前代未聞
防御魂を笑顔で破壊した聖女ミュラーと儀式で知り合った仲間達。長く求めた名前と職業を手にした俺。
とりあえず、お城の街から出たものの当面あてもなく。ここから歩いて半日程の距離に、フェンリル兄弟の実家がある獣人族の村へと向かう事になったのだった。
「そういや…防御魂壊しちゃって大丈夫なのか?」
「大丈夫だけど大丈夫じゃない人達も居るかもね?」
俺の問いに曖昧な笑みを浮かべて答えるミュラー。
「そもそも防御魂があったらライ達の村に入る事できないんじゃ?」
「防御魂で護られてる所は、人間の城や街だけだから、俺たち獣人族の村もだけど、エルフの森やドワーフの地下迷宮は防御魂なんて無いんだ。」
当たり前の事のようにライは言う。
「え?」
「本当になんも知らんのじゃな?今回ワシらが人間の城の防御魂の中に行ったこと自体がじゃ、啓司の儀式のためだけなんじゃ」
俺の無知に対してガンディも驚いている。
「そうなのよ?啓司の儀式の時だけ特別に防御魂の
中に入れるの。その1度だけ入って外に出たら、もう、防御魂の中に入る事は出来ないのよ。」
ティアも当たり前のように言う。
そう考えると啓司の儀式がいかにこの世界に重要かが分かる。
「なんで人間だけ防御魂で護られたんだろう?」
「「「人間は脆いから」」」
満場一致の答えのようだ。
ただ1人を覗いては…。
「防御魂で護られてる…か…。」
ミュラーのつぶやきは俺にしか届いていないみたいだった。
防御魂を壊した時のキラキラした瞳が今は少しく陰って見えた。
「ミュラーは…」
「おーい!皆、気をつけろ!悪鬼蜂の群れだ!!」
俺の言葉を遮るように、先行していたレイとロイが走って帰ってきた。
その2人の後ろから、50センチ程の大きな蜂が無数に羽音をたてながら追ってくる。ざっと数えても2~30匹って所だろう。
悪鬼蜂とは、通常は花の蜜を集め生活しているが、交配期に雄の蜂数匹が女王の、寵愛を得るべくして争うために、肉食になり凶暴化すると言われている。蜂と言うだけあってお尻部分から毒針を出し、その毒を飛ばした攻撃を得意とする。厄介な事に針で刺したからと言ってその個体が死ぬこともない。と、クロトご言っていた事を思い出していた。
「交配期でも無いのに…どうして…。」
帰ってきた兄弟に駆け寄り合流しながら、戦う算段を練っていく。
皆既に武器を構えている。
悪鬼蜂が襲い来るより先に、ティアが精霊魔法で風をおこし進路を妨害し始めた。それが開戦の合図となり、戦いが始まる。
無数に現れる悪鬼蜂にライの矢が雨の如く降り注ぎ、踊るように双剣で蜂を薙ぎ倒すレイ。ガンディの破壊力は抜群で体の倍もありそうな大剣をいとも簡単に操っている。リイやルイも投擲や吹き矢で応戦している。
《身体強化!》
ミュラーからそう聞こえて、そちらを見やると、淡く青に発色した光を纏い…蜂を殴り飛ばしていた。
その横でロイが蜂からアイテムを抜き取っていた。
俺はと言うと…今回も遅れをとっていた。
魔法と言う魔法を使える訳でもなく。
職業 吟遊詩人 。
正直何ができるのかさっぱり分からない。
楽器も言わば現世でやったリコーダーですらまともに吹けない。では、歌はどうだろう?イジケボッチだった俺は、アニソンを心の中で歌う事はできても、人前では罵声が飛んでもいいレベルの音痴だ。音痴な俺の歌で悪鬼蜂が、退散してくれるなら…幾らでも歌うが、そんな優しい世界ではないだろう。
こんな時、大好きなアニメやゲームの主人公だったら…。
暫し空想に思いを馳せる。
閃いたのは炎を操り戦うナイトだ。
パチパチメラメラと燃え盛る炎の音色を連想する。
次の瞬間。俺の掌から赤くて真の青い炎か生み出されていた。
その炎を確認するやいなや…
「皆、伏せろおおおおお!」
叫ぶと同時に、仲間達が伏せる。確認した一瞬の後、手から出した炎を蜂の群れ目掛けて放っていた。
その効果は絶大で、跡形なく焼け焦げていた。
終わった…。
勝ったんだ!俺たちは!
「皆、お疲れ様!」
ミュラーのその声を聞いて、膝から崩れるようにその場に座り込んだ。
「ねぇ、さっきの魔法、吟遊詩人なんて嘘なんじゃないの?」
そう言ったのはティアだった。
この世界の 普通の吟遊詩人は、やはり俺のイメージ通り、音楽を奏でその音色で、仲間達の強化だったり魔獣に対して眠りや混乱など主に精神的ダメージを与える。サポート的ポジションらしい。
それを、何の楽器も持たず。更に歌も歌わず。街中で見せた足の早くなる身体強化や、城やさっきの戦いで見せた風や炎の魔法は前代未聞であると。
「なぁ、空想魔法師って知ってる?」
ステータス画面にあった気になることを聞いてみる。
「空想魔法師とは、思い描いた事を魔法で再現する事ができるとか言う?眉唾物の魔法師か!」
答えたのはリイだった。
「とにかく、空想魔法師とか夢みたいな事言ってないで、シャインの吟遊詩人の魔法は特別みたいだから、きちんと発動条件やらを考察する必要があるわね?」
ティアは半ば呆れながら、それでも冷静に言った。
「ああ、俺もそう思うよ。」
そうして、悪鬼蜂の退治も終わり、再びフェンリルの村に向かって歩き出したのであった。




