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EP23 隻腕の少女

(大量の魔導書、借りてきちゃった……やっぱりまだ諦めたくない)


 とある家の中で、私は山積みの魔導書に目を向けた。


 これは今日図書館で借りてきたものだ。私が片腕しかないことは、町の人達は結構知っているはずだったが、今日受付にいた人、私のことをただ怪我した人だと思ってた。


「確かに、この辺で見たことある顔じゃなかったわね」


 私は羽織っていたマントを脱いで、近くのクローゼットにかける。


 隣の鏡に映るのは、右腕を失った私の身体。


 本来あるべきはずのものが欠けた不完全な体だ。


 ◇◇◇


 私の名前はシルズ。一ヶ月前くらいに東方の戦争に駆り出されて、そこで右腕を失った。


 もう傷口は塞がっているから、血が出てくることはないが、同時に、もう腕が生えてくることも二度とないだろう。


(スキルはまだ発展途上で、腕をもとに戻せるほど発達していないのに……)


 特定の個人が持っているようなユニークスキルは、私にはない。仮に持っていても、それが自分の腕を再生できるような代物ではないかもしれない。


 考えるだけ憂鬱になる。戦争さえなければ私はこんなこと考えずに、全力で自分の夢に走って行けていたかもしれないのに。




 私の夢、それは、最強の魔術師になること。


 もういつだったかも忘れたけど、魔法の園の話を聞いたときから、私はずっと魔術師に憧れていた。


 一般的な精霊術を土台にしたスキルではない。独自に発達した一味違った魔術を、自由自在に操り、


 長い時を生き続け、占いによって世界の運命も予見したと言われた、そんな魔術師と同列の存在になりたかった。


 ……だけど、今となってはそんな事、夢のまた夢だ。


 片腕しかないとなると、普通の人間が簡単に行える儀式すら、多重な労力をかけて行わなければならない。


 この調子じゃあ、何年かかるかわからない。だけど、私は性懲りもなく魔導書を借りてきてしまった。


 大人しく普通の勉強でもしていればよかったのかもしれないが、あいにく、私は普通の勉強なんてほとんどできなかった。恐らくは私の世代でも稀代のバカだと思う。


「あーあ、こんなことさっさと忘れちゃえばいいのに」


 ベッドの上に寝っ転がって、特に何かするわけでもなくぐうたらした。


 なんか、もう自分の将来なんてどうでも良くなってきた。最近はずっと近くの農家さんの手伝いをしているし、というか、そういうちょっとした雑用くらいしか出来ない。


 たまに友人も来てくれる。片腕がない欠陥品の人間なんて、売られても対して金にならないし、不本意だけど、これからの生活はほとんど保証されたようなものだ。


「友達にいろんなことを押し付けるのも、罪悪感は感じていても、私一人じゃ日常生活も苦労するから仕方ない…………って言っても、ただ自分を正当化しているだけだしねー」


 私は孤独を紛らわすために、独り言をつぶやく。その間にも時計は時を刻み続ける。


 しばらくした時、コンコンと、ドアをノックする音がした。




「……よお、大丈夫か?」


 来たのは、さっき言った友人の一人、バルコスだ。


「うん、また心配して来てくれたの?学業に専念すればいいのに」


「こっちのセリフだ。最近ずっと引きこもってんじゃねぇか、畑仕事は手伝っているみてぇだけど……」


 バルコスは、近くにあった魔導書に目を向ける。


「……あんまり言いたかねぇけど、もう諦めたらどうだよ……自分には向いてなかったって割り切っちまえば、それで終わりだろうがよ」


「わかってるよ……でも今の私が本気で取り組めそうなものって、これくらいしかないのよ……」


「別にいいんだ、責めたわけじゃねぇ」


 バルコスはそう言って、私に薬を渡した。最近になってよく見るようになった悪夢を抑えるための、私の精神安定剤だ。


 ありがとう、と言って、私はそれを受け取った。

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