(1)
議会での勝利から二週間後、災厄が訪れた。
「流行病だ」
エルヴィンが血相を変えて隠れ家に駆け込んできた。
「どこで?」
「王都の南区。貧民街から始まった」
私は立ち上がった。
「症状は?」
「高熱、咳、そして――黒い斑点が体に現れる」
黒い斑点――それは、ただの病気ではない。
「呪疫か」
私は顔を強張らせた。
呪疫。それは、魔力の汚染が原因で発生する特殊な疫病だ。通常の薬では治せない。
「教会は?」
「聖女の加護で治療すると言っているが――」
エルヴィンは苦い顔をした。
「治療費が法外だ。一人あたり金貨十枚」
「それは――」
私は絶句した。
金貨十枚。庶民の一年分の収入に相当する額だ。
「つまり、貧しい者は見捨てられる、ということね」
「ああ」
私は窓の外を見た。遠くの貧民街から、黒い煙が上がっている。遺体を焼いているのだろう。
「行くわ」
「待て、危険だ」
エルヴィンが止めようとしたが、私は首を振った。
「だからこそ、行くの」
私は薬草と呪具を鞄に詰め込んだ。
「母は、人々を見捨てなかった。だから殺された」
私はエルヴィンを見た。
「でも、私は違う。私は生き延びて、制度を変える」




