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第05話 墓を見よ、その表はただ美しい、墓を覗け、されば骸をみるだろう

 窓を開けては閉めその向こうを確認などしながら、しばらく待つと、前掛けを外して、手や顔の汚れも綺麗に清められた姿で、先ほどの女性がゆっくりと歩いてきた。


「おまたせしまして申し訳ございません。司祭に仕えております、修道女のアンナと申します」

「恐れ入ります。改めてになりますが助祭のローレンス・レンテ・エントラスです。そしてこちらが同じ日に助祭に叙任されました」

 と彼が言葉を向けると

「助祭のバルトロマイ・ブルジェでございます」

「おなじく助祭、ケヴィンと申します」

 四人がそれぞれ正式な作法で礼をとり言葉を交わすのであった。


「サリバン司祭へのお目通りを希望されるということでよろしいですか」

「はい。これからお仕えするのですからご挨拶できればと思いまして」

 ローレンスの言葉に他の二人も頷いて、面会の希望だと伝える。

「かしこまりました。ですが、いま司祭はお休みでして。少々お待ちいただくことになるかと思いますがよろしいですか」

「もちろんです、こちらが取り次ぎもなく突然訪問したのですから」

 するとアンナはにっこりと笑顔を浮かべ

 

「では、司祭の執務室にてお待ちいただけますでしょうか。ご案内いたします」

「助かります」


 その言葉で四人は連れ立って、小聖堂の祭壇を挟んで反対側にある執務室へと移動することになった。

 そこは建物外側の見た目には似つかわしくないほど、清潔で整頓された一室だった。もちろん広さはそれほど大きくはない、部屋の奥には執務用と思われる大きな座り机と、いくぶん贅沢な椅子。その背後には本がぎっしりと詰められた本棚と、その右脇には比較的新しく作られた気配のある扉があり、きっと翼廊の奥へと続いた建物への入り口なのだろう。

 そして、部屋の中央にある古びたソファーと机の方へアンナが三人を導くと、座ってここで待つて欲しいと告げられた。


「いま、お茶をいれて参りますので、それを飲んで司祭の準備をお待ちいただけますか?」

「はい、もちろんです」


 部屋の奥だけではなく左右の壁にもみっしりと本が詰まった本棚あり、それをつい眺めてしまっていたローレンスと二人だったが、アンナの言葉に目線を戻し、了解の意を伝える。そうして、またアンナが出ていきティーカップとポッドをトレイに乗せて戻ってくるころには、ローレンスはこの部屋に何かとても落ち着く自分がいることに気がついた。


「では、司祭をお呼びしますので」

「はい」

「よろしくお願いします」

「急ぎではありませんので、どうぞお気兼ねなく」

 三人三様に答えを返すと、部屋にふわりと香りを漂わすお茶を、ゆっくりと飲み始める。


「思ったよりも、中は綺麗でしたね」

 バルトロマイがそうこぼすと

「ええ、最初はどうなることかと思いましたが、これなら少し安心です」

「少しだけなんだな」

 そう言ってケヴィンが混ぜっ返すが、二人はそしらぬ様子で会話を続けた。

「そういえば助祭も侍祭もいませんが、あの修道女、アンナでしたか? 彼女が仕えることで執務をまかなえているんでしょうか」

「それはどうかなローレンス殿」

 と、バルトロマイは言う。

「助祭でなければ、とは申しませんが、せめて侍祭の位がないと、諸々の手続きや儀式の補助など差し障りがあるはずですよ」

「諸々の、というと例えば?」

「そうですね、聖日の礼拝の補助や式典の時の」

 とそこまで言ってバルトロマイは思い起こす。

「バルトロマイ、彼女って教区ないんだよな?」

 そうだった、彼女は司祭でありながら教区も持たず、かといって本部の枢機卿や司教に直接仕える身でもないのだった、と。

「つまり、実質、助祭は必要ない?」

 ローレンスが眉をよせ、では自分の存在意義はいったいどこに、そう思った時だった。



『こらぁぁぁ! マギー!! いい加減に起きなさい! 客だって言ってんでしょぉがぁ!』

 ドンドンドンドンと太鼓でも鳴っているのかと錯覚しそうな勢いで、先ほどの扉を叩いているらしき音がこの執務室までにも響いてきたのだった。

 三人がピクリと反応するが、行動が早かったのはケヴィンだった。


  二マリと笑顔を浮かべ、二人へ顔をむけ人差し指を口にあてると、そぉっと忍び足で執務室の扉にへばりつき、そうして、ゆっくりと扉をあけることで隙間をつくり外の音を忍び聞こうとしたのだった。

(おい、ケヴィン)

(しーっ! 聞こえなくなるだろが)

(まったく君というものは。はしたないとは思わないのかね)


 諫めている口調ではあるが、何のことはない出遅れたローレンスもバルトロマイも、いまや扉の傍へとにじりよっていて、隙間の内側で三人が鈴なりになっていたのであった。


『どうせ、ひねたクソじじいとかしか来てないんでしょ!!』

『クソじじい言うな! せめて坊主と言え!』

『じゃあクソ坊主でしょうが!』

『今日のは違うわよ、もうちょっと若いんだから!』

『若いって、ひねたクソガキとか余計に質わりぃわ』


(なぁあれ聖女の声だよな?)

と、ひねてる方がつぶやくと

(あの部屋にいらっしゃるのが聖女でしたならさっきと同じ声ですから……)

 とひねてない方が答え

(しかし、あれではなんというか、どこかの下町の小娘ではありませんか)

 とひねてはいないがこじらせていそうな方が答える。

(いや、お前、聖女が賤民出だって知ってるだろうがよ)

(ああ、そうでしたね)

(たしかに。であれば、あれが聖女の素なんでしょうかね)


 三人がそんなやりとり(漫才)を続けている間にも、女性二人の会話は続いていた。

 

『クソガキもいたけど、一人はピッチピチの若い子よ!』

『ピッチピチって、酒場の女の売り言葉じゃねぇぞ!?』

 もはや罵詈雑言の嵐であった。


『たぶんあの子よ、あんたが欲しいって言ってたスレてないの』

 すると、奥からの罵声がピタリと止まる。

『……いくつぐらいよ?』

『たぶん八歳か九歳ぐらい』


(いえ、十歳です……)

 という本人のツッコミは彼女たちには届かない。

(お前やっぱほそっこいんだよ)

(言葉はともかくそこは同意ですね。だいたい修道院の食事はですね――)


『わかった。準備する』

 という声と共に、ガチャガチャと鍵の音がして、扉がキィと開く音がしたのだった。


(どうやら、今日なんとか会えそうですね)

(よかったじゃないかローレンス)

(ええ、ええ、たぶん……そうですね)

 

 力ない言葉を吐くローレンスと二人は、そうしてもう一度ソファーに座って、サリバン司祭を待つのであった。



活動報告に現時点での簡単な設定のようなものをUPさせていただきました。

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