代理聖女改め聖女ミコは婚活する――目指せ永久就職
『聖女召喚に巻き込まれたけれど、肝心の聖女様がヒャッハーしたので、代理聖女やってます――どうしてこうなった』https://ncode.syosetu.com/n5402kb/ の続編です。
登場人物
ミコ:渋谷の事務職OL。二十五歳。スクランブル交差点を渡っていた時、たまたま聖女召喚に巻き込まれた。同時多重召喚だったためスキルが分割され、言語スキルとおこぼれの癒しスキルが発現した。
現在首都の大神殿で正式な聖女として日々癒しを行っている。
ミカ:北欧人(?)男子。愛称ミカおねいさん。年齢不詳、たぶん二十代。女装してスクランブル交差点を渡っていた時、聖女召喚された。同時多重召喚だったためスキルが分割され、浄化スキルと癒しスキル、隠蔽魔法が発現した。
実は本物の聖女なのだが大神殿から逃亡し、現在フリーの聖女としてパートナーの勇者と共に気ままな旅をしている。言語スキルを持たないので、この国の言葉は話せない。
大神殿神官長
召喚された二人の聖女を気にかけている。
❖ ❖ ❖
こんにちは、渋谷事務職系聖女、ミコです。
淡々と聖女のお仕事をしています。
元々コツコツタイプ(言われたことをソツなくこなす、新しい事をするのは面倒、創意工夫くらいならしてもいい)なので、仕事に飽きるということはないけれど……。
この国『聖国』にお呼ばれしてもう一年。二十五歳になってしまった。そろそろ将来のことも考えなくちゃ。
このまま神殿暮らしというのもねぇ……。
そもそもわたしは『聖女』とかいう大それた存在ではなかったはず。渋谷のスクランブル交差点を渡っていたら、たまたま聖女召喚に巻き込まれてしまっただけ。同じ地点にいた本物の聖女様(女装男子ミカおねいさん)が召喚後大神殿から逃亡したので、〈仕方なく〉聖女業をやらされているのだ。
聖女業には、神殿へやって来る人々の傷を治癒する日々のルーティーンの他に、年何回かの『巡礼(数週間)』がある。宿泊はビジホではなく地方の神殿。何だか気が休まらないよね。
ただね、福利厚生(衣食住・お給料・超過勤務ナシ・休日・有給)がとてもいいから辞められない……というよりは、辞めさせてもらえない。
『神殿とこの国――聖国――には、聖女様が必要なのです』
(神官長様談)
三行で理由を述べよ! と、言いたい。
人々を癒すといっても、本物の聖女様ミカおねいさんに比べて聖なる力が弱いわたしは、ギズ口を指で撫でると傷口がなめらかになり、徐々に塞がるという程度。
例えて言うと、私の指が強力なタイガー◯ームやオロ◯インになった感じ。重度の火傷に使う人工皮膚を薄~く貼るくらいまでならできる。
なのでわたしの肌は二十代中頃でもぷるるんるん♪
聖女特典なのだ、わぁーい。
ということは、本物の聖女様であるミカおねいさんは、常に全身ツルピカなのでは?
初対面のとき見た足はスネ毛びっしりだったけど。
ただし、無くした指や足は本物の聖女様でも元通りになるといった神業は持っていないらしい。
わたしの目標は、パートで聖女(あくまでも代理)をしながら結婚出産して子育て。子供が独立したら完全に引退して、家庭菜園などやりながらのスローライフ。
イイね!
❖ ❖ ❖
「聖女ミカ様、そろそろ結婚を考えませんか?」
「ハイ?」
そんな時、タイミングよく神官長様からお見合いの話がきた。
恋愛といっても出会いがないし、そもそも恋愛そのものが面倒だし、お見合いでいいか。神殿が適当に見繕ってくれるのならその話に乗りたい。後ろ盾はしっかりしているしね。
神官長様から告げられたお見合い相手は三人。
・副神官長様 三十三歳 → 大神殿他、各神殿の祭祀に出席しなければならない
・聖騎士副団長様 三十歳 → 戦勝会や各種試合観戦に出席しなければならない
・第一王子様 二十歳 → 王室と聖国の各種イベントに出席しなければならない
だぁ~~っ、どれも却下じゃん!
わたしのスローで穏やかなライフからほど遠い方々だわ。
普通のリーマンで良かったのに。
普通に暮らせればそれで良かったのに。
因みに第二・第三王子様はいませんでした。
「わたし、その辺の官吏・騎士・神官程度の人がいいんですけど」
「それではダメです。その辺の人が聖女様を娶ったとあらば、その辺の人ではなくなってしまいます」
それ、どんな理屈?
❖ ❖ ❖
一番避けなければならないのが第一王子様だわ。そんな人と結婚なんかしたら、将来王妃でしょ。あり得ない。もしかしたら、育児は乳母まかせじゃないの?
ナイナイ。
(ピコーン! 暇そうな側妃ならイケるかもしれない。お渡りなどという面倒事はナシでお願いしたいわ)
「はて、側妃とは? 第二妻とな!? そんな制度、わが聖国にはありません!!」
神官長様が絶望的な顔をして叫んだ。
「聖女様の地位を万全なものにするためにも、この三人の誰かと婚姻を結んでほしいのです」
「本物の聖女様ミカ様は?」
「同性同士の婚姻など、聖国にはありません」
「じゃぁ、王女様と」
「そもそも、言葉が通じませんし、ミカ様を婚姻させるとなれば、わたしが勇者様に殺されてしまいます」
ソ、ソウデスカ〜。
勇者様怖い。
それに、ミカおねいさんは未だに聖国の言葉を話せないのか。
チッ。
予想外の人選だった。
誰と結婚しても荷が重い。
これを断るには……
(ピコーン! 断わるしかない状況にすればいいんだわ!)
そこで思いついたのが、三人の候補者に無理難題を出して、クリアした人と結婚するという、良く見かける鬼畜難題。
名付けて『かぐや姫大作戦』!
❖ ❖ ❖
聖女の正装を身に着けたわたしは、神官さん二人を左右に従え、大神殿の大広間で三人の候補者に告げた。広間の後方では神官長様が成り行きを見守っていた。
神官長様は今やわたしの保護者である。
「わたしとの結婚条件は次の通りです」
・副神官長様 → 茶髪ロン毛のイケメンには『恐竜の入った琥珀』
・聖騎士副団長様 → 黒髪短髪のイケメンには『ドラゴンの首』
・第一王子様 → 金髪ウェーブヘアのイケメンには『虹の結晶』
これでどうよ?
「「「必ずや聖女様のご満足いただける品をお持ちします!」」」
生真面目なのか、三人の候補者はすぐさま神殿を離れ、旅に出た――といっても、聖国はそんなに広くない。品を求めて国外へ行くには、険しい峠と深い海という難関が待ち受けている。つまり、ここ聖国は孤立した国だった。
果たして三人の候補者は、どこまで行くんだろう?
(しばらくは平和ね。あり得ない品だから、あの三人は候補者から外れるに決まってるわ。その間に平凡だけれどそれなりの人を見つけよう。普通の容姿で、課長とか部長とか芸術家系なら。社長は勘弁)
ところが、一カ月もたたないうちに三人の候補者が神殿に現れたのである。
早っ!
❖ ❖ ❖
・副神官長様 → 茶髪ロン毛のイケメンには『恐竜の入った琥珀』
三十三歳 → 大神殿他、各神殿の祭祀に出席しなければならない
「聖女ミコ様。この琥珀には本物の恐竜の尾が入っております」
「それを証明できますか?」
「鑑定士を……」
「間違いありません。このモフモフした尾はまさしく超古代恐竜、ホーリーザウルスの尾!」
ええ~っ、それ本当なの? 聖国に恐竜がいたの? 『ホーリーザウルス』って……英語かよ!
鑑定士に賄賂を渡してないよね?
しかし……この候補者様は、次期神官長様。将来の上司。なるべく仲良くしておかなければ。
「貴重な品をありがとうございます、副神官長様。わたしのお宝にします」
❖ ❖ ❖
・聖騎士副団長様 → 黒髪短髪のイケメンには『ドラゴンの首』
三十歳 → 戦勝会や各種試合観戦に出席しなければならない
「聖女ミコ様。これがドラゴンの首でございます。ドラゴンは聖国では別名飛竜と言いまして、これを見た者は幸せが訪れるとの伝説がございます」
「ええっ、では、わたしはその幸せをひとつダメにしたの?」
「そんなことはございません、これは亡くなった飛竜の首でございます」
(迂闊だったわ、この国に本物のドラゴンがいたなんて知らなかった……)
しかし……この候補者様は次期聖騎士団長様。わたしを守ってくれる人。なるべく仲良くしておかなければ。
「貴重な品をありがとうございます、聖騎士副団長様。わたしのお宝にします」
❖ ❖ ❖
・第一王子様 → 金髪ウェーブヘアのイケメンには『虹の結晶』
二十歳 → 王室と聖国の各種イベントに出席しなければならない
「聖女ミコ様。この柱状の水晶の中に虹が入っております」
「ええっ、本当だ!! すっごくキレイ……」
(迂闊だったわ、この国に虹が入ったクリスタルがあるなんて、知らなかった……)
しかし……この候補者様は次期王様。わたしの生死に関わるかもしれない人。なるべく仲良くしておかなければ。
「貴重な品をありがとうございます、第一王子様。わたしのお宝にします」
❖ ❖ ❖
「でも、これらの品はみなさんご自分で手に入れたんですか?」
「聖女ミコ様、方法については言ってありませんでしたでしょう。だから候補者様が持って来さえすれば、条件を満たしたことになるのではないですか?」
(あぁっ、失敗した!!)
かぐや姫もトゥーランドットも、ちゃんとした条件を考えていたのね。わたしみたいに、聖国のことも良く知らずに思い付きで言ったわけではなかったんだわ……。
考えが甘かった。
ガッカリ。
「「「改めて選出を!!」」」
アアアァァァッッッ…………。
❖ ❖ ❖
こうなったら、三人が諦められるような結婚相手を探すしかないわ!
(※ミコ混乱中)
そうだ、最高権力者、王様! 誰も文句を言えないはず!
(※ミコ混乱中)
―ギギギギギ―
(※ミコ混乱中)
王様は最近王妃様から離縁されたと聞くから、試しにどうだろう?
離婚の理由は……よく知らない。王妃様の浮気とか何とか……。
早速わたしは王様にラブレターを出した。この事が自分を奈落に突き落とすということに思い至らないまま。
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わたしと結婚して下さい 聖女ミコ
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翌々日、大神殿に物々しい行列がやって来た。
赤い羽根飾りのインペリアルヘルメット、黒ズボンにロングブーツに赤のコート、背中に槍と腰に刀剣を装備した、白馬に乗った何十人もの近衛騎士団。
彼らに守られているのは――ガラスのペガサス馬車!?
――ウッ、眩しい! シンデレラのガラスの靴を馬車にしたような。
「わが妻、ミコ……」
「あぁ~っ、本物の王様!!」
中から現れた金髪ヒゲ面の美丈夫は、正真正銘の王様(三十代アラフィフ)だった!
ま、まさかあのラブレターを本気にするなんて!
(※結構失礼なことをしているミコであった)
聖女就任の時しかお目にかかったことがないけれど、誰よりもキラキラしてるから一発で分かるわ。
なーんて風に感動していたら、子供のようにガシッと縦抱きにされ、瞬く間にガラスのペガサス馬車で連れ去られた……お城に。
――代理聖女改め聖女ミコ、憧れのスローライフ終了のお知らせ――