休息
「ずーっと、誰も来にゃかったから、使えそうにゃ物とか種とか…使ったにゃぁ…ご…ゴメンにゃさい…。」
全て話し終えたキャロは、謝罪と共に大粒の涙を流し始めた。
無言でレイが立ち上がりキャロの背中を擦り、空いている方の手で涙を拭ってやる。何時になく優しい手つきだった。
「俺たちは怒って無いぜ?キャロが住んで家を綺麗にしてくれてたんだから…ありがとう。」
照れくさそうに頭をガシガシと掻きながら、リイが言った。その言葉に他の兄弟達も強く頷く。
泣きじゃくる、キャロを落ち着かせようと、務めて明るく振る舞う兄弟達を見て俺の心は暖かくなった。
とりあえず、話も終わり少しの間はこのフェンリル兄弟の家、今はキャロの家でもあるが、滞在する事になった。
その日の夕食は、キャロが貯めていた干した魚や、庭の畑で栽培されたガロン芋と言うとても大きな芋を、ティアが精霊にお願いして丸焼きにし、星の至る所で採れるやもぎでスープを作って食べた。
久しぶりの団欒に、キャロはその都度涙を浮かべ、それを優しく宥めるレイ、楽しませようと張り切る兄弟達の手によって楽しいものとなった。
後片付けを済ませ、今は各々でくつろいでいる。
俺は庭へ出て空を見上げていた。ハーケン村に居た時にも、夜空を見上げる事はあったが、燦然と輝く圧巻の星空を見たのは久しぶりの事だった。
白い部屋でも退屈で、転生してハーケン村に生活していた時も退屈だった。ボッチな前世で1人には慣れていたが、何時も俺の周りにはアニメやゲーム、スマホがあり退屈と思う暇がないぐらい依存していたんだろうな。
それにしても、腑に落ちない点が多々ある。
転生前にチートは無いと言い切られた事もそう。
何時までも名前が無かった事も不自然。
防御魂についても謎が深まる。何から、何を護っているのか?
この村もそうだ、フェンリル兄弟の話ぶりだと、ちょっとラブリーハーツ城で啓司の儀式を受けに行っただけ。そんな感じだったしな。
村の変わりようもそうだし、フェンリル達は何処へ?
あれからクロトはどうして居るのだろうか…。
ローエン爺やハーケン村は?
…そういや、着の身着のまま亭で誰かお金払ったのだろうか?払って無いなら次にラブリーハーツ城に行った時に払わないとな。…そういや俺って無一文?
お金の概念とかハーケン村には無かったからなぁ…。
食事も、服も全部ローエン爺が準備してくれてたな。
坊ちゃんと呼んで村人達も優しくしてくれた。懐かしいなぁ…。
クロトに攫われて村から出て、啓司の儀式も終わり、何故か使えた魔法に思いを馳せる。
何が起因で魔法が使えるのか頭を悩ませる。
改めてステータスを開いて見る事にした。
―――――――――――
名前 |シャイン
種族 プレイヤー
職業 吟遊詩人
Lv 非表示
転生 非表示
体力 9999 + 魔力 9999 + 俊敏 9999 + 運 9999+
称号 【ハテマル神の加護】【同帰者】【非表示】【姿見の聖女の祝福】
その他
ソードマスター・空想魔法師・アニソン・音・派遣ウグイス
お供聖獣 クロト(仮)
――――――――――――
やっぱり、吟遊詩人だよなぁ。
Lvや転生が非表示なのも気になるし、称号も1箇所非表示だ。
だが、なんと言っても1番気になるのは、その他だよなぁ。
ゆっくりと考えようと、その場に寝転んだ。
乾いた土の匂いとやもぎの匂いがする。慣れれば心地良い香りだ。目を閉じ思考の海に向かう。
ソードマスター…。剣なんか扱ったことも無いしな。
空想魔法師と言われても…。
アニソンや音に関しては吟遊詩人が関係しているのかもしれない。
派遣ウグイス…。懐かしいなぁ、茶色い頭を一生懸命擦り付けて土下座したり、冷や汗かいたり。
ウグイスとのあれやこれを思い出していた。
転生門が現れるまで世話になったんだよな。
そう言えばと、門をくぐる直前にウグイスが言っていた事を思い出した。
「魔法は想像力です」
確かにそう言っていたな…。
想像力…想像を現実に出せる…ンなわきゃないか。
それでも、その可能性を捨て切れなかった俺は想像してみる。
可愛い彼女、素敵な美女、綺麗な精霊…不意にミュラーの顔がチラついた。
《身体強化》強かったなぁ。
あんなに強く、防御魂も破壊できたのに何故、ずっとラブリーハーツ城に居たんだろう?
「それは、妾の事を言ってるのかしら?」
いつの間にか隣にミュラーが座っていた。
もしかして口に出ていたのか…。
慌てて起き上がろうとする俺をミュラーは手で制した。
「酒場での事は覚えいるかしら?」
「ああ、後で話があるって言ってたよな?」
「ええ、覚えていてくれて嬉しいわ。」
虹色の瞳が弧を細め、口元は弧を描く。
筆舌し難い美しさであった。
「何から、話そうかしら?」
そう言って小首を傾げる様は、満天の星空も相まって、夜の女神とでも表現するのがピッタリだと思った。
「そうね、まずは先程の貴方の疑問だけれど、妾が強いのは否定しない。防御魂も無意味であると、それも正しいわ。」
「なら、何故?」
「妾は、貴方が来るのを待っていた。」
勘違い野郎が爆誕してしまいそうなミュラーの台詞に目を見張ると共に、頬が朱に染まり体の熱が上昇するのが分かった。理性で勘違い野郎を押し留め、話の続きを待った。




