お詫びじゃ足りない
……
長時間目を閉じて居たからか、眩しい。目の前は白1色と言っても良い。現状を把握すべく辺りを見回しても…。上下左右…白いだけ。他に何も無い。
白い空間と言う事は、まだ転生自体完了してないのでは無いか?と言う事は、帰れるかもしれない。
でも、どうやって?
顎に手をやり目を閉じて首を捻る。
思考という名の妄想の海にダイブ…。
「もしもしー?もしもーし!」
先程の声が聞こえてくる。
再び周りを見回してもそれらしき姿は無い。やはり白いだけ…。
心に直接話しかけてるのか?はたまた幻聴?
「もしもーし!」
声と同時に髪が引っ張られる。
引っ張られた方向に顔を向けると、ドアップに茶色と白の塊?否!鳥…?雀のような生き物がいた。
まさか…この鳥が神様だったりするのか?
「ようやく、お目覚めになられましたか。私ははてまるより派遣されました、人事とガイドを兼任しております。雀のウグイスと申します。」
喋った。しかも饒舌と言って良いと思う。
雀なのに…ウグイス?
「そう!私は、ウグイスなのです」
器用に小さな紙の束を見ながら、身振り手振りをつけながら話し始める。
「ソレでは御説明致します。その前にいくつか確認の質問を致しますのでお答え下さい。」
とりあえず、頷いとくか。怪しさ満点だけどな。
「まず最初に、自分の現世での死因は覚えて居ますか?」
「いいえ」
「次に、現世での生活に嫌気がさしていましたか?」
「いいえ」
「次に、現世で...…?」
「いいえ……」
………………現世絡みの大量の質問はどう言うわけか、全て「いいえ」だった。
その間、ウグイスは首を捻り冷や汗をかき…紙の束を何度も何度も穴が空くほど見返している。
「最後の質問ですが、あなたのお名前は?」
「俺の名前は………?」
おかしい名前が出てこない…。質問されてる間から思って居たが現世での記憶が曖昧になってきていた。
「「名前が出てこない?」」
カッとウグイスが目を開き。大量の汗をかき始める。
雀も汗かくんだな。とか、どうでもいい事を考えてると…
床に両羽を合わせ額を擦り付けはじめたのだった。
「大変申し訳ございません!心よりお詫び致します。」
「え?」
謝るウグイスと名もない俺。
理解の追いつかない俺に、ウグイスは今節丁寧に説明を始めたのだった。
「つまり、名前は現世の俺がまだ生きて寿命が残ってるって事?」
「左様でございます…」
ウグイスの説明によると、現世の身体に記憶の大半が管理され、記憶の最たる根幹が名前だと言う。
その状態での転生なので向こうの身体は生きてるが心が死んでいる?と言う状態らしい…結局つまり今の俺は名無しだ。
「なら元の身体に返してくれよ!」
「いゃいゃ…それが…できるというか?できないというか…。」
歯切れの悪い答えしか返ってこない。
「はてまるの世界でのミッションを達成すればあるいは…?」
頭を下げたまま。汗をかきつつ…試行錯誤しているようだ。ブツブツ呟きながら…震え始めたのだった。
絵面的に良くない構造。蹲り震える雀を見下ろす俺。
現世の俺の生死もかかっているが…この先の不安もある。
しばし眺める事数十分。
「とりあえず元に戻す手段は現状無いって事であってる?」
平静を装って言う。
「無い…。ですね。今の所…。」
途切れ途切れの答えがかえってくる。
「ならば、お詫びは申し上げられるだけじゃ…足りないよ?解ってるよね?」
優しくだが、語義を強めながら言う。
「それは重々に理解しております。ですが…人事とガイドで派遣の私には…どうする事もできず申し訳ございません」
「つまり、お詫びの品とかは、無いと?」
「ええ…そう…言う事になります…なにぶん、元々自由が売りな世界でして…」
なんて事だ…チートも無く転生とは…無理ゲーじゃない?
しばし沈黙が訪れたのだった。
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