0.幼い二人が掴み取った幸せな『未来』
わたしたちは今、旅の途中で立ち寄った比較的大きな宿で、羽を休めている。
決して立派とは言えなかったけれど、淡いランプの光に照らされたその一室は、旅を続けるわたしたちにとってはとても居心地がよく、安心して寝泊まりできる素敵な場所だった。
借りた部屋も広く、ちょっと人様には見せられない、負のオーラと強烈な威圧感を放っているうちの子たちも、これだけあれば、外に出してあげられるしね。
わたしはそう思いながらも、木製の粗末な椅子に座ったまま、背後を振り返った。
ふたつあるベッド以外の床すべてを覆い尽くすほどに大きい、真っ黒な毛玉と銀色の毛玉のふたり。
巨大な彼らは、そうとしか表現できないような姿形をしていた。
床の上で丸まって寝ている姿は、ホント、クッションにしか思えない。
これが世界を滅ぼす厄災級の化け物とか言われてもね。
それなりの時間一緒に過ごしているけど、いまだに実感がわかなかった――まぁ、あんなことがなければ、の話だけれど……。
わたしはこれまでの旅で何度も目にしてきた凶悪な姿を思い出し、身体をぶるっと震わせた。
襲いかかってきた残念なお兄さんとか賊とか、神殿関係者とか。
全部片っ端から吹っ飛ばしちゃうんだもの。
ホントやばすぎる……。
だけれど――このふたりはおそらく、これからもきっと、変わらずわたしたちのことを守ってくれるのだろう。
立ち塞がる厄介な敵や、追いかけてくるあいつらからも。
でもね――お願いだから、その辺焼け野原にだけはしないでよね!
わたしは軽くお祈りしながらも、気持ちを新たに、再び机に向き直った。
そして、そこに置かれていた無地の本とにらめっこする。
――旅の記録。
せっかく見知らぬ世界を見て回っているのだし、記録として残しておいた方がいい思い出になるかなって、そう思ったから。
だからこうして、本当に今更だけれど、書いてみようかなと、そう思い立ったのだ。
だけれど――こういうのって、何から書き始めていいのかわからないのよね。
「う~ん……でも、そうね」
まずはやっぱり、彼女と出会ったあの日のことから書くのが一番いいかな。
「ふふ」
「ん? アネット、何してるですか?」
悲しくも思い出深いあの日の出来事が懐かしすぎて、ついつい笑ってしまったわたしに、いきなり後ろから声がかけられた。
――リア。
白銀の髪がとても綺麗で愛らしい、十歳の女の子。
ここまで一緒に旅をしてきたかけがえのない存在。
「あ、うん。旅の記録――というと大げさかな? そうね、日記を書こうと思っていたの」
「ふ~ん? 日記? よくわからないですが、アネットは凄いのです。お利口さんなのです!」
椅子に座っていたわたしの右頬にそっと顔を寄せるようにして、後ろから本を覗き込んできた彼女が、にこっと笑った。
そして、わたしの頭をいい子いい子し始める。
……本当にもう。相変わらずなんだから。
わたしより彼女の方が年上だから仕方がないけれど、わたしの中身は五歳じゃなくて大人だから、あまり子供扱いしないでほしいのよね。
でも……悪い気はしなかった。
だって、彼女といると、本当に楽しいから――うん、そう。いつもそうだった。
右も左もわからない状態で、あそこから飛び出してくることしかできなかったけれど、それでも挫けずにやってこれたのは、彼女がいてくれたから。
『治癒の要』として大勢の人たちを救ってきた心優しい彼女がいたから、がんばってこれた。
いつも明るくて、元気で、愛らしくて。
ホント、そんな彼女を自ら手放したあの人たちは、正真正銘の愚か者だと思う。
こんなにもいい子なのにね。
しかもその結果、自ら滅びの道を辿るとかどうかしている。因果応報としか思えない。
でも――
そんな、どうしようもなく酷いところだったけれど、あそこでの日々があったから、今のわたしたちがあるのもまた事実。
唯一味方してくれたあの人と出会えたのもあの場所だった。
だから――うん。そうだね。
あそこが正真正銘、わたしたちの原点。
そして、そこへと至る道しるべとなったのが――切なくも笑えてくる、あの日の出来事だった。
「あなた、綺麗な魔力してる」
あの日、そう語りかけてきた彼女のことを、今でも鮮明に覚えている。
鈴の音が鳴り響く人混みの中、駆け寄ってきた真っ白な少女。
あのときのわたしはただただ困惑するばかりだったけれど――それでも、あの瞬間から、世界がほんの少しだけ開けていったような気がする。
――あれがすべての始まり。あの出会いがあったからこそ、わたしは今ここにいる。
ふふ。リア、一緒にがんばって大神殿まで行こうね。そうしたらきっと、道が開けるから。
わたしは改めて、何も書かれていない頁を見つめた。
魔法の羽ペンを手に持つ。
そして――
今はもう会えないあの人から教えてもらったこの世界の文字を、一生懸命思い出しながら、ペンを走らせた。
のちの運命を左右することになる、すべての始まりとなったあの日の出来事を、脳裏に思い描きながら。
数ある作品の中から本作を手に取っていただき、誠にありがとうございます。
本作は、二人の少女が絆を深めながら、いろいろな意味で最強の二人へと成り上がっていく物語です。
気に入っていただけましたら幸いです。
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そんなわけでして、今後とも、応援、ご愛読のほど、よろしくお願いいたします(ぺこり




