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違和感

 ラブリーハーツ王国を出て、悪鬼蜂を討伐しいよいよフェンリル兄弟の村まで後少しという所までやってきた。


 舗装されていない、田舎道ではあるが、荒廃も手伝ってか見通しはいい。道の先にポツポツと木造住宅が見えてきた。


 先を行く、レイとロイが村まで走り出す。


「おーい!啓司の儀式を終えて帰ってきたぞー!」


 村中に響き渡るほどの大きな声でロイが呼びかけるも、異様な静けさだけが辺りを包み込んでいる。

 人の気配…いや、生き物の気配が全く無いと言っても良いと思う。


 一同は不安な気持ちを抱えながら、村へと急ぐ。


 村の入口に立った時、皆言葉を失った。目の前に広がるのは廃村と化した村であった。

 道成に見えた数軒は住宅だった面影を残しているが、少し道から中に入ると、木枠だけ残して崩壊している家や、屋根が落ちている家達だった。


 フェンリル兄弟達は、自分たちの家があった村の奥へと向かった。俺たち残りのメンバーも兄弟達に続く。


 村の最奥の小高い場所にある、大きな石造りの建物の前で兄弟達は足をとめた。


「母さん?」


 ライが震える声で話しかける。

 兄弟の視線の先には、家の前にある小さな畑の手入れをする、1人の女獣人の姿が目に入った。

 話しかけられた彼女は作業を辞め、ゆっくりと振り向いた。


「失礼にゃ!アタシはまだ番も居なゃいわよ!」


 少し怒り気味の彼女は、猫の獣人を思わせるアイスブルーの猫目で鼻は少し低く全体的に可愛らしい印象である。明るいオレンジ色のポニーテールがフリフリ揺れて生き生きとしていた。


「何言ってんだ?」

「ここは俺たちフェンリルが暮らしていた場所だぞ?」


 フェンリル兄弟達が口々に言う。


「フェンリルなんて住んでなかったわ?」

「「「「「え?」」」」」


 何言ってるか分からないとばかりに首を傾げる彼女。

 驚きの声をあげるフェンリル兄弟。


「だって、アタシがココに来てからもう10年以上にゃなるのよ?そりゃ誰も居にゃいから勝手に住んで悪いとは思ってるのよ?」


 そんなとか、まさかとか…つぶやきながらフェンリル兄弟達は自分たちの家族について頭を悩ませている。

 小首を傾げ悩ませてる兄弟を尻目に、ティアが1歩前に歩みでる。


「ごめんなさいね?私はティアスイーツって言うの、ティアって呼んでくれたら嬉しいわ?ソレでお願いなんだけど、良ければここに来た当初の話とか聞かせてもらえたら助かるわ?」


「アタシは猫獣人のキャロルにゃ、話す事はかまわにゃいけど、出ては行けにゃいにゃ!」


 そう宣言したキャロは立ち話もなんだと言って、家の中に通してくれ、ホットミルクと干した小魚を準備してくれた。


 ラブリーハーツ城の西側付近に位置するメダ川上流辺りにある、地下型の5階層からなる()()()()()【初心者の試練】。

 そのダンジョンの1階部分は、大きな巨石をくり抜いてあって、受付や簡易な宿屋、オマケに食事までできる設備がとても充実した所だった。かつて()()()()()達が居た頃に、受付や宿を提供していたのがキャロの先祖らしい。


 ()()()()()が居なくなった後も、キャロ達一族はそこに住み続けて居たのだが、16年前から地下ダンジョンの魔獣の出現率が猫獣人達の手には余る量になり、住み続ける事が困難になり、数年間は拠点を持たず流浪の民としてさすらって居た。


 メダ皮付近は川の水が枯渇していた事も手伝ってか、岩場の陰が豊富で、隠れる場所にも事欠くことがなく、細く流れる川には小魚が住み着いていた。

 時折、大型魔獣にみつかり、移動を余儀なくされるも、概ね平和な暮らしをしていた。

 そんな暮らしを壊したのが、黒龍種である。


 空から飛来した黒龍種は逃げ惑う黒龍種達を追い詰め弄んだ。

 住処を変えても変えても毎日飛来する黒龍種。

 毎日飛来するのだから、戦える猫獣人の数も次第に減り、最後は大人たちによって岩場の奥へと隠されて居た子供達だけになった。


 親兄弟を亡くし、黒龍種に怯えるもお腹は減る。

 息を潜め、身を屈め岩場から出てきた子供達の目に映ったのは、遠くに見えるラブリーハーツ城だった。


 お城を見つけた子供達は無我夢中でお城に向かって走った。

 途中、悪鬼蜂の襲来があり、お城を目指す子供達は更に数を減らしていったのだ。

 キャロもその中に居たが、悪鬼蜂から逃れるために走り回り、そのうちに皆とはぐれ自分が何処に向かっているのかすら分からなくなった。

 悪鬼蜂の姿が見えなくなっても、後ろに迫っているのではないかという恐怖から走る足を止められなかった。


 そうして、どれだけ走ったか分からないが、()()フェンリル村の跡地へと辿り着いたのだった。


 辿り着いた時には、廃墟と化した家々があっただけ。人影はもちろん無かった。

 廃墟の中でも石造りのこの家は、キャロにとっての大きな救いとなった事だけは間違いなかった。


 それから10年以上、俺達が訪れるまで誰も来なかったらしい。




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