第六話
午後の授業は、校庭で定期的にやる魔術測定だった。
一ヶ月に一回やって、どれほど伸びたのかを測る。
正直な話、ロルフはこの時間が体育の時間の二人組になってレベルに嫌いであった。
公開処刑をされているような気分になる。
皆が意気込んで得意魔術を披露してる中、ロルフは遠くからただ座って頬杖をついて眺めていた。目の中の光は消えて、完全に気配を消しているモードである。
「マスターの心拍が乱れています? 何か不満な点がありましたら、オズが解決してみせます」
隣にいる少女の無機質な声が、その気持ちを余計に際立たせる。
余計なことをしなくていいと、ため息混じりに言った。
「それでは次はオズちゃん。やってみよう〜」
ナディアの場違いに明るい声が響いてくる。注目がオズに集まるが、彼女は頑なに動かなかった。
「あぁ、もう!」
オズの背中を押して生徒たちが集まってるところへ連れて行く。彼女はただロルフを見つめるばかりで、何も行動を起こさない。
クラス中から早くしろよという圧力を感じた。
その圧力の中には、「どうせロルフの知り合いだから大したことないだろ」と言う目も混ざっている。
「オズちゃん何か得意な魔術とかありますか?」
オズは答えない。
「えーと……?」
困った表情を、ロルフに向ける。教師なら自分で解決しろと思うのだが、心の中で飲み込んだ。
「オズ、何か見せることはできるか?」
「はいマスター実技演武ならできますが」
「……じゃあそれで」
どうなってもロルフは知らない。責任はこちらに丸投げしたナディアにある。
そう思わなければ、そこに立っていられなかった。
オズは指示を聞くと、右手を空中に構える。瞬間、風圧が生徒たちを襲う。
その光景を無視したまま、彼女は無表情で空に光の玉のようなものを放った。
数秒後落ちてきたのは数羽の鳥。どれも致命傷を負って絶命している。
「出力、五パーセント。私の想定は“世界に湧き出した敵意に対抗しうる力”です。さらに証明が必要ならば、周囲の人間たちをくち──モゴモゴモゴ」
何か不穏なことを言い始めたオズの口を塞ぐ。愛想笑いをしながら、彼女の手を引っ張った。
「す、すごいですねぇ〜……」
ナディアはすっかり困惑顔だ。生徒たちも固まってしまっている。
ロルフのいたたまれなくなる気持ちが拡大した。
「少し良いかな?」
そんなとき、聞き覚えのある声が響いた。固まった空気の中でも通る凛としたものは、メリアのものだ。
クラスのざわめきは、奇異から好意へと変わった。さすが人気者は違うなと、頭の隅で思う。
「な、なんでしょうかぁ?」
「理事長から、少しオズの状況を見るようにと言われてね。……ふむ、気は重かったが少し来てみてよかったな」
クラスの空気と落ちている鳥の死骸を交互に見て、メリアは顎に手を添える。
何か説明を求めるナディアの視線に釣られて、彼女は口を開く。
「オズは特殊な病にかかっていてな。ロルフが魔力を供給しないと生きていられないんだ。でも、最近は回復傾向に向かって通うことになった」
その言葉で一斉にこちらへ視線が向かって来る。
またしても余計な注目に、ロルフはあからさまに顔を歪ませた。
「ちょっとズレてる点もあるけど仲良くしてやってくれ」
彼女の説明に、クラスメイトたちは納得する。同時にロルフのことを見直したという声も聞こえるようになった。
「あの人から嘘を感知しました。マスターどういたしますか?」
「……どうもしなくていい」
なんで周りは放っておいてくれないのか。これならば、意地汚く生き残るよりあの時死んだほうがマシだったのではないか。
そう思いながら、空を見上げた。
「ということで、先生には伝えることが少しある」
そう言ってメリアは生徒たちから距離をとって、ナディアと話し始めた。
ナディアは困った顔をしていたが、話自体は真剣に聞いている。
手持ち無沙汰になり始めた生徒たちは、ロルフとオズを囲み始める。
皆笑顔を向けて、こちらに向かって話しかけてきた。
その光景がぐわリと歪む。
Eランクなのは今まで魔力を分けてたからなんだなと勘違いした言葉を聞いて、吐き気を催しそうになった。
実力主義の底が見えた気がした。今まで弱かった立場のものが注目を集め始めた途端手のひら返す光景は、ロルフからしたら鳥肌ものだった。
──現金な奴らめ。
頭の中で見下す言葉が浮かぶ。正直な話、殺意さえ心の底から湧いてき始める。
横のオズを見た。彼女がロルフの心理を汲み取ったからなのか、動き出そうとしていた。
それを手で制する。
無理に笑顔を作って、ロルフは頭の後ろをかく。
「そうなんだよ」
保身のために、嘘を重ねることを選んだ。




