第19話 拉致監禁イベ——————じゃなくてほっとした
「おはよう、リオ」
「あ、ああ………おはよう」
目を覚まして真っ先に視界に入ってきた見慣れた小屋の天井でもなんでもなく、二つの双丘だったので戸惑いが声に滲み出てしまった。
自然界に存在する中で一番男の情欲をそそるモノ。
そう。おっぱいがそこに広がっていた。
「ここはどこだ?」
「フェリナの別荘だよ。昨日、話し合いのために眠ってもらってたんだ。ごめんね?」
「オレは連れてこられた理由込みで聞いてるんだぞ」
お馴染みの肢体拘束監禁イベントかなと身体を軽く動かしてみたら意思通り動いてくれたので深堀しないことにする。
ハチ公からなんのアクションもなかったみたいだし少なくとも安全は保障されたようなものか。
それよりもだ。
パンと顔の横に両手を合わせたいかにも女の子っぽいあざといポーズで謝るアレーナ。
こういうあざと可愛いポーズって女子はみんなどこで覚えてるんだろ?
オレのいた世界ではそういう塾なんかで学ぶとかの説が濃厚だったものの『カノ檻』はどちらかというとファンタジーの世界。
そんな都合のいい物なんかまずない。
さらにアレーナは数日前まで自我もなく男のふりを強いられてた身だ。
どうしてこういうポーズだけどの世界の女の子共通で出来るのか不思議すぎる。
なんて思念に耽ってたら突然アレーナの顔色が変わってきた。
「ね、ねえ………僕、なにかやっちゃったかな? 話聞いて? 一言一句答えてなんてわがまま言わないからせめて反応だけでもしてくれないかな………?」
「ね、お願い。キミに無視されたって思ったら怖くて仕方がないの………心が寂しいってこういうことだったねってわからされてしまうの」
ここまで情緒かき乱す要素あったか?
彼女のイメージ的にはむしろ考え込んでるオレを見て『考え込む顔もカッコいい。何か悩んでるならその悩み、教えてくれないかな?』って優しく語りかけてくると思ってたけど………。
オレの解釈違いだったか。
とにかく目前の火を消すのが先決だ。
こんなくっだんねー理由で乳での窒息死エンドはさすがに男の恥だ。
「ご、ごめん。その、えと」
「なに? やっぱりこんな重い女、いらないのかな。でも残念だね? クーリングオフ期限とっくに過ぎてるよ? キミが僕に優しいことばかけてくれた時から返品不可能だよ?」
おっっっっっもい!! 激重!!
敢えて比較するとなんでも吸い込む抗えない重力の塊くらいに重い。
ここは直球でいかないと返って死んじゃうパターンだ。
素敵なひと時以外、なにもしてない女の子に心をさらけ出すのはかなり勇気がいるが………窒息死されるよりはマシだ。
覚悟を決めろ。
「そんな可愛いポーズってどこで勉強したかなって思ってさ、やっぱ可愛い女の子だなあって思ってただけ」
心の中では時代のイケメンくらいカッコいい声だったのに、出てきたのは普段より一段と高い裏返ったオレの声。
やばいめっちゃハズイ死ぬ。
一昔前の乙女ゲーか! なんで裏返ったんだよ、男らしさ皆無だろ、決まりどころかキモすぎないか!?
もう嫌すぎる。
こいつのせいで寝起きのオレも情緒がぐちゃぐちゃすぎる。
「そ、そうなんだ。えへへ、ありがと。大好きだよ?」
そんな誰にも見えない心配やら心の叫びも虚しく、先ほどとはすんぶん違う男性向けゲームヒロインが顔負けするようなはにかむアレーナ。
チュッて頬っぺたにキスされちゃったよ。
好感度限凸させたらここまで人は変われるのか………。
あの誰にでも寄り添うカッコよく凛々しいって女性ファンに推されまくっていたやつが今じゃ激重好き好き魔王、か。
これがメス堕ちの魅力か。なるほど、純愛じゃないじゃんってバカにしまくってごめん。
「それじゃあ朝食のついでに今後の方針について話そうね」
「方針?」
「僕たちに手を出したじゃない。その責任、とってもらうからね」
「は、はは………」
乾いた笑いしか出せない。
この世界の裏設定に乗じてやんちゃしようって思っただけでまさかこんなふうにつけが回ってくるとは。
なんて言い訳が通るはずもなく、逃がさんと言わんばかりに握ってきたアレーナの手に食堂へと連行されるオレだった。




