12/24
(3)
隠れ家に戻ってから、私は一晩中眠れなかった。
日記を何度も読み返した。母の言葉。父の名前。そして、自分の出生の秘密。
「どうする?」
エルヴィンが尋ねた。
「公開するか? この事実を」
「いいえ」
私は即答した。
「今は、まだ」
「なぜ?」
「タイミングが悪い」
私は冷静に分析しようとした。感情を抑え、理性で考える。
「今この事実を公開すれば、私は『聖女の遺児』として祭り上げられる。でも、それは私が望む形じゃない」
「何を望む?」
「制度の改革」
私は静かに答えた。
「母は、個人として人々を救おうとして殺された。だから私は、制度で救う」
エルヴィンは黙って頷いた。
「ただ――」
私は日記を撫でた。
「いつか、必ず公開する。母の名誉を回復し、この国の闇を明らかにする」
「その時が来るまで、秘密にするのか」
「ええ。今は、議会対策に集中しましょう」
私は立ち上がり、収集した薬価の不正資料を整理し始めた。
母の真実は、心の奥に閉まっておく。
今は、戦う時だ。