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 議会での勝利から二週間後、災厄が訪れた。


「流行病だ」


 エルヴィンが血相を変えて隠れ家に駆け込んできた。


「どこで?」


「王都の南区。貧民街から始まった」


 私は立ち上がった。


「症状は?」


「高熱、咳、そして――黒い斑点が体に現れる」


 黒い斑点――それは、ただの病気ではない。


「呪疫か」


 私は顔を強張らせた。


 呪疫。それは、魔力の汚染が原因で発生する特殊な疫病だ。通常の薬では治せない。


「教会は?」


「聖女の加護で治療すると言っているが――」


 エルヴィンは苦い顔をした。


「治療費が法外だ。一人あたり金貨十枚」


「それは――」


 私は絶句した。


 金貨十枚。庶民の一年分の収入に相当する額だ。


「つまり、貧しい者は見捨てられる、ということね」


「ああ」


 私は窓の外を見た。遠くの貧民街から、黒い煙が上がっている。遺体を焼いているのだろう。


「行くわ」


「待て、危険だ」


 エルヴィンが止めようとしたが、私は首を振った。


「だからこそ、行くの」


 私は薬草と呪具を鞄に詰め込んだ。


「母は、人々を見捨てなかった。だから殺された」


 私はエルヴィンを見た。


「でも、私は違う。私は生き延びて、制度を変える」

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