第7話『一周にかける』
「次の週末、工芸フェスって知っとる?」
タケルが見せてきたスマホの画面には、「八女市伝統工芸フェスティバル」の文字が躍っていた。
「こま部門、あるとよ。段位認定とは違って、技披露と自由演技。出てみらん?」
まどかは少し考えて、うなずいた。
「……よかよ。八女和ごま、見せたかもん」
—
当日、八女市の伝統工芸館には、木工、紙漉き、染物など多様な職人たちが集まっていた。
その中で、「全国のこま職人による技対決」ステージは人だかりができていた。
「福島の相馬こま代表、カズマくん!」
「東京から参加、“現代こま師”のナナちゃん!」
拍手とともに登場するプレイヤーたちは、まどかより年上が多く、こまにも装飾やLEDがついていたりと、今風の雰囲気だ。
「……派手やなぁ」
「そげん言わんで。いろんなスタイルがあるっちゃん」
そう話すタケルの横で、ひとりの青年がまどかに近づいてきた。
「君、八女和ごま? 伝統はいいけど、自由演技はできるん?」
嫌味な笑みを浮かべる青年。ナナと同じチームシャツを着ている。
「今風の技は、軽いこまじゃないと無理でしょ?」
まどかはふっと鼻で笑った。
「……じゃあ、うちの“日本一周”で、黙らせたる」
—
ステージの上。
重みのある八女和ごまを、胸の前で構える。
(大丈夫。こまは、“感じて”きた)
勢いよく投げ出し、紐の端でコマをすくう。
次の瞬間、まどかは自分の足元に軸を置き、体ごとくるりと回った。
――しゅるるる。
空中を滑るように、コマが綺麗な円を描きながら一周する。
「おお……!」
「けっこう、すごいな……!」
観客席からざわめきが起きる。
八女和ごまは重い。軌道もぶれやすい。
だが、その重さが生む“音”と“流れ”があった。
まどかは最後、両手で紐を巻き取るようにして、ピタリとコマを止める。
「――これが、うちの“日本一周”ばい」
拍手が沸き起こる中、あの青年は何も言えず口を閉じていた。
—
その夜。縁側で祖母に報告すると、キヨはゆっくりと笑った。
「よか風が、吹いとるねぇ」
「うん。……八女の風ば、回しとるけん」
まどかはそう言って、そっとコマを手のひらに乗せた。