EP7 神薙里菜
「じゃあ、もう私に逆らわない?約束できる?」
「わっ…わかったから勘弁して!」
私は、昔から……具体的に言うと、幼稚園の頃に男子を腕っぷしで従わせてからずっと、人を支配するのが好きだ。
でもドSってわけじゃない。ひたすら痛めつけても人の支配なんてできっこない。
だから、顔と言葉、アメとムでうまく人心を掌握する
友達なんて不明瞭なものより、こっちの方が学校生活を掌握するには簡単だ。
中学校を卒業する頃には、私は学年の過半数を支配することに成功していた。
だけど、高校ではどうやっても丸め込めない、メンタルも知能も桁違いな少女に出会った。
初めて友達を作ったのはそのときだった。
◇◇◇
「里奈さん、あの、大丈夫なのですか?」
「いいの、宿題ばっかりは貴方達は使えないわ、筆跡でバレちゃうもの」
「……分かりました、では失礼します」
私は一人、教室の中に居た。今はかなり提出物がピンチなのだ。
「さっさと終わらせないと、明日は遊びに行く約束をしてるのに」
私はノートにシャーペンを走らせる。新学校なだけあって、授業の進みもかなり早かった。
「……もう少し偏差値低くしても良かったかな?」
私はふと、外を見る。何か、背筋に悪寒が走った。
ピロンピロン
「……緊急地震速報、予想最大震度7、震源地は南海トラフ全体、推定マグニチュードは……」
私は目を疑った。同時に、地面が小さく振動する。
「……10……!?」
マグニチュード10は、チリ地震のときのマグニチュード9.5を上回る値だ。そもそもこれが地球で起こり得る地震の最大マグニチュードと言われているくらいだ。
それに震源はこの付近だ。
どんな状況になるかは、想像に難くなかった。
「…………っっ!!!?」
ガラスが割れ、床が軋み、ヒビが入る。周囲のものというものは倒れ、破壊し尽くされる。
天井もヒビが入り、校舎全体がボロボロとなった。
私は、息もできない痛みの中で、意識を手放した。
◇◇◇
――――――…
―――――――――――――……
10分……いや、15分は経ったかもしれない。
私は息絶え絶えになりながらも、瓦礫の下で生きていた。
脚は潰されて動かない。自分の下半身は見たくもなかった。
「…………あ………………」
海の方から、大きな濁流の音がする。津波だった。
「…………バイバイ」
◆◆◆
「……一応、聞きます。根拠は何かあるんですか?」
「そーねぇ、たまごサンドの話とか。そもそもあなた、たまごのこと知っていたの?」
「……んー……味は知ってるのに食べたことはないし、他は形も何も分からないです」
フィリアがわかるのは“味”だけ、しかし、味というのはかなり個人の主観に依存する。
好きな人が食べれば、それを旨味として感じるだろうし、嫌いな人が食べれば、それを雑味として認識するだろう。
体験したことないものを、完璧に予想するのはほぼ不可能だ。
天気予報もそうだが、必ずどこかでズレが生じる。いつまでも100%でいられるわけじゃない。
(だからこそよ、私の『支配者の目』を使っても、嘘はついているように見えないし、盗み取ったイメージと私が感じた味は、ほとんど同じだ。というか、この子を買ったときから違和感はあった)
私は、メイド服をきた、私と同い年くらいの少女を見つめた。
(この子の脳内で回り続けていた思考は、昔、私と同じ世界で暮らしていたことがあるなら、全て辻褄が合う、なら……
私と同じ、転生者?)
「あの……どうかしたんですか?」
「あっ……いや、何でもないわ」
私は慌てて、ぼーっとしていた状態から立ち直る。
どうせ、これから6年は一緒に居ることになるのだ。焦っても意味はない。
(時間をかけて探っていけばいい、失ったであろう記憶を戻しながら、ね)