第九話
あの事件以降、理事長が計らってくれたのか特に大きな問題が起こることはなかった。カレルの大怪我の原因がロルフではないかとうわさされる程度だ。
遠巻きで見られるのは気分の良いものではないが、元々クラスで孤立していた。独りになるのは慣れっこである。
今は、学校が所有しているいくつかのダンジョンの一つに来ていた。クラスの課外授業である。
ダンジョンは、昔の人が建造したものであると言われている。何のために建てられたものかは分からない。長年、その手の研究者が少しずつ解明を進めている。
例えばオズのような兵器を隠すというものもいれば、何かを祀るための祭壇だと言うものもいる。どちらにせよ碌でもないというのは、ダンジョンの構造が物語っていた。
ダンジョンから湧き出る魔力は、魔物を作り溢れさせる。定期的に駆除をしないと世界はあっという間に魔物で溢れかえってしまう。
そしてその特別な魔力は、人間の身体にも還元されるようになっていた。
つまり、今やダンジョンは生活のサイクルの中心になっている。学生の頃から潜るのに慣らして、適応させていくのが今の国の方針だ。
前を歩くメリアを見て、ロルフはため息をついた。そんな彼の後ろからは、オズがちょこちょことついてきてる。
「良いか? 私はあまり手を出さないからな」
確認のように言うメリアに、ロルフは剣を握り直す。
「オズを使うのも禁止だ。命令で制御させる訓練でもあるからな、しっかり待機させておけよ」
監視役のメリアとともにいるのは、ダンジョンの浅い部分。出てくる魔物は奥にいる凶悪のものに追いやられた弱いものばかり。
代表的なもので言えば、コボルトだろうか。犬型の魔物は、群れでこちらを襲ってくる。それをロルフは一人で倒すことをやらされていた。
ほかのクラスメイトたちはナディアの指示でさらに奥へと潜っている。つまり、今ここで醜態を晒しても、メリアに叱責を食らうだけであった。
オズが動かないように注意しながら、現れたコボルトと相対する。剣を振りかぶろうとしたところで──
「敵意検知、殲滅モードに移行します!」
オズが動き出そうとしてしまう。
「オズ、大丈夫だ待機してくれ!」
「……分かりました」
命令が間に合った。そう安心したのもつかの間、背後からコボルトにこん棒で殴られて昏倒する。
「まぁ、なんだ。……優先順位はきっちりできててえらいぞ」
メリアの慰めが余計に傷に触った。
※※※※※※※※※※
「はいはーい! 今日の授業は終わりまーす!」
ナディアの耳障りな声が響く。頭の怪我に障る彼女の声は、とても不愉快だ。
しかし、そんなことはつゆほども感じていないだろう。
クラスメイトたちは、疲れた〜と和気あいあいモードである。ロルフはそこに混ざれることすらなく、ただ立ち上がる。
「ナディア先生、ここにいましたか」
そんなとき、聞き慣れない声が聞こえてきた。見たこともない白衣の男が、ナディアに近づいていく。
「少し、あなたの特殊なクラスメイトについてお話が……」
「あーはいはい。オズちゃんのことですね?」
「オズ……と呼んでいるのですね彼女のことを。はい、そのことなんですが──」
話の内容がこちらに関係がありそうだったので静かに聞き耳を立てていた。しかし──
「何をしている置いていくぞ?」
メリアに遮られてしまう。
まぁ、気にしても仕方ないかと大きくため息をついた。オズを引き連れたまま、メリアの後ろをついていく。
※※※※※※※※※※
あのあと理事長は、国に呼ばれたらしい。
らしいというのは、人が話していることを耳にした程度のものだからだ。
理由は明白、オズのことで何か報告することがあるからだろう。
それと同時に、学内での異変は他にもあった。先ほどのように、白衣を着た研究者風の者がちょくちょくと現れるようになったのだ。
生徒たちは何かあるのではないかと噂されている。カレルの事件を知っているものは、そこにつながりがあるのではないかと言っているものもいる。
まぁ、当たらずとも遠からずというやつだろう。
背中に視線を感じて、振り返った。メリアが腕を組んで壁にもたれかかって待機している。
寮内以外ではほぼ四六時中このように監視されていた。そのおかげで余計にクラスから浮いている。
──……いや、元々か。
諦観にも似た気持ちになりながら、机に突っ伏した。
クラスのざわめきを聞きながら、早く次の授業始まらないかなと目をつぶる。
「ナディア先生、さすがに遅くない?」
少ししたあと、そんな声が教室のどこからか聞こえてきた。
顔を上げて時計を見ると、授業が開始してから十分は立っている。
誰かが呼びに行くべきかざわめき始めた頃、教室に見知らぬ男が二人入ってくる。
「はい、静かにしてね〜?」
教壇に立つ黒ローブの男たちは、何の前置きもなく言い放つ。
「動くと殺すから」
酷く完結で、とても唐突な出来事であった。




