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第二話

 この世界は残酷だ。

 魔法の適正で人間的価値観が決まってしまう。


 ロルフ・センディアナは一応は有名貴族家の一人だ。いや、今やだったといったほうが良いだろうか。


 魔術適正は最低ランクのE。適正属性は基本五大元素の土。

 やれることと言えば、土をコブ程度に盛り上げる──それだけ。


 当然こんなお荷物は学校のクラスメイトたちは一緒に組みたがらない。たまに活用されるとすれば、ダンジョンに潜るための荷物持ちくらいだ。

 運が悪ければ、切り捨てられる──昨日のように。


「でさ、お前どうやって帰ってきたわけ?」


 耳に飛び込んできたのは、少し嗄れたような声。顔を上げると、金髪切れ目の男がこちらを見下していた。

 クラスメイトカースト上位で自分はできる男だと思い込んでる──カレル・シュナイドだ。

 切れ長で三白眼の瞳は、睨まれただけでロルフは嫌悪感を覚える。

 主に吐き気と震えが止まらなくなる。


「気づいたら……出れてました」

「はぁ? お前みたいなランクEが出れるわけないだろ?」


 嘲笑う彼のランクはC。正直な話、イキれるほどの力を持っていない。しかし、このクラスの中では一番のせいで、完全に調子に乗っている。

 そもそもの話、昨日のダンジョン探索だってこいつが女子に格好つけて飛び出さなければ罠を踏まなかった。その責任の所在をこちらに押しつけるのは可笑しい。


 しかし、クラスの雰囲気は「そうだそうだ」と、完全に同調圧力。Cだとしても、クラスで一番なら威張れる権利がある。

 それほどまでに、世界は歪んでいると思う。


「──もし」


 そんなロルフがクラスの笑いものになっている雰囲気を、一つの透き通った女性の声が止めた。

 ざわめいていたクラスが静かになる。一斉に声のする方へ向いた。


 視線を集めていたのは、黒髪ロングの少女だった。首についている赤色のリボンは、同じ一学年を現している。

 メリア・ホーメイト。

 彼女は一年でランクAと認定された逸材だ。そして、この学校の理事長の娘でもある。


「尋ねたいことがあるのだが?」


 凛とした立ち居振る舞い。美人といって差し支えのない顔。腕を組むと胸が強調される。

 誰でも彼女に視線を奪われるのは間違いない。


「なんだなんだ? 話なら、オレが聞こうじゃないか」


 そして、最初に動き出したのはカレル。まるで自分がこのクラスの代表だとでもいう顔をしているが、誰も文句は言わない。

 その間にロルフは縮こまり、存在感を極限まで消す。


 何ごともなく終わってくれるのが、今唯一の彼の望みだ。


「ロルフという人は誰だ?」


 その言葉を聞いた瞬間、彼の思考は止まった。そして一瞬でクラス全体の目が自分に集まり、心臓が跳ね上がる。

 なんでオレなんだよと、目を瞑った。


「ふむ、彼がロルフか」


 教室の空気を感じ取り、彼女が近づいてくる。軽く体をかわされたカレルが、メリアの手を取ろうとして躱された。


「なんであいつなんだよ!?」

「知らん。私は母に呼んで来いと言われただけだ」


 その言葉を聞き、カレルが馬鹿にするように笑う。


「あぁ、ロルフが何かバカをしたのか。まったく、バカが迷惑をかけてすみませんねぇ」


 嘲笑に釣られるようにクラスメイトたちも笑う。

 その同調圧力に押されるように、ロルフはさらに縮こまった。


「ふむ」


 そう呟いて立ち止まったのはメリアのほうだ。彼女は考えるように顎に指を添える。

 ジロリとカレルを見つめると、彼女は口を開く。


「そう言えば他にもう一つ言伝があった。カレル・シュナイドと以下四名のパーティーについてだ」

「お、それ俺! なんすかなんすか? やっと俺の実力が認められて、ランクアップ試験でも受けてもらえるのか?」


 カレルの声に釣られるように、教室から男女四人が手を上げる。みんな期待の眼差しをしている。

 四名ということは、その中にロルフは入っていない。


 集まったカレルのパーティーを見て、メリアは淡々と告げる。


「昨日の行動──独断行動、危険行動、仲間を囮に使うなどの道徳的違反行動が確認された。よって、本日から一ヶ月間、お前たちは雑務のみで授業を受ける権利を取り上げる──だそうだ」


 言われたことが理解できないのか、カレル以下四名は全員呆気にとられていた。

 しかし、メリアは「伝えたからな」とだけ残すと、彼らを無視してロルフに近寄ってくる。


「ロルフ・センディアナだな。母が呼んでいるついてきてもらおうか?」


 視線が交差する。無視し続けることはできないと、大きくため息をついてから立ち上がった。

 彼女は満足げに頷くと、そのまま踵を返す。どうやら黙ってついてこいということらしい。


「納得できねぇよ!」


 その前に立ちはだかったのはカレルだ。

 顔を真っ赤にして、ロルフのことを指差してくる。


「なんで足手まといは罰にならないで、俺たちだけ罰を与えられないといけないんだ!?」


 その言葉に、パーティーの全員が「そうだそうだ」と声をそろえて言った。


「ふむ……。“そういうところ”なのではないか?」


 そう言うと、彼女はカレルを避ける。


「では私は急いでるのでな」


 ロルフはクラスメイトたちの視線に耐えられなくなり、肩身を狭い思いをしながら彼女の背中をついていった。

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