1 ー 6 空飛ぶヒーロー
syde : ヒーロー《ツンドラ》
「……いくよ、《ほうき星》」
授業中にも関わらず出動要請がかかり、すぐに変身して自身の相棒たる魔法の箒に語りかけ、飛び乗り、空へと飛び出す。
今回は、町立小学校と個人病院の2ヵ所にほぼ同時に怪人が出現したみたい。
町立小学校の方が怪人が強くて、個人病院の方は弱いとか。
一度小学校の方を見てから、個人病院の方へと飛翔する。
学校からはどちらも少し遠いけれど、ほうき星と一緒なら、すぐだ。
私が子どもだから、弱い方に行かされたのかと思ったら、そうではなかったみたい。
この響町で活動するヒーローは、移動の方法と速度に難がある人が多いそうで、空を飛ぶことで地形に左右されず素早く現地まで行けるのは私以外はほとんどいないみたい。
なので、遠くにいる弱い怪人をすぐに行って倒して、被害を無くすには、あなたの力が必要です。あなたにしかできないことです。と力説されて、先に弱い方を片付けることに。
弱いといっても、もう一体の怪人と比べれば弱い。というだけで、この町にでてくる怪人の中では、近年稀に見る強さなのだとか。
油断しないでとオペレーターのお兄さんに何度も言われたけれど、私が油断するなんてあり得ない。
いつでも全力全開で凍らせる。
それが、ヒーロー・ツンドラ。
それが、私だから。
個人病院にいたのは、キリンのような長い首が三つある、四足歩行の怪物だった。
大人の3倍はありそうな大きさで、駐車場の車を踏み潰し、食い破り、車を持ち上げ投げてぶつけて遊ぶように暴れていた。
「無慈悲に拒め、《アイスウォール》」
ひとまず、動きを止めるために怪物の四方に氷の壁を展開。
「無慈悲に凍えろ、《アイスレイン》」
続いて、当たった場所が凍りつく雨を降らす。
アイスレインは、表面を凍らせるだけにとどまらない。表皮を凍らせ、その下の肉も骨も血管も全て凍らせる、侵食する氷だ。
「無慈悲に砕けろ、《アイスハンマー》」
油断なく、十分に凍りついたことを確認してから、怪物の頭上に圧縮された巨大な氷の塊を展開し、加速して射出する。
氷の塊が当たるはしから見る間に砕けていく怪物に、勝利を予感する。しかし、砕き終わるまで油断はしない。
やがて、怪物の動きを止めていた氷の壁ごと怪物を砕き終えてようやく、倒したと安心できた。
再生能力持ちの可能性も考慮して、1分2分と現状を観察する。
……人と同じサイズの怪人より大型の、怪物を倒したのは初めて。
けれど、余力を残した状態で倒しきることができた。
……できた、よね?
どうにも、不安になる。
判断をあおぐために、《ヒーロー協会》のオペレーターに連絡を取れば、
『後の始末は我々でやりますので、すぐに町立小学校の方に向かってください! 既に複数のヒーローが戦っていますが、劣勢です!』
了解。と返事して、《ほうき星》で空を飛ぶ。
徒歩なら何10分もかかる距離でも、《ほうき星》で移動すれば1分もかからない。
たどり着いたその場所の光景に、絶句した。
怪人が発生するようになって、100年以上経っていると聞く。
そんな世の中だから、破壊され尽くした光景を見るのは、初めてじゃない。
でも、この目で直接、ここまで破壊された現場を見るのは、初めてかもしれない。
かつて通った小学校が、がれきの山になっていた。
校庭のあちこちに、大きな穴が空いていた。
そこら中に、見知った人たちが倒れていた。
倒れている彼ら彼女らは、この町のヒーローたち。
今もまだ、戦っているヒーローがいるけれど……。
回復は得意じゃないけど、やるしかないか。
集中しろ、私。
「…………大いなる、慈悲の、癒しを、《ヒールレイン》」
周辺に、癒しの力を含んだ雨を降らす。
これは、ヒーローや一般の人に対しては、癒しの効果を発揮するけれど、怪人や怪物に対しては、強酸の雨になる。
……なんで、癒しの雨で怪人が苦しむのか、まるで分からないけれども。
癒しの雨に当たったヒーローたちが、次々と起き上がり、立ち上がる。
これだけのヒーローたちが、力を合わせれば。
……そう、油断してしまった。