第8話『ぐるり、まわって出会う』
「3級、“メリーゴーランド”……3周?」
まどかは技表を見つめて眉をひそめた。
「コマばひもですくって、そのまま“円”ば3回、連続で回すとよ。けっこう難しいばい」とタケル。
「ちょっとやってみるけん、見とって!」
まどかは意気込んでこまを投げ、ひもで受ける。1周……途中で軌道がブレて、ポトンと落ちた。
「もう一回!」
今度は1周半。ひもが絡まって、今度はコマが跳ねた。
「……うーん、なんか手が追いつかん!」
—
その日の午後。タケルの家で休憩していたまどかに、キッチンから元気な声が響いた。
「お兄ーちゃん! 見て見てー!」
ひとりの小学生が入ってきた。肩までの髪をちょこんと結んだ、笑顔の女の子。タケルの妹・ミナだ。
「まどか姉ちゃんでしょ? 兄ちゃんがよく言ってる!」
「え、ええ……初めまして……?」
「お姉ちゃん、“メリーゴーランド”で困ってるって聞いた! 見せて!」
—
ミナの手は小さい。でも、その動きは驚くほどしなやかだった。
「ひもはね、押すときは“引くように”、引くときは“押すように”するの。お兄ちゃん、前に教えてくれた!」
くるん、と軽くすくい上げたコマが、ひもの上をなめらかに3周する。
「す、すごい……!」
「えへへ。わたし、自称コマ名人やけん!」
—
まどかはもう一度、紐を巻き、コマを投げた。
ミナが隣で、ひもを引くリズムを口にする。
「いーち、にーい、さーんっ!」
まどかの動きがミナの声と重なり、糸の上をコマが――
くるり、くるり、くるり。
「――できた!」
思わず、二人で手を取り合って跳ねる。
「ありがと、ミナちゃん! すごい、助かった!」
「ううん! コマって、ひとりでやるもんじゃなかろ? 一緒に回すと楽しいっちゃん!」
—
その夜。自宅でこまを手に、まどかはふと思い出す。
(あたし、ずっと“継ぐ”って、一人でするもんやと思っとった)
でも、技のひとつひとつの裏に、支えてくれる人がいた。
祖父の技帳、タケルの助言、祖母の想い、そしてミナの小さな手。
(……道具に、そして人に、好かれる“手”になりたい)
まどかはそっと、こまのヘソに指を沿わせた。