いざ、ダンジョンへ
俺が訓練所の床に大穴を開けてから、10日後ようやくダンジョン【初心者の試練】へと出発した。
予定より大幅に遅れはしたものの、概ね順調な旅だと言える。
ラブリーハーツ城を出て、西へ進みメダ川が見えてきたら北上して上流を目指す。
途中、悪鬼蜂やゴブリンに何度か遭遇したが、難なく倒す事ができた。
仲間が強い!これに尽きる。
俺も前よりは戦闘に参加できたと思う。
その他は特に変わった様子も無く無事にダンジョンに辿り着けそうだ。
「あっ!あそこだよ!」
キャロが息を弾ませ、走り出した。
前にキャロに聞いていたが、お城の離宮よりは少し小さいぐらいの巨石があった。
巨石をくり抜いた入口には、錆びてボロボロになった青銅のドアが立てかけてある。
レイとロイが慎重にドアを横へとずらし、暗く湿った巨石の中へと足を踏み入れたのだった。
《暗視》
ミュラーが仲間全員に魔法をかけてくれる。
すると、暗闇で何も見えなかった視界が良好になり、巨石内部が視認出来るようになった。
入口付近には石でできたテーブルがありカビた書類の山があった。かつては、受付だったのだろう。
我々は奥へと足を踏み入れる。賑やかだった頃の面影は当然無く、雑然とテーブルやらイス、コップや皿が散乱していた。
湿気とカビの匂いで顔を顰める。
さらに奥へと進む。
「広いな。」
そう、外から見た時も大きかったが、中もかなりの広さである。
巨石の奥へと進むにつれて、緩やかな傾斜になっており、最奥にダンジョンへと続く階段が姿を現した。
ここまでは魔獣の気配もなく足取りは軽かった。
「いよいよ、ダンジョンね?」
「あぁ。」
「皆、はぐれないように。気を引き締めないとな!」
各々、武器を手にし1段1段ゆっくりと階段を降りていく。
先頭を行くロイが手で制し、一同は足を止めた。
《探知》
シーフのスキルである《探知》はダンジョンの自分の居る階層の罠や宝箱の場所が分かるらしい。
便利で実用性のあるスキルだ。
「この階には、罠は無いね。宝箱は3個あるってさ!」
そう言うとまた、足を踏み出す。
ヒタヒタ、ペタペタ。
魔獣の足音だ。前方から複数の魔獣が現れた。
現れた魔獣は、川の近くだからか全身を青緑色の鱗が多い、槍を握っているが、その手は水掻きがついている。目は魚のようにギョロりと丸く、耳や鼻は無かった。変わりに大きな口が目に付いた。
「半魚人みたいだな…。」
「えぇ、そうね。彼等は【狩魚人】と言って、槍や弓で襲って来るわ。大きな目を持っているけどほとんど見えなかったハズよ!」
なるほど。ならば未だ此方に気が付いて無い可能性もあるのか。
初心者向けのダンジョンだからか、道は単純で隠れる場所の無い俺達には、視界不良の魔獣なら隙がつけそうだと、考えた。
「あの、魚美味しいにゃ。」
キャロの発言は、さらに気が緩んだのだった。
作戦でもと、提案しようとした俺を他所に
「行くぞ!」
一言発して、レイがいつもの様に双剣を手に【狩魚人】へと斬りこんだ。
あまり広くない通路だったので、後方より支援しようとするも、レイに当たりそうで俺は躊躇した。
敵陣の中にあって、踊る様なレイの剣技。白く長い髪が揺れ、時折見える金の双眸が見るものを惹き付けるのだ。
魔獣の襲来中に不謹慎ではあるし、俺は男に興味無いが…。見惚れてしまっていた。
「終わったぞ!」
「へ?」
気の抜けた声が出た。
レイ1人で充分だったらしい。
そりゃそうか。双剣マスター。だもんね。俺は納得せざるを得なかった。
「綺麗にゃ!料理しやすいように、おろされてるにゃ」
【狩魚人】の残骸を鼻歌交じりに集めているキャロに、逞しさを覚えた。
それから辺りを警戒しつ、さらに奥へと進む。
最初の角の奥に木製の宝箱が見えた!
ロイが進みでて宝箱を開ける。
俺達は、ロイの肩越しに覗き込み、固唾を飲んで見守る。
「ギィィ」
鍵もなく。罠もなく。呆気なく宝箱は開いた。
…カラカラに干からびたヤモギ草…ガロン芋の種…ベルベリーの種…それから、小さなスコップと木製のバケツ…。園芸グッズだろうか?
なんとも言えない空気の中、キャロだけはとても喜んでいた。
なんでも、ベルベリーは甘くて美味しいうえに、美肌効果と、眼精疲労にも良く大変貴重だと言っていた。
「貴重にゃ!奇跡にゃ!」
そう言って、神に感謝しながら、暫く飛び回って喜んでいた。
第1の宝箱がコレだろ…?
落胆しつつ歩いた。
「まぁ、次があるわよ…ね?」
今日もミュラーは優しい。
「魔獣調査が第一目的だろ?気にすんなよ!」
何だかんだで、ロイも優しい。
「問題ない。」
どうやら、レイも慰めてくれたみたいだった。
宝箱の中身は期待した物と違ったが、全部持って帰ることにした。
種はともかく、スコップやバケツは要らないんじゃ?と、思わなくも無いが。其れはそれ、これはこれらしい。
次の宝箱に期待したい。
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