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第3話 下泊駅と人狼

 そして、やってきたのは駅だった。私が居た世界なら新宿駅だろう。駅名を見たら『下泊駅』という聞いたことのない駅名になっていたけども。東京のことは良くわからないからこの駅の構造が普通の新宿駅とどう違うのかは分らなかった。

「さて。どこに居るかな」

「なにがです?」

「人狼だよ」

 イツカは鋭い眼を周囲に向けていた。さっきの話では吸血鬼というのは眼も良いらしい。視覚というか、眼でとらえたものの情報を感じ取る感覚が鋭いのだとか。良くわからないと言ったら「ものすごく眼が良いで良い」と諦められた。

「あっちかな」

 イツカにはなにが見えているのか。確かな確信を持っているかのように移動していく。

 駅の奥へ、階段を降り、地下へと入っていく。この駅はどうにも複雑な構造をしている。自分が今どこに居るのか良くわからない。ただ、すごい数の人間や亜人の流れが交錯している。

「本当にこんなところに居るんですか?」

「居るさ。むしろここに居る。お前の世界にも人狼の話くらいはあるだろ? あいつらは普段は普通の人間だ。『木を隠すなら森の中』っていうことわざはそっちにもあったか?」

「あったけど。こんな堂々としてるもんなんですか?」

「それくらい思い切りよくないとな。何せ私に狙われてるんだから」

 イツカはニヤリと笑っていた。ひどく邪悪な笑顔だった。ろくでもない女に関わった気がした。

「それに今は昼だ。やつらは一番力が弱まってる。今は隠れないとだめなわけだ。だからこそ、私は今狙ってるんだよ」

 なるほど、狼男は月の出る夜に力を増すとかいうあれか。確か月を見て変身するとかいう話だったがこの世界の人狼はどうなのだろうか。とにかく少なくとも月が出ていない今は力が弱いらしい。

 通路を進むと地下のホームに出た。切符は買っていなかったが、イツカが改札の機械を睨むとひとりでにバーが上がったので問題はなかった。明らかな犯罪行為だったが、私には逆らう権利はないのでどうしようもない。

 そして、ホームには人が溢れかえっていた。次の電車を待っているのだろう。

 イツカはそれを静かに見つめる。そして、やがて歩き出した。動きに迷いはなかった。

 そして、一人の男の前で足を止めた。それは学生だった。眼鏡の、気の弱そうな青年だった。大学生だろうか。彼はホームのベンチに座っていた。

 イツカが目の前に立っても青年は眼を合わせようとはしなかった。

「上手く変装したな。昨日はチンピラみたいだったのに。さすがに身体操作はお手の物か」

 青年は答えなかった。ただ、額から汗が流れ落ちていた。

「なな、なんのことでしょうか」

 青年は言う。

「しらばっくれるなら知らないけど。こっちは勝手に始めさせてもらうぞ」

「な、ななんの話か」

 青年の言葉にも応じず、イツカは思い切り右足を振り上げ、そしてそのまま青年にたたき下ろした。鈍い音とともにベンチがひしゃげる。

 しかし、そこに青年の姿はなかった。

 何事かと群衆がイツカに視線を向ける。そして、その群衆の真上に。

「こんな人ごみの真ん中で始めようってのか。イカれてやがる」

 天井に、まるで天井に立つように怪物がたたずんでいた。二本足で立つ狼。まさしく人狼。それが天井からイツカと私を見下ろしていた。

 声に気づいた群衆が天井を見て口々に叫び声を上げる。

「人狼だ!」

 どうやら人狼というのはこの世界でも珍しいものらしい。

 そして、イツカはベンチをかかと落として破壊している。どうやら恐るべき危険が発生していると人々は理解したらしい。我先にとホームから逃げ出し始める。その流れに加わることもなく、私とイツカは天井の怪物と対峙している。

「とっとと降参して『香炉』を渡した方が身のためだぞ」

「うるさい。お前は殺す。『香炉』はもう買手がついてんだ。こんなところで渡してたまるか」

「でかい口叩くなよ。負けた時みじめだぞ」

「やかましい!」

 そう言って人狼は恐ろしい速度で天井からイツカに向かって跳ねとんだ。イツカはさも当然のようにそれを受け止める。戦闘の開始だった。

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