頑張れ、王子
また婚約破棄宣言ものです。後、格好良いヒーローが書けない病です。
夜風が冷たく感じる様になったある夜、ルエン王国の宮殿では王家主催の夜会が開かれていた。
ロベルト・ルエン、17歳、金髪碧眼の王子オブ王子、少し垂れ目で泣き黒子の色気も備えるこの国の王太子である。
彼は今夜の夜会である事に決着をつけようとしていた。
夜会も終わろうとしている中、彼は1人の令嬢に声をかけた。
「ジュリアーナ·クリフト公爵令嬢。少し時間をくれないか?」
ジュリアーナ・クリフト、同じく17歳、小麦色の髪、深い緑の瞳を持つ、優しげな表情がデフォルトのルエン王国筆頭公爵家の令嬢である。
2人は同じ年齢、母親同士の仲が良いことから、幼馴染兼婚約者として長い付き合いがあった。
だが、今夜のロベルトは婚約者と別の令嬢、栗色の髪に空色の大きな瞳の男爵令嬢リリ・ホーガンをエスコートし、彼女を側に置きながら婚約者に声をかけたことから、周囲の目が集まる。
「ロベルト殿下、どの様なお話でしょうか。」
ジュリアーナはロベルトへ淑女の礼をとり答えた。
「実は、私達の婚約を解消してほしい。私は真実の愛を見つけたのだ。」
そこに発言を許されていない男爵令嬢のリリが加わる。
「私達の真実の愛は運命なのです。私はロベルト様の全てを愛しています。」
ジュリアーナはため息をつき、リリの方を見た。
「全てをですか。」
「はいっ。そうです。」
勢いよく答えるリリに向かって、ジュリアーナは淑女の笑みを浮かべて聞いた。
「全てとは例えばですね、殿下が剣を習い始めた頃に密かに剣技に対して“ドラゴンライトニングアタック”と名前をつけて叫んでいた事も含まれますか?」
「可愛い話ではないですか。当然です。」
食い気味に答えるリリ。それを無視して、ジュリアーナは続けた。
「その名前を17歳になった今でもたまに叫んでいて、しかも“フラッシュファイヤー”とか“ホワイトフォール”とか技名が増えている事は?その技は形からご自分で作られていて、技名を叫んだ後に“ピカッ”、“シャキーン”、“シュバッ“とか、謎の音をご自身で叫ばれているそうですよ。何かを剣から出したいのですかね。」
話の内容に理解がついていかなくなり黙るリリ。
「な、な、何言っているんだ。」
一方、慌てて話を遮ろうとするロベルトに構わず、ジュリアーナは止まる事なく話し続けた。
「そうそう、後こんな面は?女優のマリア・カーラに心酔して、マリアコレクションの専用部屋を持っていて、姿絵や芝居のチケット、パンフレット、使用済み衣装が飾られている事をご存知?時々、唇の周りに絵の具をつけてその部屋から出てこられることがあって、絵の具がつく程、姿絵を舐…じゃなくて愛でられている事とか。他にもマリア宛への愛の詩や彼女と自分の妄想日記を書かれている事とか。“愛しき君よ、愛の薔薇を胸に震える。その姿は月の女神か妖精か、あぁ、我が愛する人よ”、でしたっけ?愛の薔薇を胸にとはどんな状況なのでしょうねぇ。ふふっ、そんなロマンティックな面もあるのよね。それにマリアが汗を拭いたと言われている布を高額で買い取り、自分用のハンカチにリメイクさせたとか。最近は専用部屋の掃除担当のメイドが長続きしないそうね。他にもマリア関連の話は色々あるわよ。」
「や、やめてくれ。何でそんなことを知っているんだ。」
ロベルトは涙目で羞恥に悶えながら否定する事なく、ジュリアーナに懇願した。
「全てを、と言うお話ですから、今話した事も含めてるのか、確認の為ですわ。ねぇ、リリ様。」
ジュリアーナは目を細め、笑みを浮かべながらリリを見た。
リリはエピソードの途中から段々引き気味になり、絵の具の下りでは小さく「気持ち悪ぅ…」と漏らしていたが、引きつった笑顔でなんとか答えた。
「そ、そういったロベルト様の全てを受け止められるのは婚約者であるジュリアーナ様だけではないかと思います。わ、私には受け止めきれないと思いますので、失礼します。」
そして、ソソクサとその場を去っていった。
◇◇◇
「そういう所だよ。何で私のプライベートをそこまで知っているんだよ。しかもこんな人前で明らかにするような真似を…」
リリが去った後も周囲からは注目されている。残されたロベルトは脱力してジュリアーナに尋ねた。
「あら、否定されないんですね。それこそ、そういう所ですわよ。ふふっ。でも、婚約者が自分以外の令嬢をエスコートして、人前で婚約解消と言われるのも大分恥ずかしい事でしたわ。さて、真実の愛のお相手は自ら退場しましたわねぇ。これからどうされますか?別にわたくしは婚約継続でよろしいですわよ。」
「…………………」
微笑むジュリアーナに対し、ただ黙って項垂れるロベルトであった。
◇◇◇
ジュリアーナがロベルトと初めて会ったのは6歳の頃、お茶会が開かれていた王宮の庭園だった。
お茶会に飽きて庭園を一人で歩いていると、植え込みの奥から子供の泣き声が聞こえてきた。
覗いてみると、くるんとした巻き毛の金髪に澄んだ青い目の子供が泥だらけで泣いている。
ジュリアーナはその泣き顔を見た瞬間、恋に落ちた。完全に一目惚れだった。
「どうしたの?」
理由を聞くと、転んだら泥塗れになってしまい、どうしていいかわからないと言う。
周りを見ると、雨上がりでもないのにその子が転んだところだけ泥濘んでいる。転んだだけで、敢えて泥濘んだ場所に倒れるのは、ある意味器用だなと思いながらも、助け起こし、慰めながら茶会の場に連れていった。
そして、その子がルエン王国の第1王子ロベルトであり、2人の婚約が結ばれる事を大人達に伝えられた。
淑女は感情を露わにしてはならないと、厳しく言われていたが、その時は嬉しくて笑顔で頷いた。
それから11年…ロベルトは今でこそ表面的には王子然と取り繕う事が出来るようになったが、見た目の美しさに反比例してポンコツだった。学力や運動能力は高いのだが、信じられない事が起きたり、自ら起こしたり、ジュリアーナを常に飽きさせないのだ。
彼女にとってロベルトは、泣き顔もツボだったが、飽く事ないヤラカシがまた堪らなかった。
剣は騎士並みの腕前になっても変わらず、謎の剣技を開発しようとしたり、一方で舞台女優に入れ込んで使用人にも引かれたりしている話はジュリアーナのお気に入りエピソード。
他にも、重要な書類を、一体どうやったのか公務で訪れた牧場でヤギに食べられた話。
自らお茶を振る舞いたいと言うので茶器を渡したら、何故か王妃秘蔵の国宝級の茶器入れ替わり、そのポットを直火に焚べ、こってり叱られた話。
花束の花は自然の花の方が貴重なのだと言って、森に入って迷子になったあげく、蜂に襲われ戻って来た話。
そのどれもジュリアーナが微笑みを浮かべフォローしているのだ。
今回は、ジュリアーナの上から目線で余裕ある態度を疎ましく思っていた所、甘い言葉をかける男爵令嬢に出会ってコロッと丸め込まれたようだ。
(ふふっ、人前で真実の愛の為に婚約解消と言ったのに、その真実の愛のお相手も引くような恥を曝されると言う、新しい黒歴史が増えたわね。わたくしの所為だけど、大衆小説の断罪返しみたい。)
ポンコツ王子の婚約者、ジュリアーナの趣味はロベルトの黒歴史の収集だ。
公爵家の影を使って彼のヤラカシを逐次報告させ、その記録をつけているのだ。
正直、ロベルトよりもヤバい癖の人間なのだが、鉄壁の淑女スマイルのお陰で、世間からは懐の広い婚約者と見られている。
(こんな素晴らしい人材は他にいないわよねぇ。これからも期待出来るわぁ。)
2人の婚姻は成人とされる18歳になる来年の予定だ。
後1年、それでもロベルトは何かしら足掻くに違いない。
だが、それが結局ヤラカシに変換され、ジュリアーナを喜ばせるだけだろう。
(次は何をしてくれるのかしら。)
うっとりロベルトを見つめるジュリアーナ。
全てを受け入れてくれるという意味では、ジュリアーナ以上の人はいないだろう。
これから何をするか分からないが、頑張れ、王子。
多分未来は決まってる。
end




