表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘソの軌跡〜八女和ごま旋風記〜  作者: やしゅまる
5/10

第5話『重ねる手、かける想い』

六月の風が、縁側の風鈴をやさしく揺らしていた。


「次は“ひもかけ手のせ”ばい」


 まどかはコマを手に、縁側の祖母・キヨを見た。


 祖母は一瞬だけ目を細め、懐かしそうに笑った。


「それね、おじいちゃんが最初に見せてくんしゃった技よ」


「……最初?」


「そう。『コマは、道具やない。心ば伝える“手”があって、初めて生きる』って。……あの人らしい言い分やった」


 まどかは膝に置いたコマをじっと見た。黒光りした八女和ごま。中心には、祖父が彫ったとされる“ヘソ”が、まるで命のように息づいて見えた。


「わかった。やってみる」


 糸を巻き、コマを持ち上げる。回す――そして、手のひらで受ける。


 だが、バランスが崩れてコマは転げ落ちた。


 2回目。3回目。手のひらがピリピリとしびれた。


「回ったと思っても、すぐ逸れる……っ」


 そのとき、軒下で見ていたタケルが声をかけた。


「手のひらで“支える”んやなくて、“寄り添う”っちゃ。重心に沿うとよ」


「寄り添う……?」


 思い出す。祖父の技帳にあった言葉。


 ――コマは、道具にあらず。手に宿りし、もう一つのいのち。


「……そういうこと?」


 まどかは静かに構え直す。


 巻いた糸を引く。コマがしゅんと音を立てて回る。そのまま手を出し、掌をすくうようにコマを“迎え”た。


 ――トン。


 まどかの掌の上で、コマはまるで呼吸をするように、静かに、そして確かに回った。


「……回ってる。手の上で……」


 風が吹いた。縁側の風鈴がカランと鳴る。


 その音が、遠くにいる祖父からの祝福のように思えた。


「おじいちゃん。あたしも、やっと回せたよ」


 まどかは、コマを握りしめる。


「“手”は、継ぐものやけん」


 祖母はただ、頷いた。


「……よう、がんばったねえ」


 まどかはその言葉に、小さく笑った。


「まだまだやけどね。次は……“どじょうすくい”。次は人に、魅せる技やけん!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ