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☆第一章のみ完☆【旧作】ヲシリが征く  作者: そうじ職人
第一章 山門國の陰謀
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#006 すごいよ!お祖父ちゃん

あの日以来、リハビリから清拭、そして食事という流れが、マリアとの共通の日課となっていた。

マリアの献身的なマッサージは、リハビリの回復過程を飛躍的に高めていった。


「今日は自分で食事をとってみるよ」

俺はマリアからお膳を受け取ろうとしたが、思ったほど力が入らず傾けてしまった。


マリアは俺がやらかすのを分かってたみたいに、手際よく支えてくれた。

「いくらお兄様でも、一足飛びにあれもこれもって、出来る訳ありませんわ」

マリアはちょっと()ねた表情で、珍しくちょっと怒って見せた。


「そうだったな。“りはーびり”はマリアと一緒にやっているんだもんな。じゃあ今日は、どこまで“りはーびり”してみようか?」

俺はもう十分すぎるほど、マリアを巻き込んでいることに改めて気づかされた。


マリアは真剣な表情で、口元に手をあてながら考えて言った。

「今日はお兄様が、(さじ)でお粥を(すく)うところから始めましょう」


俺は頷いて、マリアから(さじ)を受け取った。

指先にも力が入るようになったと思ったので、先程無茶をやらかしてしまったのだが、水平に持つことが思いのほか大変だった。

指に力を入れすぎると、木製の(さじ)はくるんっと一回転して、床に落ちてしまった。


「ハハハハハハハハ…」

照れ笑いでごまかしつつ、今度は力の配分に気を付けて再度チャレンジする。

(さじ)を器に入れて、お粥を載せて戻すだけ…そうは分かっていても、その動作は我ながらぎこちない。

お粥を(すく)うと、その分重量が重くなって、(すく)ったお粥は(さじ)に均一に乗ってもいない。

それでも慎重に口元へ運び、最後はつい口のほうを(さじ)に近づけて。多少強引にお粥を口に頬張った。


パチパチパチパチ!

マリアがすごい勢いで拍手してきた。

「凄いですわ、お兄様」


(うーん、さすがに凄くはないだろう…)

そんな気恥ずかしさがぎりながらも、先程までの力加減は、本当にきつかったのも事実だったと思い返した。

すると、すっとお粥の器をマリアは取り上げてしまった。


「はいっ、今日のお兄様の“りはーびり”はここまでです。これ以上続けていては、せっかくのお粥が冷め切ってしまいますわ」


言われて、(さじ)一杯の食事に時間を掛け過ぎていたことに、改めて気付かされた。

腕も心なしか、プルプルと小刻みに震えている。


「ここからはいつも通り、わたしが食べさせて差し上げますわ。お兄様、はいあ~ん…」


全く!そのネタどこで仕入れてきたのやら…。

「ご馳走様でした」

最後は両手を合わせて、食事を終えた。


食事も終わって、ようやくお楽しみのマリアとのお喋りタイムだ。


ここら辺で、この国の成り立ちについて触れてみたいと思う…っと言うのも、マリアもさすがに歴史の話は詳しくなかったからだ。

「次のお話までに調べてきますわ!」

マリアが分からなかったことが有る度に、律儀にふんすっ!と意気込んで、調べてきてくれたからに他ならない。

断片的に集まってきた情報が、ようやく多少は形になってきたっていうところだ。


どうやらウシ國建国の由来は、『牛国』で間違いないらしい。

元々は代々この辺りの(むら)を治めてきた一族だったが、数十年前に大きな戦争が起きたそうだ。


倭国(わこく)全域に亘って、ヤマヰ國連合とイズモ國連合が衝突してしまったため、戦火は全国に及んだ。

更に両陣営とも連合とは名ばかりで、一部では内戦化した地域もあったそうだ。


その戦争で一族を纏めて参戦したのが、先代の王…つまり『お祖父(じい)ちゃん』だった。

お祖父ちゃんは各地を転戦して、戦争でも活躍したそうだが、最大の功績となるのが、当時は秋津洲(あきつしま)…いわゆる本州にしか生息していなかった牛を戦利品として、大量に鹵獲してきたことに()る。


お祖父ちゃんは常々、(むら)や民を豊かにすることに心血を注いできたらしい。

だから当初は、戦争自体に大反対だったそうだ。

それでも戦争に参加したのは、自らの(むら)が戦火に巻き込まれないように、(あらかじ)め敵国の要衝を狙い撃つように出陣したからだそうだ。

そのため一族を始めとして、兵士達一人一人が作戦の意義を共有していたため、戦意は常に高揚していた。

また戦術も巧みであったため、(いくさ)は連戦連勝で、味方の被害も極めて軽微の内に進めることが出来た。


とある作戦では敵国の牛を使って、相手の戦線を崩壊に追い込んだことがあったそうだ。

お祖父ちゃんは、敗走する敵軍を追撃することはせずに、作戦に使った牛を再度集めて鹵獲した。

そして多数の牛を引き連れて、堂々と帰国の途に就いたそうだ。


そうして自国の安全を図ることに成功すると、それ以上は戦果を求めることもなしに戦争は終結した。


すると今度は(むら)の耕作に、牛を積極的に利用し始めた。

元々水利は良いが、荒れていたために放置されていた土地を中心に、牛を使って積極的に大規模な開墾をした。

すると数年で、(むら)も民も豊かになった。

そして(かね)てから構想を進めていた、牛を飼育する『畜産』の原型に着手していったそうだ。


それが噂になって、周辺国に伝わると人口の流入が始まった。

当然、先住者と流入者との(わだかま)りは深かった。

そこでお祖父ちゃんは、私闘の一切を禁止する御触れを出した。

更に新たに流入してきた者たちには、一定の賦役(ふえき)を課すだけで、未開拓の土地と牛を無償で貸し与えた。

すると10年も経ったころには、もはや(むら)って規模を大きく超えていたそうだ。


しかしその反面で、牛の重要性に目をつける野盗や周辺国が続出し始めた。


こうした外敵対策にも、お祖父ちゃんは抜かりがなかった。

流入してきた住民の賦役(ふえき)に、警邏(けいら)や兵役を課したのだ。

また牛舎や集落の周りには、牛を使って堀を巡らし、要衝には水城(みずき)を築いていった結果、気が付けば軍事的にも強国の仲間入りをしていたのだ。


これだけの下地を作ったうえで、友好的な有力豪族にのみ、牛の貸与をして、国益を着実に積み上げていった。

そんなお祖父ちゃんの真に凄いところは、牛の所有自体を既得権益として、他国に対して牛の貸与以上の便宜は一切行わなかったことだ。


そんな(かたく)なな一面がみられる中、ヤマヰ国を宗主国として臣従することには、一切の躊躇(ためら)いがなかったそうだ。

(むら)と民が豊かならば、それで良し」

それがお祖父ちゃんの一貫した姿勢だったそうだ。


ヤマヰ国からは、『ウシ國』の国号と国王であることを示す、『ヒコ』を名乗ることを認められた。

それは臣下の礼を示したことを意味するのだが、あまり気にもしてなかったと伝えられる。


ところで当初から“お祖父ちゃん”と呼んでいるが、名前が気になるところである。

父王ちちぎみも名前があったかどうかも知らないそうである。


そもそも、この(むら)の族長は代々“ヒコ”を襲名していたので、今更“ヒコ”と名乗れるようになったところで何も変わらない。

「ヒコヒコ?(わずら)わしい!」

寧ろ面倒だってことで、単に“ヒコ”と称し通したそうだ。


やっぱり凄い人だな!お祖父ちゃん。

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