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☆第一章のみ完☆【旧作】ヲシリが征く  作者: そうじ職人
第一章 山門國の陰謀
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#004 妹侍女のいる生活

まる一日は、白湯やお粥などが喉を通るのを診てから、別室に移されることになった。


やはり最初に寝かされていたのは、儀式や会議に使われるような特別な広間だったようだ。

移されたのは、同じ敷地内の屋敷の一室だった。


若王(わかぎみ)などと身分不相応な呼ばれ方をされていたので、どんな部屋に運ばれるものやら、と内心ヒヤヒヤしていたが、

運ばれたのは割りと簡素な、やや広めの6畳間っといったくらいの私室だった。


しかし物がないため、寝たきりの我が身には広すぎるくらいだ。

板間にかなりシッカリと作られた茣蓙(ござ)が引かれていて、寝床には更に柔らかく模様の入った茣蓙(ござ)が数枚重ねられた上に、白布が敷かれているだけだった。


ただ、上掛けはシルク仕立てで中には乾燥させた柔らかい香草が詰められていた。

この独特な香りには、鎮静効果や安眠効果があるようだった。

布団丸ごとの、アロマテラピーといった感じだ。

前世で売り出したらブームになりそうな逸品だ。


もっとも見た目は簡素とはいえ、仮にも一国の王の屋敷。

俺のような浅学では思いもよらない程、手間暇が掛けられてるのかも知れない。

それにしても、いくら若いといっても、文机(ふづくえ)一つない部屋というのは…。


(本当に質素なのでは?)

そう思わずにはいられなかった。


そんな鬱々とした日常の唯一の癒しは…。


「お兄様、お目覚めになったのですか?」

父王(ちちぎみ)が言っていた、安心できる側付(そばづ)きとは、実の妹の『マリア』だった。


因みに実際の会話は、もっと回りくどい言い回しだったり、良くわからない言葉が飛び交っている。

しかし勝手に、俺の中では開き直って脳内変換している。

実際、この世界の言葉は脳内の言語野に残されていたシナプスに感謝!ってくらいに、徐々に思い出してきているのだ。


だけど、どうしてもニュアンスが、上手く伝わってる気がしない。

つまり英語で会話してても一旦、日本語に翻訳して考えるっというような感覚に近いのかもしれない。


そんな言葉のことよりも何よりも、目の前の妹である。

(本当にあの父、ウシノデヲシヒコと血が繋がっているのか?)


そんな疑問が禁じ得ないほどの“超美少女”だ。

芸能界で“国民的(いもうと)オーディション優勝”ってキャッチフレーズで、十分にデヴュー出来そうな逸材である。


因みにこの娘には、父王(ちちぎみ)のように派手な刺青(いれずみ)どころか、化粧っ気一つないのが自然で良い。

衣装は、上質な絹で縫われた和服の着物を単衣(ひとえ)で着ている。

インナーには麻のような素材のワンピースを襦袢(じゅばん)替わりに着ているようで、襟まわりはボートカットに仕立てられ、ある意味現代的なアレンジの利いた着こなしに見える。


だから自然と会話は、こんな風に脳内変換されてしまうのだ。

「今日のお兄様は、なんだか楽しそうですわ。クスッ…今日はお粥にお肉や野菜も入ってますけど、食べられそうかしらぁ?」

寝たきりの俺に対しても、器用に上目遣いで訊ねてくる。


「あぁ、もちろん頂くよ。マリアのお陰で治りもはやい気がするからね」


「まぁ、お兄様ったら」

マリアは頬をほんのり赤く染めながら、俺の上体を起こしてくれる。


「ふぅーふー、お兄様、あ~んですわ」

粥の入った椀から木製の匙で、俺の口元まで運んでくれる。

俺は少しだけ上体を屈めて、お粥を啜るように食べる。


「うん、今日のお粥は一段と美味しいよ。ありがとう、マリア」

俺は動かなかった表情筋をこれでもか!ってくらいに力を入れて、ぎこちなく笑顔をつくる。


「マリアも、日々お兄様の体調が戻られて嬉しいですわ」

空になったお膳を片付けながら、飛びっきりの笑顔を浮かべてくれる。


そんな飛びっきり!の幸せをずーっと噛みしめ続けていたい。

そんな誘惑に駆られながらも、今後の展望にも想いを馳せねばならないのであった。

 

「お兄様、今日はどんなお話をいたしましょうか?」

マリアとの会話は、いまや食後の日課のようなものになっている。


そう、会話も立派なリハビリの一環だ。

この世界の言葉も、徐々に思い出せるようになってきたし、何より家族などの身近な人々の情報が分からないままでは、直ぐに支障をきたすことは目に見えている。

もっとも父王(ちちぎみ)からは、多少記憶に障害が残ってるくらいには、説明がなされているらしい。


今までの会話から、少しづつこの国のことや家族構成などが分かってきた。

先ず俺なんだが、真っ先に知りたい内容なのに、どうにもストレートには聞きづらい。

そこで周辺の情報から、回りくどい思いをしながら大体のことは聞くことが出来た。


先ず、これが一番大事。

俺の名前は、『ヲシリ』で間違いないらしい。

(声に出すときは、()()()()って感じなんだよなぁ)


俺はマリアに、なんで『ヲシリ』って名付けられたのか?訊いてみた。

マリアも軽く首を傾げて、何でなのか考え込んでしまった。


「お父様が名付けたんだから、直接お聞きになられては?」

ひとしきり考えた挙句に、そんな風に返されてしまった。


(それもそうだな、いずれ父王(ちちぎみ)には色々と訊くことになるんだろう)

そんな風に素直に納得してしまった。


「因みに、ウシ國の『うし』って、モーモーって啼く、大きな動物の『牛』で合ってる?」

それを聞いたマリアは、ツボったのかコロコロと笑い出してしまった。

(うーむ、結構真剣に訊いたんだけどなぁ)

マリアにはそのギャップが、逆に新鮮で面白かったのだ。


「じゃあ、俺の名前の『ウシノヲシリ』って、牛の尻尾って意味なのかな?」

とうとうマリアは、おなかを抱えて大声で笑い転げ出してしまった。


(そんなに俺の名前で、笑い転げなくたっていいだろう)

そんな俺の表情を見て取ってか、笑いを奥歯で嚙み殺すように抑えて答えてくれた。

「わたしたちは王家の一族なのですから、国の名前を冠するのは当然ですわ。わたしも正式には『ウシノマリア』ですのよ」


「じゃあ、父王(ちちぎみ)の『ウシノデヲシヒコ』ってどういう意味?」

マリアは得意気(とくいげ)に説明し始めた。

父王(ちちぎみ)の名前は『デヲシ』でしょ?だから『ウシノデヲシ』なんですけど、国王になると尊称として『ヒコ』を名乗る習わしがあるから、合わせて『ウシノデヲシヒコ』になるのですわ」


(なるほど、そういう感じで名乗ってるんだな)

俺もようやく合点がいったので、深く頷いて見せた。


「そう言えば父王(ちちぎみ)も、時々この部屋に顔を出してくれてたけど、最近はあんまり顔を見せてくれないね」

話が自然に父、デヲシヒコに逸れてしまったので、ついでとばかりに訊いてみた。


するとマリアは、チョッと心配そうな表情を浮かべながら教えてくれた。

「最近は急にご公務がお忙しい様子で、なんでもどこかの国からの使者と面会しては、難しそうな顔をなさってますわ」


俺は悪寒を覚えると共に、ヤマトの國の宗女サグメの冷ややかな目を思い出していた。


俺は話題を変えて、家族の年齢などの話を訊いてみた。

そこで初めて判明したのだが、俺は今年で12歳になるらしい。

(これまで自分自身をしっかり見た訳ではないけど、てっきり8~10歳くらいだと思ってた)


改めてみても、妹のほうがしっかりして見えてしまう。

ちなみにマリアは、今年で10歳になるとのこと。

(ただ、妙に10歳をアピってくるんだよなぁ…)


そして家族は自分の他には、

母が三人、14歳の兄が一人そして、妹のマリア、そして年の離れた弟が二人いるらしい。


(…ん?母親が三人?)

実はこの部屋に移ってから、家族とは一通り挨拶を交わしたはずだった。


(たしかに普通に母親らしく振舞っていた、女性が三人いたなぁ…)

しかし俺が生きていることを、心から感情を露わにしてまで、喜んでくれた人がいたようには見えなかった。


(嫌われてたのかなぁ…)


「ところで、俺を産んでくれた母さんって、三人の内の誰だったのかなぁ?」

結構聞きづらい質問だったが、意を決して訊いてみた。


「お兄様の母上は、産後の肥立ちが悪くって…。お兄様をお産みになって直ぐに、お亡くなりになったと聞いておりますわ」

マリアは気まずそうに答えてくれた。


「それでも父上は、お兄様の母上のことを心から愛していたのだと思いますわ。王家としての世継ぎが少ないのに、つい数年前まで側室すらお迎えになられませんでしたもの」


(??????)

「あれ?マリアって俺の妹なんだよね?」


「もちろんですわ」

マリアはニッコリと微笑みながら、続けて言った。


「お兄様はお亡くなりになられた、正室がお産みになられた嫡子(ちゃくし)。わたしと長兄(あに)は、当時側室だった母上が産んでくれた庶子(しょし)になりますわ。もっとも今でこそ、わたしの母上が正室となっていますが…」


「ち、ちょっ…ちょっと待って」

俺も頭の中が混乱してきて、話を遮って切り出した。

「ひょっとしてマリアって…」


マリアは飛びっきりの笑顔を見せて、こう言った。

「はいっ、お兄様の異母妹(いもうと)ですわ」

そうじ職人です。


いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。


本作の第2話・第3話につきましては、会話内容にを敢えて古語を交えております。


内容が分からないこともあろうかと存じましたが、異世界転生して言語の理解が出来ない?感覚を読者様に体感していただければと考え執筆させていただきました。

いかがでしたでしょうか?


第4話以降は、会話内容も読みやすくなると思いますので、引き続きのお付き合いを頂ければ幸いです。


今後とも、拙作をよろしくお願いいたします。

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