生まれ変わりは貴方の肩に
先輩はとても綺麗だった。ゆるく巻いてあるケアの行き届いたロングヘア。整形を疑うほどぱっちりとした二重瞼。いつもつやつやな爪。細いけど程よい筋肉のある足。いつもニコニコとしているのにどこか抱え込んでいるものがあるような表情。明るすぎない性格の先輩は所謂高嶺の花でこの三年間、恋人がいたことはなかった。そんな先輩を私は一目見た時から好きで、段々と先輩と関わっていくうちに更に好きになっていった。でも、先輩には好きな人がいて、それは到底私が敵うような人ではなかった。
部室に立ち込める制汗剤の混じった匂い。この匂いにどうしても慣れない。昨日の練習で忘れていってしまったものを取りに来た。それだけのつもりだったのだけれど。
「あ」
ドアの方から声がして思わず振り返る。
「先輩」
そこに立っていたのは先輩だった。
「忘れ物?」
「はい、昨日タオル忘れちゃって。しばらく部活ないんで取りにきました。先輩は?」
先輩は数歩部室の中に入って自分のロッカーの前でかがんだ。
「思い出をとりに」
ガチャン
先輩がロッカーを開ける音が響く。
「最近、体調崩してて来れなかったからさ、皆はもう取りに行ったって聞いて」
先輩はロッカーの中にあるものを次々と出して膝の上に乗せていく。そして最後にロッカーの扉から一枚の写真を剥がした。
「それって」
「これ?好きな人とのツーショット、内緒だよ」
先輩は写真をこちらに見せると悪戯っぽく笑った。
「じゃあ私もう戻るけど」
よっこらせと大量の荷物を抱えた先輩がドアの前で振り返る。
「私もう少しいます」
「そう?じゃあ鍵閉めよろしくね」
「はい」
先輩は荷物を抱えて去っていった。荷物が重いのか少し肩に力が入っている。あの腕の中に私の形跡はいくつあるのだろう。先輩がこれから先、生きていく上できっと私は記憶の片隅にすら残らない存在なのだろうと思う。連絡先もインスタグラムしか交換していない。あのアプリの中で私は何百人の中に埋もれて数年後にはきっとどこで関わりを持った誰なのか忘れられているだろう。それでもきっと先輩の好きな人の記憶は先輩の中に大きく残っていて、数年後、数十年後も恋をしていたことを思い出すのだろう。私もきっとそうなのだと思う。先輩に対する思いが恋なのか憧れなのか執着なのか今となってはもう知る術もないし、それらを全てひっくるめて恋だという人もいるだろう。分からなくても私は先輩を追っていたこの二年間を生涯忘れることはないと思う。いや、忘れるのかもしれない。本当に恋をしていたかも分からないたった二年間の話など。そんな未来のことなど分かる訳もなく、ただ今はどうにかこの苦しさから解放されたかった。
自分のロッカーを開ける。扉の内側には先輩とのツーショットが貼られている。先輩がこの写真に気付くことはなかったし、きっと先輩はこれを撮ったことすら忘れているだろう。それでも、この二年間私はどうしても先輩が好きだった。恋かどうかなんて分からなくてもどうしても。
先輩、私は貴方の抱えているものを全て知りたかった。写真に気付くくらいには気にかけてほしかった。我儘は言いません。少しでいいの。来世は少しだけ、気が向いた時でいいから私のことを気にかけてね。貴方が抱えているもの、全部私も一緒に抱えたい。




