み出してない証拠にはならないわ」


「え……?」


「考えてもみなさいよ。午前と午後の儀式はそこそこ時間も空いているのよ? だったら、あんたたちみたいなこそ泥に万が一盗まれないようにって警戒して、一度警備が頑丈な宝物殿の中に戻したかもしれないじゃない」


 あの人の言ってることはまったく筋が通っていなかった。


 宝物殿に入れられたら、それこそわたしたちでは手出しができなくなる。


 だって、強固な警備用魔導具と神聖魔法のふたつによって守られているのだから。


「エヴリン・キンセル様。お言葉を返すようで申し訳ございませんが、それこそ無理難題です」「はぁ?」


「今、ご自身でおっしゃっていたではございませんか。宝物殿は賊などの侵入を許さないような設計になっている、この神殿で最も警備の固い場所だと。普段は人通りはありませんから、わたしたちがそこに行かなかったと訴えても、それを証明する手立てはございません。ですが――」


 わたしはそこで一拍おき、にっこり笑う。


「わたしたちみたいな下賎な輩に、女神様のお力の粋を集めて練り上げられたあの強固な結界を破れるとお思いですか? 鍵の管理も神殿長様やシュレーゲン・ドルトイ様が行っておりますし、鍵も聖杯も、盗み出すことなんて不可能です。何より――」


 もう一度そこで言葉を切り、しっかりとためを作ってから、


「大聖杯を運び出すことは、わたしたちには物理的に不可能です。わたしの身体より大きなものを、どうやって運ぶというのですか?」


 大人ですらふたりがかりじゃないと運べないくらい大きくて重いと聞く。


 たとえジョアンナがいたとしても、わたしたち三人で運べるものではない。


 つまり、最初から前提がおかしかったのよ。論理がムチャクチャすぎる。


 わたしは嘲笑するわけでもなく、勝ち誇るわけでもなく、ただにこっと笑って見つめ続けた。


 果たして――


「そ、そんなの、どうとでもできるでしょ! 適当に金払って買収でもなんでもすれば、儀場からだって奪えるし、警備だって突破できる上位の神官とか、神殿長から鍵――」


 見たことがないくらいに冷や汗かいて狼狽していた。けれど、さすがにそれ以上はまずいと気がついたみたい。


 慌てて口をつぐんだ。


 神殿長含め、その場にいたすべての上位神官たちが嫌悪感も露わに、彼女を睨みつけた。


 ……まぁ、あんなこと言われたら、誰だってそうなるよね。


 事実上、神殿長たちがわたしたちの共犯者だって言ってるようなものだし。


 もはや呆れを通り越して哀れに思えてきた。


 顔面蒼白となって、ひたすら「違う違う」と目を泳がせている。


「こんなの嘘よ……なんでこのわたしがあんなのに……計画は……だったはずなのに……」


 何かぼそぼそと、独り言のように声を漏らしながら、エブリンが後ろによろめいた。


 そして、壇上から転げ落ちそうになったところで、慌てて手下に支えられた。


 そんな彼らを神殿長は溜息交じりに眺めている。


 勝敗は決した。


 なんだかあっさり終わったような気もするけれど、これまでの嫌がらせでためさせられた鬱憤(うっぷん)も晴らせたわけだし、終わりよければすべてよし。


 嘘偽りなき公平さを掲げたわたしたちに、女神様の天秤が傾いたということ。


 わたしたちは顔を見合わせた。


 ジョアンナが「よくやった」と、両拳を微かにぎゅっとする。


「これでおやつ食べられる?」と、リアは相変わらずの反応だった。


 本当にもう、この子ったら。

 だけれど、これで面倒事から解放される。


 わたしたちは抱き合うようにしながら、お互い笑顔で見つめ合った――しかし。


「――まだよ……」


 唐突に、エヴリンがぼそっと呟くように掠れた声を発した。


「まだ終わってなんかいないわ。そうよ……あのクソガキの部屋に破片があったことだけは事実なんだから。そうよ、そうだわ……! だったら、多少危険でも聖杯と破片を接合鑑定して、あれが本物であることを証明すればいいだけなのよ……そうよ! 聖杯さえ持ってくれば――あは……あっははは……!」


 正気を失ったように両腕を高く掲げて、大笑いしながら天を仰ぎ見るエヴリンだった。


 そんな彼女に、わたしは呆れ果ててしまった。


 ……この期に及んで何を言い出すかと思えば。


 確かに今ここで聖杯を持ち出されたら、わたしたちの立場が危ぶまれるのは火を見るより明らかだ。


 だって、相手の穴だらけだった論拠を切り崩して、罪自体が嘘だったと証明するための策を講じられたのは、そもそも聖杯がなかったから。


 もし行方知れずの聖杯本体が最初から用意されていたら、そもそも論拠を出し合って論戦する必要なんてなかったわけだし。


 はなから欠片が本物かどうかの判定さえ行えばすむ話。


 そしてその結果、本物と断定されたら、その時点でたぶん、わたしたちに未来はなくなる。


 たとえそれが仕組まれたことだったとしても、あの欠片がわたしの部屋にあったことだけは確かなのだから。


 否定できる強い証拠も持っていないし、何より、わたしたちは貧民だから、「無実だ」と訴えても誰も信用なんかしない。


 たったそれだけの理由で、窃盗や器物損壊に関わったとして、冤罪が確定されてしまう。けれど――


 今ここに、聖杯はなかった。


 行方不明の秘宝がいつどのタイミングで必要になるかなんて、裁判を傍聴している人にしかわからない。あの人たちがもし隠し持っていたとしても、そんな都合よく持ってこられるはずがない。


 魔導具か何かを使って、内と外で連絡を取り合っているような協力者でもいない限りはね。


 そう思って溜息をついたのだけれど――


「た、大変です、神殿長様!」


 部屋の扉を蹴破るようにして、見覚えのあるひとりの男性神官が飛び込んできた。


 ――あの人……いつだったか、わたしに絡んできて勝手に自滅して逃げていった人だ。


「なんだ、騒々しい。今は審議の真っ最中だぞ!」


「で、ですが――見つかったのですよっ。盗まれたと思われていた大聖杯が!」


「なんだと!?」


 え……? 嘘でしょ? このタイミングで? 本当にやりとりしてたってこと?


 扉付近に立ったまま叫んでいたあの男性神官が、ふと、なぜかわたしを見て、微かに嫌な笑みを浮かべたような気がした。


 まさか……。


 心がざわついた。


 あの人、もしかしてエヴリンたちと手を組んだんじゃ……。


 騒然とする室内。


 成り行きをただ見守っていることしかできなかったわたしたち。そして――


 ガタガタと、台車か何かが転がる重い音をさせながら、それが姿を現した。


 ――大聖杯。


 頑丈そうな大きなワゴンの上に置かれた、煌びやかな宝飾が施された杯。


 金色に光る聖杯の口縁(こうえん)は――欠けていた。

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