(1)
議会まで、残り二日。
私は資料を整理し、プレゼンテーションの準備を進めた。同時に、もう一つの戦線――情報戦も展開する。
「冒険者ギルドと商人組合には、資料を送った」
エルヴィンが報告した。
「反応は?」
「驚愕、そして怒り。特に冒険者たちは、仲間が高い薬代で苦しんできたことに憤慨している」
「良い傾向ね」
私は頷いた。
「次は、民衆への情報拡散」
私は印刷した資料を手に取った。これは、教会の薬価不正を簡潔にまとめたビラだ。
「これを、王都の主要な場所に貼る」
「教会の妨害は?」
「覚悟の上よ」
その夜、私たちは王都中にビラを貼って回った。市場、広場、酒場、ギルド。人が集まる場所すべてに。
ビラの内容は明確だった。
『教会の薬価は不当に高い。原価の十倍以上で販売されている。これは、神の教えに反する行為ではないか?』
翌朝、王都は騒然となった。
民衆は教会に詰めかけ、説明を求めた。教会は「悪質なデマだ」と主張したが、具体的な数字を示したビラの説得力には勝てなかった。
「レイ、すごいぞ」
エルヴィンが興奮気味に報告してきた。
「商人組合が声明を出した。『薬価の透明化』を要求している」
「冒険者ギルドは?」
「同じく。さらに、『独占契約の見直し』も求めている」
私は満足そうに微笑んだ。
「風向きが変わってきたわね」
だが、教会も黙ってはいなかった。
その日の午後、教会は独自の声明を発表した。
『これは、神聖なる秩序を乱そうとする陰謀である。背後には、邪悪な意図を持つ者がいる』
そして、驚くべきことに――
『この騒動の首謀者は、処刑されたはずの偽聖女、リディア・フォレストである』
私の「偽名」が、公に晒された。
「やってくれたわね」
私は苦笑した。
「どうする?」
エルヴィンが心配そうに聞く。
「逆に利用するわ」
私は新しいビラを作り始めた。
『私はリディア・フォレスト。教会に「偽聖女」として処刑されかけた者です。ですが、私は聖女ではありません。ただの人間です。そして、その「ただの人間」でも、人を助けることはできるのです』
この告白は、予想以上の反響を呼んだ。
民衆は、「処刑されたはずの少女が生きていた」という劇的な事実に興奮した。そして、彼女の主張――「聖女でなくても人は救える」――に共感した。
「『聖女神話の解体』か」
エルヴィンが呟いた。
「この国は長年、『聖女だけが特別』という神話に縛られてきた。お前は、それを壊そうとしている」
「壊すんじゃない」
私は静かに言った。
「更新するの。『誰もが誰かを助けられる』社会に」




