11.闇に潜む悪意 ~歪んだ理想と思惑~
一方その頃。
大理石作りの広い一室に、その人物はいた。
白を基調とした煌びやかな法衣を身にまとった男。
白髪を後ろに流し、恰幅のいい身体で執務椅子に座っている。
神殿長ガークス・エル・ヨハンセンだった。
「おい、シュレーゲン。あの小娘どもは最近どうしておる」
神の教えを説く神殿の一室とは思えないくらい、豪華な調度品や絨毯などに支配されたその場所には、ガークス以外にももうひとり、金髪の男がいた。
「そうですね。いつもと変わらず、自由気ままと言いますか、他と歩調を合わせることもなく、例の娘ともども脳天気に暮らしているようです」
執務机越しにそう報告した神殿長補佐官シュレーゲン・ドルトイの言葉に、ガークスはあからさまに不愉快そうに顔を歪めた。
「たく。ほんに目障りなクソガキどもめが。貧民というだけで虫唾が走るというに。そのうえ社会秩序を乱しかねんほどの、傍若無人な振る舞いの数々。どれだけ神殿の規律を歪めれば気がすむのだ」
吐き捨てるように言い、彼は机を右拳でどん、と叩いた。
「ですが、彼の者が神殿に多大なる利益をもたらす存在であることもまた事実。本当に厄介ですな」
中央でわけた前髪の隙間から碧眼を覗かせるシュレーゲンに、ガークスが舌打ちする。
「これもすべてはあの忌々しいクソ女のせいというわけか。奴がしゃしゃり出てこなければ、このようなややこしいことにならんですんだものを。なぜ、よりによって貧民なんぞ連れてきおった。ここは唯一絶対にして侵すべからざる貴族の聖域だぞ?」
「……まぁ、それだけ能力が高く、有能だったということなのでしょう」
静かにそう締めるシュレーゲンに、ガークスは沈黙した。
しばらくしたのち、「まぁよい」と、つまらなそうに呟き、立ち上がる。
「シュレーゲン。引き続き、儀式などの細々とした雑務のすべては貴様に任せる。あのような平民や貧民がうじゃうじゃいる空間など、迂闊に入って汚染されたら高貴なる我が血が汚れてしまうからな」
そう言いながら窓辺へと歩いていく神殿長に、「承知いたしました」とシュレーゲンが応じ、部屋から出ていった。
ひとり残されたガークスは、自室のある本殿三階窓から東の空を眺めた。
そちらには聖女候補たちが住まう、聖女殿がある。
「陰る空に陽光なしか。まるでわしの心を映した鏡のようではないか。このままではいずれ、賎民どもの腐敗した淀みにすべてが飲み込まれてしまう。やはり、神に選ばれし者のみが住まう理想郷を、この手で築き上げるしかないというわけか」
そう呟き、ガークスはどこか遠くを見るようにしながら薄く笑った。




