姿見の聖女(4)
シャラン シャラン
凛と静まる空気の中、右手を引かれレッドカーペットの上を俯きがちに歩いて来る、白いベールを被った女性に釘付けになる。白地に豪奢な金糸の刺繍が施され優美かつ洗練されている。
壇上まで近づいていくと、お付の者の手からシリアス王子の手へと変わり、中央の位置まで誘導されていく。
彼女が此方に向き直る。
「はてまる神よ、妾姿見の聖女を通じ、啓示の儀式
に参列する者に、神の子らに職を、輝ける未来へと、迷わず進めるように、祝福を!」
その瞬間会場は虹色の光に包まれる。
落ち着きのある女性の声、ありがたいと同時に胸が締め付けられる。これが聖女の力かとよく分からない俺でも感動した。
啓示の儀式終わったのか?
随分アッサリとしてて拍子抜けしたのは言うまでもない。
壇上では、シリアス王子と啓示の聖女が何やら始めていた。
「偽聖女ミュラーよ!貴様との婚約者を破棄する!」
まだ、それやるの?
げんなりとした表情で事の成り行きを見守る。
偽聖女と呼ばれた彼女の反応が気になったからだ。
ベールで隠されて表情は伺い知る事は出来ないが、深く傷ついているのだろう。僅かに震えているように見えた。
「シリアス様、何をもって、偽聖女と仰るのか、その理由を教えていただけますか?」
ゆっくりと落ち着いた声音。こんな状況でも彼女の声は澄んでいる。
「先の嘘くさい文言もそうだが、虹色の光だって妖しげな魔法を使っているのだろう!陰気に顔隠してるのはさぞや醜女なのだろう?そんな貴様が聖女で有るはずがなかろう!」
彼女を指さしながら王子は言い切った!
やはりと言うか、三文芝居である。静かに王子の台詞に耳を傾ける聖女と、民衆に気を良くした王子は更に言いつのる。
「何年も何年も啓示の儀式を執り行っても、陳腐な職業しか見出す事しかできてないのも立派な証拠だ!」
それには黙って聞いていた聴衆も我慢できなかったのか、次第に会場はざわめき始める。
「陳腐な職業で悪かったな!」
「その陳腐な職業の人のおかげで生活してんだろ!」
顔を顰める者、俯く者も多く見受けられる。
「シリアス王子様ぁ!ミルが儀式をしますからぁ。早くその偽聖女様を追い出してください!」
ざわめきを無視し、勝手に壇上に上がって行く。ピンクの髪をふわふわ揺らし…ブリブリのドレスに身を包み。
意気揚々とシリアス王子にしなだれかかる。
事の成り行きを傍観していたミュラーの口角が少し上がった気がした。
「ミルフィールよ!よく自分から名乗り出てくれた!この悪辣な女の前に出るのはさぞや怖かっただろう?」
「シリアス様のためですもの!ミルは全然怖くないですぅ。」
だろうな!
「衛兵!何してる!早く偽聖女ミュラーを追い出せ!ミルフィールが儀式をやり直すのでな!」
ところが、衛兵は誰も来ない。
予測の範疇である。
聴衆も怒りを顕にしている者の数の方が多く、広間から退出しようとする者まであらわれる始末だ。
俺はと言うと、儀式終わったんだよな?
魔法使えるかな?職業とかどうやって見るんだろ?とか、壇上の三文芝居にも飽きたので別の事に気をとばしていた。
「衛兵がやらぬなら、俺が追い出してやる!」
ミュラーに王子が手をかけようとしていた。
《暴風!》
心の中で台風の時の風をイメージしてみる。
ダメかぁ…。
ならば、風の音も一緒にイメージする。
ビュービューとか、ゴォーゴォーといった感じのやつだ。
同時に、何処からともなくソヨソヨと風が吹き始め、次第に暴風へと変わっていった。
その暴風で聖女ミュラーのベールが吹き飛んでいった…。
風に舞う白銀の髪に、桃色の唇。何より印象深いのは虹色の大きな瞳だった。絶世の美女と言うのは彼女のためにある言葉だと確信した。
運命の出会いを演出するかのような音色が心の中で流れてきた。
妙な高揚感と衝動で、壇上を目指し気が付いたら、彼女の手をとり走り出していた。
暴風と共に何故か色とりどりの花弁が舞っていた。
壇上には呆然と取り残される、王子とミルフィール、その傍には一応王子を護ろうとした宰相の姿があった。
「「「早く!出口へ!急いで!」」」
俺を呼ぶのは、儀式の前に会った、ライ兄弟、ガンディ、ティアスイーツだった。
彼等に誘導されながら、城の出口へと、聖女ミュラーを連れて走り抜けて行く。
もっと衛兵に邪魔されるかと思って居たのだが、何故か彼等は持ち場も離れず、警備を続けているのが異様な光景として目に映ったのだった。
結果としてみれば、すんなりお城から出る事ができたのだ。




