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第三話

 理事長室に入ると、黒髪美人の女性が迎え入れてくれた。どこかメリアと似ているが、目の鋭さはさらに磨かれている。背も高く、胸がメリアよりもさらに大きく強調されていた。


「おー、待っていたぞ」


 緊張しているロルフをよそに、理事長はやけにフランクに手を上げてくる。

 彼は肩を上げて固まりながら、曖昧な笑顔を返した。


「メリアもありがとうな」

「母さん……小間使にするのはやめてって何回も言っているよね?」

「ハハハ、私の娘なんだ固いことは言うな」


 笑う理事長に大きなため息をつくと、メリアは頭を下げてから部屋から出ていった。

 

 一人残されたロルフは落ち着きなさげに視線を彷徨わせる。

 理事長室は、思ったよりも整然としていた。もっと高級品などが置いているかと思ったが、木の机に本棚くらいだ。机の上は、羊皮紙の束が重なっていて、雪崩寸前だった。


「そんなに固まるな少年」


 声をかけられて、肩を飛び上がらせる。


「あまり緊張するような話ではない」


 そう言ってから、「いや、緊張する話ではあるか」と、顎に指を置いて考えるような素振りを見せる。


「君は、なぜ呼ばれたか分かっているな?」


 尋ねられ、思い当たることはあった。


「……あの女の子のことでしょうか?」

「そう、その通りだ」


 昨日ダンジョンを抜けたあと、ボロボロになりながらも教職員室に向かった。何があったのかと根掘り葉掘り聞かれたあと、少女のことを話して預けたのだ。

 最初は信じていない雰囲気だったが、調査してみるということで落ち着いた。


「あのあと少女のことを調べたが、古代人が作った人造人間って言うことがわかった」

「……人造人間?」

「ひと言で言うならゴーレムだな」


 ゴーレムとは、土系の魔術師の命令に従う土人形だ。

 その説明を受けて、なんとなく腑に落ちた。あの感情のない喋り方も、強力な攻撃もすべて説明がつく。


 しかし、分からないことがある。


「……なんであんなところに古代人の人造人間が眠っているんですか?」

「いやー、まったく持ってその通りだ」


 あまりにも軽い言い方に、ロルフの肩はガクリと落ちた。


「仕方ないだろう? “特定の順番で通路を巡ったあと、床のスイッチを押せば隠し部屋が現れる”。そんなもの誰がわかるっていうんだい?」

「……いやでも、あのダンジョンはずっと学校の管轄でしたよね?」


 ダンジョン自体は国が管理している。その中で比較的安全なところなどが学校が運営責任を任されていた。

 もちろん、安全は最低保証であって、死ぬことも往々にある。今回のように、無茶して真相にいけば命の危険だってある。


「ずっと学校の管轄だからこそなのだよ」


 理事長は面白がるように続けた。


「調べきったと思っていたダンジョンで、誰が、古代の遺物が残ってると思う?」


 それはそうだと納得する。いわゆる盲点で言うやつだ。

 

「おかげで国の研究者は大喜び。しばらくはあそこのダンジョンは使えん。……まったく困ったもんだ」


 ため息をつきながら、理事長は椅子に深くもたれかかった。

 本当に困ってそうに眉根を寄せている。


「……で、呼ばれた理由は何ですか?」


 本題はそこだ。説明するだけなら、ロルフをわざわざ呼びつける理由はない。あとで何気なく言ってくれれば済む話だ。

 呼ばれたせいで教室での立場がさらに悪化したのだから、それなりの理由がなかったら困る。


「……そうだそうだ。少年、『入ってきてくれるか?』と言ってくれ」

「……? 分かりました」


 意図は分からないが、理事長の言葉をないがしろにするわけにもいかない。


「入ってきてくれるか?」

「はい、分かりましたマスター」


 そこで聞き覚えのある声がする。

 理事長室の奥にあるドアが開いた。そこから、この学校の制服を着たあの少女が顔を出した。

 奇妙な瞳は昨日から変わっていない。


「え? 研究者に引き渡したんじゃなかったんですか?」

「……それなんだがな、困ったことにこの少年の言うことしか聞かないようなんだ。ここからもまったく移動しようとせん」


 理事長は肩をすくめながら、「服を着せるのもやっとだった」とため息をつく。


「えっとつまり……?」

「引き取ってくれということだ少年」

「……は!? いやいや!?」


 そんなこと言われても困る。

 自分の生活や立場もロルフはやっとなのだ。見ず知らずの少女の面倒を見ることなんてとてもじゃないができない。


「安心したまえ少年。少女は食べ物も食べないし生理現象もない。寝もしない。ただ、少年に付き従うだけだ」

「そ、そういう話じゃないです!」


 断るロルフに、理事長はそれはそうかと苦笑いしながら肩をすくめる。


「こっちも無茶なお願いをしているのは分かっている」


 しかし、真剣な瞳を彼女は向ける。


「ただ、協力してくれたらだが──国からある程度の立場を保証される。少年にとっては悪くない取引だと思うのだが?」


 それを言われると、ロルフは何も言えなくなった。

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