EP9 「 」
世界を救え。
救世主様!
私に祝福を……
誰か、助けて!
いくつもの声が、脳内を駆け巡って止まらない。
私は、広く広がる世界の中を、一歩一歩歩いて行く。
『いつまでここにいるつもりだ?』
『ずっとでしょ。解放されるまで、私はずっと奴隷だよ』
『お前たちは、まだ出会うべき時ではない』
『リナ様とってこと?』
『お前の役割はあの魔王の奴隷ではない。世界の救世主、あれを、倒すことだ』
どこからともなく声が聞こえる。
私が、
倒す?
里菜様を?
『私には、分からない』
『道を正すのも、我らの責任だ』
カツン、と、何かに脚を引っ掛けた。
世界は無限に伸びていき、何も無くなった。
下も上も、右も左も前も後も何もかも。
まっしろ。
◆◆◆
里菜ちゃんは、私から見ても不思議な存在だった。
私が知り合う人のほとんどは里菜ちゃんの友達で、
里菜ちゃんの意見は、どんな時でも圧倒的な多数で可決されていた。
「里菜ちゃん、裏でクラスを牛耳ってるでしょ」
まぁ、それを不思議で済ませるほど、私は簡単な人間じゃない。
「バレた?私は昔から人を支配するのが大好きでね」
「こうもあっさり自白されると調子狂うなー……」
人を支配するのが好きって……少しやばめの人かと思ったけど、別に話してみればそんなことも無かった。
この人の知識量は、精神分野に関しては確実に私より長けていた。他は私に遥かに及ばないけどね。
「私は飲み込まれないよ?」
「知ってるわ。だからこっちも相応の手を尽くす。あなたを屈服させてみたいの」
さらっとすごいこと言っているが気にしない。私は特段人に流されやすいわけでもないし、特に心配はしなくてもいいだろう。
あれ?私はどうしていたんだっけ。
私はいつものように、学校に……
違う、私は……?
◆◆◆
まっしろな世界の中で、いくつもの言葉が反響する。
『『『救世主様』』』
彼らの意志は、私に何を望んでいる?
救世主?
『『『救世主様』』』
誰かに助けを求めている?なぜ私に求めている?
『『『救世主様、この世界をお救いください』』』
ああ、なんとなく分かった気がする。
私は、このためにこの世界に生まれたのだって。
◆◆◆
――――――――――…
ある日、一人の奴隷が、フランダムのとある一室で、忽然と姿を消した。
窓は鍵をかけて閉ざされており、ガラスを割られたわけでもなかった。
そこにあったのは、鈴の着いた首輪と、彼女が着ていたメイド服のみ、その他に、彼女に関連するものは何一つとして、残っていなかった。
◇◇◇
「…………ぉ-ぃ……おーい、起きてる?」
「……ここは…どこ…?」
私は、見覚えのない場所で目を覚ました。
真っ白な壁なんてどこにもないけど、私がずっと住んでいた家よりは、ずっとマシな造りだ。
「良かった、死んでないなくて。まあ死んでないのは知っていたけど」
「……あなたが、助けてくれたんですか?……あの真っ白な空間から……」
「真っ白?何言ってんのかわからないけど、あなたを見つけたのは川のほとりだよ」
あれは、やっぱり夢だったのだろうか。だけどただの夢じゃない。私の体は、現にさっきとは別の場所にある。
服は、メイド服の方ではなく、貫頭衣の方を着ていた。最初から私が身につけていたものらしい。
そして、首輪はいつの間にか消えていて、隷属術式による束縛感も感じられなかった。
正しく、すべてリセットされたような感じだ。
(リスタートかぁ……まあ、まったりやっていけばいいか)
私は、その時驚くほど落ち着いていた。心の奥底にある何かが、私を少しずつ変えていた。




