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☆第一章のみ完☆【旧作】ヲシリが征く  作者: そうじ職人
第一章 山門國の陰謀
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#009 召集令状

父王(ちちぎみ)と今後の方針を取り決めた後、会議を終了した。


俺の想像通り、宗女ウズメは山門(やまと)國に戻っておらずに、未だここウシ國の(やしろ)に留まっていたようだ。

ウシノデヲシヒコとの交渉に際し、一々帰国している訳がないと踏んでいたのだ。


場所も想像通りだったが、デヲシヒコは既に承知していたようである。

やはり“あの落雷の日”に訪れた(やしろ)は、山依(やまゐ)國が奉じる日の神を祀る(やしろ)であったようだ。

山依(やまゐ)國は支配国や、属国の全てに自国の神を奉る(やしろ)を建てさせて、信仰を広める拠点としているようだ。


早速、侍従の一人を使者に立てて、(くだん)(やしろ)に向かわせた。

そして山門やまと國の宗女サグメとウシ國の宗女イヅノメに対面して、國都に参上し、(きみ)との謁見に臨む旨の“召集令状”を手渡した。


(もっともウシ國の(みやこ)って言っても、京都みたいなものじゃないから微妙なんだよなぁ)

どうやら都とは、王の屋敷である“宮がある処”という意味であるらしい。

つまり宮処(みやこ)と言う訳だ。


両名は侍女の巫女数名を引き連れて、都に訪れた。

巫女一行には数件の屋敷を貸し与えて、(きみ)との謁見まで待つように命じた。


「一体いつまで待たせるつもりなのじゃ!あの髭狸めは」

宗女サグメは、イライラしながら床をトントンと(つま)立てて言い放った。

周りの侍女の巫女達も、静かな怒りと焦燥感を(みなぎ)らせていた。


「“社主(やしろぬし)サグメ”よ、お静かに。この屋敷は囲まれて居りまする。不用意な言動はお慎みなさいませ」

隣に同席する老宗女イヅノメが、静かに注意を促した。


「宗女イヅノメよ。お主も口の利き方に気をつけるのだな。二度とその役職を口にするでないぞ!一旦、山依(やまゐ)國を離れてしまえば、社主(やしろぬし)はみな宗女よ。お主を一介の巫女から引き上げたのが誰だったのか、努々(ゆめゆめ)忘れるでないぞ」

横目でチラリと睨み付けながら、声を潜めてしかし口調は厳しく叱責した。


老宗女イヅノメは静かに(こうべ)を下げながら、深く思案に(ふけ)っていた。


一週間も屋敷に閉じ込めていると、さすがに宗女サグメは、屋敷詰めの衛士(えじ)を捉まえて激しく詰め寄った。

「いつまで屋敷に閉じ込めておく気じゃ!これ以上長引くようなら、山依(やまゐ)國に(ゆみ)引く逆賊として討伐致すゆえ、覚悟のほどを(キミ)に取り次いで参れ!」

取り巻く侍女の巫女達も、口汚く罵り騒ぎ始めた。


「その儀には及びませんぞ」

衛士(えじ)の奥から、王家の“國号紋”を掲げた使者が声を掛けてきた。


「明日、ウシ国(きみ)との謁見の儀をとり行うゆえ、準備して待たれよ。改めて迎えの使者を遣わす」

使者は巫女達が息巻く屋敷から、衛士(えじ)を連れ出した。

「明日じゃな!もしも…」

甲高い声が響く中、使者は振り返りもせずにその場を立ち去って行った。


「くっっっ…なんたる不敬!明日の謁見で、この屈辱を晴らしてくれる。必ずや後悔させてやるぞ!」

宗女サグメは、立ち去る使者の背に向けて言葉を吐き捨てた。


「ふはははははははは!」

使者の報告を受けた、デヲシヒコは豪快に笑い飛ばし、隣に控えていた俺に声を掛けた。


「ヲシリの申す通り女狐も本性を現してきたな。ところで先日申していた、三つの策のほうの準備は間に合いそうかのう?」

デヲシヒコも、進捗状況は承知の上だ。


「はい、ギリギリのところでしたね」

俺は端的に答えた。


「それでは、明日の首尾が楽しみであるな」

デヲシヒコはにやりと笑みを作りつつ、巫女達が滞在する屋敷のほうを見つめていた。


翌日は予定どおりの刻限に、使者は巫女達一行を引き連れて現れた。

国都の屋敷内にある“謁見の間”で、ウシノデヲシヒコに対して宗女サグメと老宗女イヅノメが拝謁することとなった。


この“謁見の間”は、以前に俺が初めて意識を取り戻した折の因縁(いんねん)の建物であった。

俺は事前に聞かされていた、上座から一段下がった直ぐ脇に控えて座った。

介添えに妹のマリアと初老の侍従長カラスが付き従っている。

下座には山門やまと國の宗女サグメとウシ國の老宗女イヅノメの二名だけが控えている。

残りの侍女の巫女達は、屋敷の外に控えさせた。


暫らくすると、銅鑼(どら)のような音色が響いたかと思うと、奥の扉からウシノデヲシヒコが重々しい威厳を伴なって現れた。


(『銅鐸(どうたく)』ってこんな使い方もするんだな)

俺は興味津々で大振りの銅鐸(どうたく)に目を注いでいた。


ウシノデヲシヒコは音色に合わせて、以前に俺が寝かされていた上座まで進むと、静かに腰を下ろした。

「これより謁見の儀を執り行う。山門(やまと)国の宗女サグメ並びに当地の宗女イヅノメよ。召集の(よし)、大儀である」


声を掛けられた下座の二人の宗女は、畏まった様子で深々と頭を下げた。

「しかし二人の宗女には、当ウシ國に対する逆賊たる罪の嫌疑が掛けられておる。申し開くこと在らば遠慮なく申してみよ」

ウシノデヲシヒコは威圧するかのように、やや前傾姿勢で重々しく問いただした。


先ず、口火を切ったのは、やはり山門(やまと)國の宗女サグメであった。

「ウシ國の(きみ)よ。(わらわ)山門(やまと)國の宗女と知っての扱いであろうな」

キッときつい目つきで睨むように、言い放ってきた。


隣に控えていた老宗女イヅノメも、語気を荒くして続けて言う。

「此度のように火雷神(ほのいかづちのかみ)などが、神聖な(やしろ)近くに現れるは、この国の治世の歪みが生み出した所業。(まこと)なる“日の神”に仕える者として、看過すること叶いませんぞ」


ウシノデヲシヒコは鷹揚に、そんな言葉を軽くあしらう様に言った。

「それではお待たせした。さぁ入られよ」


正面の大扉とは別の、脇に備えられた小振りの扉から、新たに神御衣(かむみそ)の若々しい女性が入室してきた。


入室してきた巫女を凝視した、山門(やまと)國の宗女サグメは思わず声を上げた。

「お前のような(わらわ)の侍女巫女風情が、何故(なにゆえ)この場におるのじゃ!」


シュルシュルと絹擦れの音を立てながら、俺たちが控える反対の席に腰を下ろすと、ウシノデヲシヒコに深々と頭を垂れて奏上した。

「ウシ國の(きみ)よ。初めてお目通り致します。()山依(やまゐ)國の巫女の宗守(そうもり)を務めまする『ウズメ』と申します。以後、お見知り置き下さいませ」


そして、下座の二人の巫女に向かって、軽く一瞥して言った。

「そなたらは何時から、宗女を名乗れるようになったのかの?」

先程まで鼻息荒く息巻いてた二人であったが、宗守(そうもり)のウズメが現れてからは、急に押し黙ってしまった。


これが第一の策であった。

(悪事の現場に上司を同席させるのは鉄板だな。それに宗女が何人も市井(しせい)に居る訳がないもんな)

若干の現代知識チートに該当するのかもしれないが、自衛のためだとそこは割り切った。


山依(やまゐ)國の宗守(そうもり)ウズメよ。()は巫女の序列とやらは良く分からん。改めて説明して貰えまいか?」

ウシノデヲシヒコは、重々しい言葉で脇に控える宗守(そうもり)のウズメに声を掛けた。


「噫ああぁ。それでは畏み申し上げます。先ずは我ら巫女がお仕えするのはまことなる“日の神”にてございます。そしてまことなる“日の神”のお言葉を承ることが出来るのは、巫女の頂点におわします『日巫女ひみこ』様のみでございます。そして『宗女そうじょ』様を名乗れるのは、後継者として拝命を受けたお一人だけでございます。高位の巫女は、宗守そうもりと称して“日巫女”様や“宗女”様にお支え致すのでございます」

山依やまゐ國の宗守(そうもり)ウズメは“日の神”の(やしろ)について、静かに奏上した。


「各地のやしろには日巫女ひみこ様から命じられて、やしろをお守りするための巫女が選ばれるのでございますが、(やしろ)あるじはあくまでまことなる“日の神”でございます」

下座の二人を一瞬厳しく見遣りながら言葉を続けた。


「もちろんやしろを管理するのには、巫女を束ねる者が必要ですので、特に社主やしろぬしを名乗らせておりますが、巫女の序列には関係のない役職でございます。なにしろ“日の神”を奉るやしろは、各国に多数ございますれば」


ウシ國の宗女、否…いまや一介の社主やしろぬしに過ぎないイヅノメは、非難するとも弁明するとも取れる言い方で反論してきた。

「確かに巫女としては、社主やしろぬしでございます。しかし()は見たのです!その脇に控える若王わかぎみ様に黄泉よみの悪神、火雷神ほのいかづちのかみが取り憑く様を!」


「このように申してるぞ、若王(わかぎみ)ヲシリよ」

ウシノデヲシヒコは予定調和の如く、俺に声を掛けてきた。


「はい。それではその悪神とやらを、ここに再現して見せましょう」

隣のマリアに目配せで合図をすると、奥から一枚の板を乗せた火鉢のような青銅器を運んで来て、皆に見えるように中心に据えた。


()の男子は皆、慣習に従って刺青(いれずみ)を入れます。身分の高いものは競う様に、全身に極彩色(ごくさいしき)刺青(いれずみ)を入れます」

見事な刺青(いれずみ)を全身に施した、父王ちちぎみを見遣りながら話を続ける。


「この板には()に施されていた、刺青(いれずみ)の顔料を並べて塗り込んでおります。それでは火鉢に火を入れてみましょう」

言葉に合わせて、マリアが火鉢に火を()べる。


俺は侍従長に合図を送ると、それを受けて別の方向に指示を出した。

頭上に見える天井の一画が、小さく開かれて行く。

そしてその一画からはチラチラと小振りの光と黒点が差し込んでいた。


すると火鉢からは高さ2メートルくらいまで炎が立ち昇り、その揺らめきの中に色とりどりの光が現れたかと思うと、まるで“雷神の顔”のように形を変えていくように見えた。


それを見た下座の二人は、座りながら腰を抜かしたように怯んでいた。

(そうか…少なくとも悪神を見たと主張していた、ウシ國の社主(やしろぬし)イヅノメの罪は多少減刑の余地が有るのかも知れないな)


俺が見せた現象は、化学物質の種類によって炎の燃焼色が異なる現象である。

“あの日の出来事”の光景を実際の状況に基づき、忠実に再現してみた。


それだけでは説得力に乏しい可能性を考慮して、屋根の一画から三つの黒点を塗った銅鏡を使って、三つの黒点を立ち上がる炎に向けて照らした。

人間は先入観から三つの点や丸を見るだけで人の顔に見えてしまう、いわゆるシミュラクラ現象を組み合わせてみた。

山林での落雷では、様々な木々の風景がその炎に映し出すに違いない。


更には屋根の一画は、事前に十分に冷やしておいて、炎が上昇気流で高く立ち上るように細工した。

当日に豪雨と落雷が起きたのなら、恐らくは気圧差で上昇気流が発生していただろう。


(特に先入観や信仰心が強ければ、雷神を見たと信じたい願望も強く作用するんだろうな)


「さて、皆さんにはこの火鉢の上に乗せた板に、悪神が取り憑いたと思いますか?」

その言葉を合図に、マリアは火鉢の火を落としてくれた。


こうして第二の策も見事に決まったのであった。

(これで俺の身の潔白は、証明できただろう)

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