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第十話

 テロが起こったらいいのにと常日頃から思っていたが、本当に起こるのは話が違う。

 ロルフは身を低くして目立たないようにしながら、震える拳を握りしめた。


「こんなことしてどうなるか──」

「バキューン!」

「がっあ──」


 一人の生徒が立ち上がろうとして、魔術で太ももを貫かれた。

 教室中に悲鳴が響く。ここはもう普通じゃないと思わせられるには充分だ。


「言ったよな、動くと殺すって。あと、人質はお前たちだけじゃないことを覚えておけよ?」


 つまるところ、今ここで制圧したところで、脅威は学校中に蔓延っている。

 メリアが動かないのもそれがわかっているからだろうか。


 こんなときこそオズの出番ではないか。そう思い、となりに座る彼女を見つめた。しかし、目の光は失って電池が切れたかのように動かなくなっている。


「お、おい……! どうした、オズ……!」


 小声で話しかけるが、反応はない。


「そこのお前、喋るな!」


 注意されて、思わず縮こまった。机に身を隠しながら、肝心なときは役に立たないと心の中で舌打ちする。


「……なるほどな」


 そうした時に、メリアがロルフにしか聞こえないような声で喋る。


「オズの情報が漏れてるってことだ」

「……どういうことだ?」

「最近研究者が出入りしてただろ? 彼らのなかに、オズの情報を売ったものがいるらしい。……そして、一番無防備に喋っていた人物がいる」


 ナディア・ロンチェスタ。ロルフの頭の中ですぐにその教師の名前が浮かび上がった。

 遅刻していた理由も、これで説明がつく。


「おい、話すなって俺はいったよな!」


 ローブの男が怒鳴りながら近づいてくる。 固まるロルフの前に、メリアが立ち塞がった。


「……なんだお前?」

「理事長の娘だ。お前たちと交渉したい」

「娘? はん、それが脅しになるとでも!?」


 メリアは至って冷静な表情を保ったまま、手を前へ突きだした。

 風が巻き起こる。それは教室の悲鳴をかき消すほどの高威力だ。その風に飛ばされて、ロルフだけ窓の外へと飛び出した。


「オズのことだ。お前が責任を果たせ」

「うそだろぉおお!?」


 彼の絶叫は大きくこだまする。体は己の意志とは反して、遠くへと飛ばされた。



※※※※※※※※※※



 学校の敷地内に植え込みがあるのは、景観のためだけだと思っていた。

 今まさに、それがクッションとなって軽症で済むまでは。


 息を整えてからロルフは立ち上がる。体についた葉っぱを取りながら、頭の中で整理する。


 この学校にはそこそこの教師がいる。ランクにばらつきはあれど、戦えるものも数人はいる。しかし、その人たちが抵抗せずにいるということは、相手のほうが実力が上なのだろう。

 理事長が不在のタイミングを狙ってきたのもそれだけが彼らの懸念事項だったからだろう。


 そんな奴ら相手に、ロルフがどうすることもできない。このまま見捨てて出ていくのも手だ。

 しかし、しかしだ……。それをやってしまったら本当の本当にクソ野郎ではないか? 学校どこらか世間に後ろ指をさされながら生きていかなければならないのではないか?


 それはさすがに嫌だなと、大きくため息をついた。

 取り敢えず、安眠できる程度には動こう。そのうえで何とかできなかったら割り切ろう。

 その考えのもと、ロルフは動き始める。


 この状況でロルフができることと言えば何かと少し考える。

 行き着いた先は、やはりオズをなんとかするのが近道だろうか。


 彼女がなんとかなれば、殲滅してくれるに違いない。


 酷く他人頼りの考え方だ。それが自分らしいなと苦笑する。しかし、オズを何とかしたのは自分なんだとせめて誇れるのだから、無駄ではないと思う。


 さて、問題のところだが。……やはり、ナディアを探すのが一番早いだろう。彼女なら何かを知っているかもしれない。


「そっちは制圧したか?」

「問題ない」


 声が聞こえて、思わず植え込みの影に隠れた。


「たく、人遣いの荒い女だぜ……」

「まったくな」


 黒ローブの仲間たちは、ぐちぐち言いながら過ぎ去っていく。

 見つからなかったことに、ロルフはホッとした。


  彼らは女だと愚痴っていた。やはり、ナディアが指示役なのだろうか。

 しかし、あの先生が手荒にしているところは見たことがない。どう考えても、ことなかれ主義だと思っていた。


 もしかして、思っていただけであって、本当は裏ではとてつもない悪人だったとか?


 今考えたところで仕方ない。取り敢えず、彼女のいそうなところに検討をつけよう。


「……わかるわけないよな」


 仕方なく、何か手がかりがないか教職員室に向かうことにした。彼女の机を漁ったら何かが分かるかも知らないという薄い期待から。

 何もわからなければ、その時はその時考えることにする。

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