1 ー 8 負けないヒーロー
syde : ヒーロー《ツンドラ》
怪人は、癒しの雨で苦しんでいるようで。
逆に、ヒーローたちは、雨に打たれて傷が癒えている。
怪人の動きもこれまでよりは鈍く、弱々しい。
……それでも、勝てない。倒せない。
怪人に立ち向かっていくヒーローたち。
空から見れば、みんなボロボロだ。
それでも立ち上がり、立ち向かい、傷つき、吹き飛ばされていく。
仲間……というか、同じ町に暮らすヒーローたち……が、また傷つき、また倒れていく様子に、心が痛む。集中が乱れる。
……私も、あの中に加わりたいとさえ思う。
けれど、《ヒールレイン》の効果があるから、怪人は弱っていくし、ヒーローたちは立ち上がれる。
次々と倒れ、また立ち上がり、立ち向かっていくヒーローたちの姿に、どうしようもないほど涙が浮かんでくる。
集中しろ、私。
この雨がやんだら、ヒーローたちに勝ち目がなくなってしまうかもしれない。
みんなが傷ついていくのに、自分だけ安全な空で、傷一つつかない。
そんな状況に、視界が歪むが、歯を食いしばって雨を維持していく。
徐々に、雨が怪人に与える影響が深刻になってきたせいか、怪人の動きがさらに鈍くなり、ヒーローたちの攻撃が当たるようになってきた。
怪人の体に傷が付けば、雨がさらに侵食して、怪人が弱っていく。
このまま、雨を維持すれば。きっと。
…………そう、油断してしまった。
『避けろ!』
誰かの声が、響く。
目の前には、雨とヒーローたちの攻撃でボロボロになった怪人が。
爪を振り上げ、牙を剥いて、飛び上がってきた、怪人の姿が。
その爪に引き裂かれ、その牙に食いちぎられる、自分の姿を、幻視した。
「おっさん、そういうの、嫌いなんだよ!」
地上から飛んできた盾が怪人の顎にぶつかり、上を向く。
地上を見下ろせば、満身創痍のヒーローたちが、拳を突き上げている。
「「「いまだっ! やれっ! ヒーロー《ツンドラ》!!」」」
地上で見上げることしかできないヒーローたちに、任される。託される。
なら、やってやろうじゃない!
「無慈悲に貫け! 《アイスジャベリン》!!」
残った力を振り絞り、氷の槍を連射モードで発射する。
吹っ飛ぶ怪人。しかし、制御を手放した雨はやんでいる。
地上に落ちれば、最後の瞬間までまた猛威を振るうだろう。
だから、もう逃がさない。
「無慈悲に縛れ! 《アイスバインド》!!」
吹っ飛ぶ怪人に、氷の鎖を伸ばす。
腕も、足も、がんじがらめに縛り付け、凍りつかせる。
「無慈悲に砕けろ! 《アイスハンマー》!!」
最後の力を振り絞り、最大威力の氷塊を作り出し、加速して射出する。
氷の鎖に拘束され、逃げることもできずに氷塊に圧し潰される怪人。
その最後を見届けることもできず、力尽きて墜ちていった。