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第五話

 憂鬱だ。


 今のロルフの気持ちを現すなら、それが一番だろう。頬杖をついて、窓の外を眺める。


 日差しが眩しく、現実逃避するには丁度いい気候だ。このまま街の外の山奥まで意識を飛ばしたい。


 教室の視線を一斉に受けるのは、ロルフの横で待機するように立っているオズ。

 ただでさえ目立ったのに、これ以上は目をつけられることを避けたい。しかし、その願いは叶わないんだろうなと、半分諦めていた。


 教室からは「誰あの娘」だの「誰か話しかけてこい」だのが聞こえてくる。


「マスター、何か部屋中が欺瞞に満ちています」

「……だろうな」

「居心地が悪いのなら、私が治めてまいります」

「……マジでやめてくれ」


 答えると、「了解しました」と短く返ってきた。それを聞いて大きくため息をつく。


 今朝のカレル絡みの事件はまだ冷えていない。もうこのまま昼休み中の今のうちに抜け出してサボろうかなとさえ思う。

 しかし、ランクの弱い自分は授業態度も悪かったら、本格的に社会から取り残されてしまう。


 この世界は残酷だなと、嘆息をついた。こんな時に考えるのは、テロでも起こって学校が潰れることだ。そしたら自由なのにと感じる。


 仮初の自由なのは置いておいて……。


「ハイハイハイハイ、ちょっと早いですがぁ、午後の授業に入りますよぉ?」


 入ってきた教師のひと言に、教室中が不満の声でざわめき立つ。

 茶色い髪に小柄の女性教師は、アホ毛をぴょこんとさせて教卓についた。


「別に好きで皆の癒しの時間を邪魔したいわけではありません。先生だって急に言われておこなんですよぉ?」


 この教師はナディア・ロンチェスタ。Bランクの教師だが、ゆるっとした態度が生徒たちに大人気だ。

 ロルフからしたら本質が見えていない人なので、苦手な教師なのだが。


「今から転入生ちゃんの紹介をします。皆さん、静かにしてくださいね」


 そう言われて、やはりオズへ視線が集まる。

 彼女はなんで自分に視線が集まっているのか気にする様子もない。ただ黙って突っ立っている。


「転入生ちゃーん? 大丈夫ですかぁ?」


 しかし、返事をしない。


 ロルフは投げやりになりながら、オズの手を引っ張った。注目を集めることに心をざわめかせる。

 しかし、ナディアはそのことに対して何もフォローを入れない。さも当然ですという視線まで感じる。


 思わず舌打ちしそうになるのを、心の中で隠した。


「マスターの心拍数が上がっています」

「……うるさい」


 的外れな心配をするオズを、教壇の横に立たせた。離れようとするとまたついてこようとするので、ロルフ自身もその場に残る。


「ロルフさん、ありがとうございます〜」


 本当にこの教師は何もわかっていないなと思いながら、顔を俯かせる。

 クラス中の視線が刺さるのを、目をつぶって回避する。


「それじゃあえーと、名前はなんでしたっけ?」


 ナディアが尋ねるが、オズは答えなかった。

 教室がざわめき始めて、いてもたってもいられなくなったロルフが顔をあげる。


「オズ、自己紹介」

「分かりましたマスター。私はオズ。マスター──ロルフ・センディアナ様に仕えることとなりました戦術へい──モゴモゴモゴ」


 余計なことを口走ろうとした。彼女の口を後ろから抑える。そのまま引きずるようにして自分の席に戻った。


「あ、はは……。じゃあそのままオズちゃんはロルフさんの隣の席に座ってくださいね」


 先生に指示されて、元々そこの席の人は立ち上がってオズに譲る。

 オズは黙ってそこに座り、不思議そうに前を見つめるばかりだった。


 ロルフは自分の席に座り、皆の目から逃げるように窓の外を見る。


──本当に、テロでも起きないかな……。


 今日は穏やかでとてもいい天気だ。



※※※※※※※※※※



 カレル・シュナイドは、寮の自室に戻って自分の部屋で暴れ散らす。

 すべてはあのノロマが悪い癖に、全部自分のせいにされたからだ。


 さらに、あのノロマにいつの間にかひっついていたちんちくりんの少女までこちらを馬鹿にしてくる始末だ。


「許さねぇ……」


 教科書を踏みつけて、唾を吐きかける。


 シュナイドは高名な冒険者貴族だ。その跡取り息子の自分を馬鹿にするということは、冒険者たち全員を馬鹿にするということだ。

 どうにかして罠にはめて痛い目に遭わせないと気がすまない。


 そんなとき、コツリと窓ガラスに外から何かが当たった。苛つきながらカレルは窓を開ける。


 瞬間跳んできたのは、紙でできた鳥だった。魔術で操られたそれは、椅子に止まるとそのまま動かなくなる。

 

「誰だあ? こんな時に?」


 その紙を開き、内容を確認する。


『戦術兵器を取り返す手伝いをしろ──報酬は、Bランクに昇進させてやる』


 その聞き覚えのない文字に、カレルは眉根を寄せるだけであった。

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