1ー6 黒猫と船
1ー6 黒猫と船
気がつくと俺は、草原の真ん中に立っていた。
見渡す限りの緑。
柔らかな草が風に吹かれてそよいでいる。
なんだか、こんな場所にいるとこの俺にも帰るべき場所があるような気がしてくる。
俺は、空を見上げて呟いた。
「広いな」
「ああ?」
肩にのっている黒い子猫が不満げな声をあげた。
「当たり前だ。このアロアナードをなんだと思っている。ここは、箱庭の世界なんかじゃないんだからな」
俺は、ふぅっとため息をついた。
この広い世界の中からマスターにいわれた例のものを探し出さなくてはいけないのか。
例のもの、というのは、5つに裂かれた魔王の肉体のことだ。
二年前に神の手によって魔王の肉体は、5つに裂かれた。
ちなみに魔王というのは旧人類の支配者であったもののことだ。
それは、新人類との戦いの中で肉体を失い転生をはたした。
だが、その転生体を神が滅しようとしたのだ。
なんとかマスターの力によって完全な消滅は避けられたのだが、魔王の肉体は5つに裂かれて異世界へと飛ばされてしまった。
マスターは、それを探して魔王を復活させるために俺を造った。
もちろん、肉体を復活させるだけでは魔王は復活しない。
その肉体に魔王の魂を戻さなくてはならない。
そして、その魂を宿しているのが俺の肩にちょこんとのっているこの黒い子猫だった。
こいつは、黒江という名の人造生命体だ。
本体は、別にある。
こいつ自身は、子機にすぎない。
こいつの本体は、全長900メートルの巨大な飛行船だった。
船の名前は、『サザンクロス』
かつて旧人類が異世界から今の世界に移民してきたときに彼らを運んだ移民船だ。
俺の使命は、こいつと共に魔王の肉体を取り戻し魔王を復活させることだった。
「マジで頭痛い」
「なんか言ったか?薫」
黒江が俺に偉そうに告げる。
「簡単なことだろうが?肉体のある場所はこの世界一優秀なだけでなく美しい黒猫である俺様が探知できるんだからな。お前は、それを回収するだけだ。ありがたく思って、ひれふすがいい」