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EP21 とある人間

「暇だなあ……本棚の整理とかをしていればいいのかな」


夜が明けて、私は一人図書館に居た。もともと居た司書の人はどこかに行ってしまった。夕方には帰ってくるらしい。


この図書館の主な利用者は、小さな子どもたちだ。この村には学校があるわけではないが、12歳になってから、公立学校に行くために、勉強する施設はしっかりとある。


なので、昼間はほぼ使う人が居ないので、その学校の時間が終わるまでここですることといえば大量の本をくすねて読んでいることくらいだ。


「方程式の解き方……あれ……読んでもわからない」


そして、最近本を読んでいて気がついたこと、それは、知識の復元には、その前提となる知識を先に復元しておく必要があるということだ。


例を挙げれば、面積や体積の求め方という知識を取り戻したいなら、まず先に掛け算のしかたを戻しておかないということだ。掛け算の仕方がわからないのに面積や体積を求められるっていうのは、よく考えればおかしな話だ。


「なにか前提となる知識が必要ってことね……順番通りにっていうのも面倒な話ね」


本の貸出や返却を行うフロントで、私は怠けた体制でずっと本を読んでいる。結構知識は戻ってきたんじゃないだろうか。


「あっ、誰か来た」


誰も来ないだろうと思って、ぼうっと入り口を見ていたら、一人の人間が図書館に入ってきた。黒い服に身を包んだ、私より少し背丈の高い人だ。


フロントを素通りして、本棚の方へ向かう。借りる本はもう決まっているらしい。


どんな本を借りるのか、少し気になる。面白そうだったら返却されたとき私も読もうと思う。


「これ、お願いします」


「はーい、3冊ね」


これはどうやらスキル関係の本らしい。それも、魔術という分野にフォーカスしたような感じだ。


そういえば、さっきからこの人右腕使わないし、左利きの人にしては手の動きがおぼつかない。本も両手で持ったほうが楽そうなのに、頑なに左手しか使わないのはなぜだろう。


「……あの、大丈夫ですか?」


「き、気にしないでください……ちょっと右腕を怪我しているだけなので……」


そう言いながら、左手で本を持った彼女が、カウンターの上に置いた袋の中に借りた3冊を詰め込んでいく。やっぱりかなり不便そうだ。


と、ここで私は、昨日掲示板のところで出会った、腕がなさそうな人物のことを思い出した。身なりも似ている、昨日会った本人なのではないだろうか?


「あの、もしかして昨日私と会ってませんか?」


「…………人違いじゃないですか……?」


……ま、ただの勘だし、合ってなくても別にいい。誰の片腕が吹っ飛んでいようと私には関係のないことだ。


「返却は一週間後でーす」


「はい」


そう言って、その人は出入り口から外に出た。やっぱり、袋を持っていたのは左手だった。怪我してると言っても、骨折しているわけではなさそうだし、袋を持つくらいできそうな感じはする。


「変な人……でも、今は多様性と言いますからねぇ……今っていつだったか忘れたけど」

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