表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

第八話

「は、はは……マジかよ」


 カレルが血を吐きながら、呟いた。彼の呼吸は浅く、見るからに重症だ。

 それでも笑ってロルフを見ている。やりやがったなと。


 ロルフは悪くない。やったのはオズだ。自分は止めた。

 何かが噛み合わなかっただけだと、震える拳を握る。


──そうだオレのせいじゃない。

 周りが勝手に巻き込んだだけ。

 目撃者もいない。このまま何も知らずに戻れば、素知らぬ顔ができる。


 いや、無理だ。疑われるのはまず自分なのだと思い当たった。

 カレルに一番恨みのある人間は、ロルフだとクラスの誰もが知っている。


「おえ……」


 また吐き気がして、口を抑えた。


「マスターどうしますか?」


 そんな彼の考えを知らないオズは、返り血の浴びた制服で振り返った。純粋でまっすぐな瞳は、カレルの心の奥底を抉る。


「とどめを刺しますか?」


 その言葉に震え、崩れ落ちるように地面へ座り込んだ。


「……まったく、派手にやったな」


 凛とする女声が聞こえてきた。顔を上げると、メリアが立っていた。

 涙でグシャグシャの顔を見せるが、彼女は小さくため息を漏らすばかりだ。


「……状況はわかった」


 メリアは倒れるカレルに近づく。その拍子に、彼の傍にあった石のような物を踏んだように見えた。

 覗き込むように見て、大きくため息をつく。


「明確な急所は外している。手遅れではないな……ただ」


 彼女はお図と顔を合わせて、肩をすくめた。


「これは問題行動だな。校舎の破壊に敷地内での争いそして傷害。何かしらの罰はあるだろうな」

「お、オレは、悪くない! 襲われただけだ!」

「被害者面をするのは、教室でイジメられてる時だけにしとけ」


 メリアの言葉に、喉を鳴らす。何か心の深いところに刺さったそんな気がした。


「実害が出た以上、お前にも責任はある。何より、オズを制御できなかったのはお前の問題だ」

「違う! そもそも、カレルが襲ってこなければこんなことにならなかった! いや、そもそもカレルがダンジョンに置いてきぼりにしなければ、オレがオズと会うこともなかった!」

「言い訳は済んだか?」


 メリアのそのひと言で、風の音が戻ってきたような気がした。遠くから生徒たちの声が聞こえ始める。

 

「……今なら、私が丸く収めてやる。母にかけあってもやれる。ただし、しばらくはお前の監視をさせてもらうがな──選べ」


 その言葉に、震える口を開く。


「……お願いします」


 何か致命的に、後戻りができなくなった。そんな気がした。



※※※※※※※※※※



 あのあとどうなったのかも知らない。ただ、自室に戻っておけとだけ言われた。

 ベッドに寝転びながら天井を見つめる。


「マスターの心拍数が──」

「うるさいな」


 オズの声を遮って、ロルフは起き上がる。彼女を睨みあげてから、ベッドの縁に座った。

 返り血を浴びたままの彼女は、視線が合うと首を傾げている。その素っ頓狂な顔を見ると無性に腹が立ってきた。


 オレは悪くない。オズが勝手にやったこと。そう頭の中で反芻して、心を落ち着かせる。

 しかし、落ち着けるはずはなかった。心のざわめきは、貧乏ゆすりとなって呼び起こされる。


 そんなとき、部屋がノックされた。唐突のことで、心臓が飛び跳ねる。しかし、出るわけもいかずに立ち上がる。


「ここで待機しとけ、絶対動くな」

「分かりました」


 オズに命令を下してから、ドアを開ける。


「いよっ!」


 軽いノリで挨拶したのは、理事長だった。


「少年、困ってるって聞いたぞ? 上がってもいいか?」


 断れる理由があるはずもなく、理事長を部屋に上げる。自分の部屋に訪ねてくることがあるだなんて、つい昨日までは思ってもみなかった。

 理事長はオズを見つけると、「これはこれは派手にやりましたなぁ」と笑っている。


「緊張しているようだが安心していい。君は巻き込まれたと状況が物語っていた」

「ほ、本当ですか?」

「あぁ、但しこの娘──えっとなんて呼んでいる?」


 理事長は顎に指を置きながら、振り返るように尋ねてくる。


「オズです」

「そうか──オズのケアをちゃんとしろ」

「しかし……。オレが何か言ったところで止まら──」


 言い訳を並べようとしたロルフに、理事長は手で制止する。


「私が言いたいのは、言うことを聞かせろではない。誰も彼女が制御できるとは思ってない」

「……つまり?」

「オズのことをちゃんとしてやれと言っているんだ。返り血を制服につけたまま女の子を立たせるのか? 違うだろ?」


 無茶苦茶だと思った。オズは人間ではない。それと同時に、何故か彼女の言葉に納得してしまう自分がいる。


「ほら、まずは制服を脱がせてお風呂に入れさせるところからだ」

「え!? オレがやるんですか!?」

「当たり前だ、お前のオズだろう?」


 そんなペットみたいなと思ったが、理事長に逆らえるような気がしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ